閑話 男子会?


 鍋をほとんど食べられないまま食事が終わり、女子組が馬車の中に消えた後。

 俺ともう一人の男であるブレイドは夜番をするべく火を囲んだ。

 そして、ブレイドは最初の印象通り陽気な奴みたいで、ひっきりなしに話しかけてきた。

「いやー、それにしてもマジで助かったぜ! お前が入ってくれたおかげでパーティーで男一人の孤立状態を回避できたからな! マジで感謝だ!」

「それ馬車の中でも言ってたな。そんなに嫌か」

「いんや。別に嫌ってわけじゃねぇよ? ハーレムは男の夢だしな!」

「お前……そんな気持ちでステラに手を出したら、その先の人生をまともに生きられると思うなよ」

 殺気を込めてブレイドをにらみつける。

 だが、奴は「おお、怖!」とか言いながらひょうひょうと笑っていた。

「安心しろって。冗談だよ冗談。人の女を取るほど女に飢えてねぇし、何よりハーレムの魅力以上に男一人の肩身の狭さの方がつらいからな」

 「女子の世界に入られるとな、疎外感がすげぇんだよ」と遠い目で語るブレイド。

 そこにこいつなりの苦労が垣間見えた。

 というか、会話の中に人の女とかいう誤解発言があったんだが……スルーしておこう。

 別に深い意味はない。

「で? お前もうステラとヤッたのか?」

「ぶっ!?

 何の脈絡もなく、いきなり爆弾発言が飛んできて噴いた。

 待て待て!

 どこからそんな話が飛び出してきた!?

「お、その反応だとまだか? 昨日の夜、ステラがめかしこんでどっか行くのが見えたから、てっきりお前にいでもかけたもんだと思ってたんだけどな」

「違う。断じて違う……!」

 確かに昨日の夜、月明かりの下で見たステラはやたらとれいだったが、決して一線など越えていない!

「貴様、冗談も休み休み言え……!」

「えー、いいじゃねぇか。せっかく男の仲間ができたんだぜ? 男同士でしかできない下品な話とかしてぇじゃん」

 俺はしたくない!

 そういうのは当分先だ!

「それで? ベッドインのご予定は?」

「黙れ。黙ってちゃんと周囲を警戒しろ。俺達は夜番だぞ」

「だから堅いっての! ウチのじじいかお前は!」

「俺が堅いんじゃない。お前が不真面目すぎるんだ」

 夜番が警戒を怠ってどうする。

 いくら比較的安全な王都周辺の森とはいえ、俺はお前らと違って、そのへんの魔物相手でもドジれば死ねるんだぞ。

「かー! 爺が気に入るのもわかるぜ! あの爺も真面目の塊みたいなもんだからなぁ!」

「伝説の剣聖と一緒にされるとは光栄だな」

「なぁにが伝説の剣聖だよ。確かにすげぇ人なんだろうが、中身はただ口うるさいだけの普通の爺だぜ? 会う度に小言言ってきやがるし」

 どう考えても、小言を頂戴するようなことをしてるんだろうこいつが悪い。

 実際に他の場所でどうしてるのかは知らないが、ここまでの会話と態度だけでそう確信した。

「爺も実際に俺が魔族どもと戦ってるところ見れば見直すと思うんだけどなぁ。俺だって結構やるんだぜ? 魔族どもを千切っては投げ、千切っては投げだ! あいつらに苦戦なんてしたことねぇし!」

 苦戦したことがない、か。

 頼もしくもあるが、逆に少し不安でもあるな。

 苦戦したことがないってことは、強敵と戦ったことがないってことだ。

 大丈夫だろうか?

 不真面目さと合わせて心配になってきた。

「エルフの里に着く頃にはもう少し気を引き締めておけよ。多分、四天王は今までの魔族とは格が違うぞ」

「わかってるわかってる。相手にとって不足なしってやつだろ? 心配しなくても油断なんかしねぇよ」

 そんな気楽そうに言われても説得力がない……。

「つーか、今から戦いの心配してても仕方ねぇぞ。到着までそれなりに時間かかるんだからな。それより、もっと楽しい話しようぜ。俺の弟がうっかりステラの着替えのぞいて悩殺された時の話なんてどうよ?」

「……なんだと」

 聞き捨てならない情報に思わず殺気があふれ出す。

 それを見て手応えでも感じたのか、ブレイドはニヤリと嫌な笑みを浮かべて語りだした。

「あれは二年前、爺に『勇者様達との連携訓練に参加しろ』って言われて、だが断る! って思いながら、城から抜け出そうとしてた時のことだ」

 いや、何やってんだこいつ。

 訓練はちゃんとやれよ。

 そんなんだからルベルトさんに色々言われるんだぞ。

 だが、今はそれよりはるかに重大な話の途中だから余計な口は挟まない。

「出口に向かう途中で練兵場の近くを通ったんだが、そこから突然「うわぁあああ!」って叫び声が聞こえてな。なんだなんだと思って行ってみたら、ウチの弟が廊下の端で真っ赤な顔で放心してたわけよ」

「……それで?」

「弟の視線の先には一つの扉が。そして、その扉から出てくる訓練用の服に着替えたステラ。俺は全てを察した」

 俺は自分の額に青筋が浮かんでいくのを感じた。

 今度王都に寄った時は、その弟とやらとじっくりとお話ししなければならないようだ。

「ま、安心しろよ。弟は当時十歳のガキンチョだ。その一件以来いっちょ前にステラを意識して目で追うようになったが、ガキのすることにいちいち目くじら立てんな」

「立ててない」

うそつけ」

 ブレイドがリンやエルばあのようなニヤニヤとした目で俺を見る。

 くそっ、こいつもか。

 めんとはこのことだ。

「で、その数日後に初々しい反応をし始めた弟を誘って女湯の覗きに行ったんだが」

「は?」

「激しく抵抗するあいつを拘束しながら女湯に到着した後は傑作だったぜ。でダコみてぇになりながら手で顔隠してたんだが、誘惑に負けて指の間からチラチラ見てたからな」

「おい」

 俺の口から、かつてないほどドスの効いた声が出た。

 魔王を前にした時でもこんな声は出なかっただろう。

「まさかとは思うが、お前らが覗いた女湯にステラがいた、なんてことはないよな?」

「いたに決まってんだろ。そうじゃねぇと弟をからかえねぇじゃねぇか」

「貴様、そこに直れ」

 俺はこくてんまるを腰から引き抜き、容赦なくブレイドの首筋に振るった。

「うおっ!? わ、悪かった! 悪かったって! 実は俺、なんか弟に避けられててよ。仲直りするために一緒にバカなことしようとしただけなんだ!」

「遺言はそれでいいな」

 その後、俺は女子組との交代の時間までブレイドの命を狙い続けた。

 奴は反撃することなく防御に徹していたため、相手の力を利用する技が軒並み使えず、仕留め切れなかったのは痛恨の極みだ。

 次は、殺す!