電子書籍版特典ショートストーリー『花岡修太朗の休日』



「あ~思ってたより結構よかったな」


 防衛機構に入ってから、ありがたい事に休みが増えた。

 ダンジョンで身体を動かす事も増えたのでしっかり休めるのはうれしい。

 頻繁に筋肉痛に襲われるので、会社勤めの時より睡眠時間は増えている。

 初めは部屋で缶酎ハイ片手に動画をみたりして、休みを満喫していたけど、せっかく便利なところに引っ越してきたのにこのままでいいのか? という思いが湧いてきて、今日は思い切って映画館に来てみた。

 映画館に来るのは5年ぶりくらいだろうか。

 配信サービスを利用するようになってからは足が遠のいていたけど、他にやりたい事もないのでとりあえず映画館へと足を踏み入れる。

 やはり街中だけあって映画館も先進的というかかなり洒落ている。

 ただ、ノープランだったのでヒーロー物はやっていない。

 ちょうど時間的に良さそうなのが海外の恋愛物だったのでそれを観る事にした。

 周囲は若いカップルが多いように見受けられたけど、そこは気にしても仕方がないので映画に集中する。

 恋愛物を映画館で観るのは、もしかしたら初めてかもしれない。


「うん、よかったな」


 あまり期待はしていなかったけど、かなり良かった。

 映画って自分にはない物を体感できるのがいいところだよな。

 モテモテの主人公とか羨ましい限りだった。

 家と違い大きなスクリーンで観る映画はそれだけで特別感があり、思いっきり主人公に感情移入してしまったが、終わってしまうと現実を前に一抹の寂しさを感じてしまう。


「やっぱり映画館もいいな」


 家でダラダラ過ごすよりも、なんか休みを満喫している感がある。

 映画を観終わり、いい時間になったのでお腹も空いてきた。

 せっかくだし今日はこのまま外食といこう。

 出勤中は主にダンジョンだし、家ではコンビニ弁当だし、外食もそんなにしないのでお店は全然わからない。

 普段、焼き鳥と酎ハイがあれば満足しているし食への探究心も薄い。

 これでも昔はそれなりに色々新しいお店を探したりしていたけど、いつの間にかそれもなくなってしまっていた。

 久しぶりにラーメンもいいけど、この時間だとランチ的なのもありかな。

 この辺り詳しくはないけどお店はいっぱいありそうだし、歩いてるうちにどこかあるだろう。

 意識して探すとランチが食べれそうなお店はいっぱいある。

 いっぱいあるけど、どのお店も洒落ている。

 40の独身男がひとりで入るには洒落すぎていて入り辛い。

 そんな理由で何軒かスルーしていると、いかにも渋めで風情のある店構えの飲食店が目に入ってきた。


「蕎麦屋さんか」


 外から中を窺うと空席もありそうだ。


「ひとりなんですがいけますか?」

「はい、大丈夫です。おひとり様ご案内で~す」


 案内されたのはカウンター席。

 店内も長年営業している風情でなかなかいい感じだ。

 メニューを見るとランチはないけど、結構色々ある。

 蕎麦屋さんだし蕎麦は外せない。

 蕎麦と天ぷらのセットで千九百円。

 安くはないけど、思い切って注文してみた。

 10分ほどで俺の前には、蕎麦と天ぷらの盛り合わせが並んだ。

 うまそうだ。

 本格的な蕎麦を食べるのも久しぶりだな。


「ズズッ うん、うまいな」


 ツルツルとした蕎麦を噛むと適度な歯応えと、鼻へと蕎麦のいい香りが抜ける。

 少し甘めの出汁も、俺の好みでいい感じだ。

 天ぷらに箸を伸ばす。


「うん、これもうまいな」


 衣がサクサクで、揚げたてなので中は熱々だ。

 特に野菜の天ぷらは絶品だ

 これは当たりだな。

 奮発しただけあって、蕎麦も天ぷらも言うことなしだ。

 箸がすすむ。


「ん?」


 他のお客さんがビールを頼んでいるのが目に入ってくる。

 昼間だけど……。


「か~っ、うめえ~」


 うん、あの人の表情をみせられて、あの声を聞いてしまったら我慢するのは無理だ。


「すいません、レモン酎ハイをお願いします」


 昼間だからなのか……。

 この背徳感。

 ある意味たまらないスパイスになっているのか、いつもよりおいしい気がする。


「うまい」


 メインとも言うべき海老の天ぷらをつまみに昼レモン酎ハイ。

 最高だ。

 平日の昼下がり。

 久々の映画を楽しみ、たまたま入った蕎麦屋さんは当たり。

 レモン酎ハイ片手にうまい蕎麦と天ぷら。

 お財布には優しくないけど、かなり満足だ。

 コンビニ飯もいいけど、たまにはこういうのも悪くない。

 また休みの日に新しいお店を探してみるのもありだな。

 大満足で勘定を済ませようとすると、不意に声をかけられた。


「いつも応援してます」

「えっ?」

「配信で」

「あぁ、ありがとうございます」


 突然、店員さんに声をかけられて驚いたけど、どうやら防衛機構の配信を観てくれたらしい。

 こんな風に、知らない人から声をかけられたのは初めてだけど不思議な感じがする。

 まさか、こんなところで俺のことを知ってる人に会うとは思ってもみなかったな。

 蕎麦屋の店員さんも観てるとは、さすがは防衛機構だ。

 もしかして店員さん俺のインタビューとかも観てくれたんだろうか。

 もしそうなら、観てくれるのはありがたいけど、結構恥ずかしいな。