第0章 非モテサラリーマン 花岡修太朗二十五歳独身彼女無し



 最近のマイブームは家で飲むこと。

 社会人になってからは、会社関係で飲むことが時々ある。

 接待で飲むときもあるけど、同じ部署の人達と行くことの方が多い。

 学生の時とは違って部長を筆頭にはばひろい世代の人達と飲むのは結構楽しい。

 みんないい人なのもあるけど、自分とは違った知見を持った人たちと飲んでいるとその時だけは自分もしゆな人間になれた気がしていい気分になる。

 その反動ってわけでもないけど、家に帰るとなんとなく七じようの部屋が広く感じてしまうことが増えてきてしまった。

 彼女でもいればそんなことを感じることはないんだろうけど、もちろん社会人になっても彼女はいない。

 世間で言うところの彼女いない歴二十五年だ。

 今の時代、二十五歳で彼女すらいないってどうなんだと自分でも思うけど、こればかりはどうしようもない。

 お相手があってのことだから……。

 おっさん呼ばわりされた学生時代には社会人になれば、そういうお相手とも巡り合えたりなんてことを夢見ていた。

 だけど、二十五歳になった今も俺のあだ名はおっさんだ。

 俺の顔は二十五歳になった今でもねんれいとのかいをみせている。

 いったいなんさいになれば見た目通りの年齢となるんだろうか。

 もしかして死ぬまでけ顔のままなのか?

 いや、流石にそれはないと信じたい。

 つまりは、女性との出会いは全くない。

 そのかわり年上の男性にはかわいがってもらえることが多い気がする。

 おかげでサラリーマン生活もそれなりにやれている。

 職場で充実しているのに自分の部屋では特にやることがない。

 広く感じる部屋で一人梅酒を炭酸で割って飲む。

 梅酒を飲んだことはなかったけど、この前課長にすすめられて飲んだら結構おいしかったので最近のレギュラーだ。

「うん、いける」

 ちびちび飲みながらコンビニで買ってきた雑誌を読む。

「サラリーマンにおくるソロキャンパーのすすめか」

 そういうのも悪くないのかな。

 もう少し出歩いたほうがいいかとも思うけどだん仕事で結構歩くし仕事のないときは外に意識が行かない。

 そんな休日を過ごし、英気を養ったら仕事を頑張るだけだ。


「いや~花岡さんに頼まれたら断れないよね~」

「ありがとうございます。そう言っていただけると」

「そういえば、銀河のヒーローセイウンジャーのメモリアルボックス出るそうですよ。なつかしいですよね。花岡さんもお好きでしょ?」

「はい、もちろん」

「私らの世代にはズバリですよね~小学生の時に毎週見てたな~花岡さんもでしょ?」

「ええ……もちろんです」

「この歳になるとノスタルジーっていうんですかね。子供のころのがみように懐かしくなって予約しちゃいましたよ」

「そうですよね、わかります」

「それじゃあ、細かい事はまた今度める感じで」

「はい、よろしくお願いします。しっかりやらせてもらいます」

 やった。

 けいやくが取れた。

 担当のさばさんとはあいさつに伺うたびによくしてもらっている。

 以前、話の流れでヒーロー物の話題が出て以来、その話で盛り上がることも多い。

 そのおかげもあってか今日結構大きな契約をもらうことが出来た。

 ちなみにセイウンジャーというのは三十年くらい前の戦隊ヒーロー物だ。

 つまりは俺が産まれる前のヒーロー。

 動画でたことはあったので知ってはいるけど、鯖江さんの口ぶりからして俺もリアルタイム世代だと思われてたっぽいな。

 確かに俺の年齢を伝えたことはなかった気がするけど、俺のこと何歳だと思ってるんだろう。

 おそらくは十歳以上、上だと思われてるよな。

 多分鯖江さんは四十歳くらいだろうし。

 まあ、そんな細かいことを気にしても仕方がない。

 今日は契約取れたしおいしい梅酒が飲めそうだ。

 よし社にもどるか。

 このところ営業成績も順調だしいい感じだ。

 成果を手に上々の気分で歩いているとどこかから女の子の声が聞こえてきた。

「ええ~ん、あっち行って。いや、こないで。こないで~」

 ただ事ではない。

 辺りを見回すが、どこからだ?

「お願い、こないで~」

 あっちか。

 なまった身体に活を入れ全速力で走る。

 いた。

 女の子がいた。

 声の主は小学生くらいの女の子。

 そして女の子の前には大型と言って差しつかえないサイズの犬。

 おそらくはいぬだろう。

「グルウウウウウウゥ」

 明らかに興奮状態できばをむき女の子へとせまっている。

 でかい。

 特に犬に対して感はない。

 むしろ平時ならかわいがってやりたいくらいだ。

 ただ眼前で牙をむいている大型犬。

 つうこわい。

 いや、ちやちやこわい。

 大人の俺でもビビるおそろしさだ。

「ええ~ん。こないでよ~、なんでくるの~」

 ふ~っ。

 このままなら女の子がおそわれてしまう。

 ここには俺しかいない。

 やるか。

 やるしかない。

「おい! こっちだ、こっちにこい。そっちじゃないこっちだ!」

 野犬に向け目いっぱい声を張り上げる。

「えっ!?

 俺の声に反応して女の子と野犬がこちらへと顔を向ける。

 うわっ、野犬の目が血走ってる。

 やばい。犬ってもうじゆうだった?

 俺の知ってる犬の姿じゃない。

 完全にモンスター化してる。

「グルルルルゥゥゥゥ」

 低音のうなり声に背筋がこおる。

 あまりのきようひるみそうになるが、女の子の恐怖と驚きと期待が入り混じったような顔を見て踏みとどまる。

 大丈夫だ。

 もう大丈夫。

 怖かっただろうけどもう大丈夫だ。

 女の子の助けを求めるその顔に再び俺のヒーローマインドに火がともる。

 手をたたき大声で野犬の意識をひく。

 同時に女の子へ大丈夫だという意味をめて大きくうなずく。

「こっちだ。こっちだぞ~、ほら、ほら、ほらどっかにいってもいいんだぞ~!」

 次のしゆんかん、野犬がこちらへとけてきた。

 きた~~。

 本当は声に反応して去ってくれればよかったけど、女の子から引きがすという意味では成功だ。

 そくに背を向け、全速力で走る。

 何も考えずにとにかく走る。

 こんなに走ったのは中学生の時以来だ。

 その時と違ってかわぐつだけど、そんなことは関係ない。

「グルルルルハッハッハッハッ」

 背後に野犬のいきづかいと足音を感じる。

 力技で方向てんかんしながら必死にげるが、ああ無情。

 社会人になってから運動というものを一切してこなかった俺の肉体、特に肺が早々に限界をむかえてしまう。

 逃げ切れない。

 何秒経過しただろうか。

 さっきの場所からはそれなりにはなれたと思うけどこのままじゃ逃げ切れない。

「はぁはぁはぁはぁ」

 やりたくはない。

 だけどやるしかない。

 俺はかくを決め足を止め背後に反転し迫る野犬に向け手に持っていたビジネスバッグをたたきつける。

「ギャウンッ」

 運良く当たった。

 いつしゆんあわい期待をいたものの現実はそんなにあまくない。

 浅かったのか野犬は即座に立て直しはんげきしてきた。

 ビジネスバッグを武器に応戦するが、ろくにけんもしたことがない俺にいかくるった野犬を防ぐ術はなかった。

「いって~~~!」

 激痛が走る。

 ビジネスバッグをくぐり野犬は俺の足にみついてきた。

 野犬の犬歯がパンツをかんつうし足のやぶる。

「ふざけんな。くそっ、離れろ。離れろよ!」

 野犬は俺の足を食いちぎろうとしているのか噛みついたまま頭をろうとしてくる。

 じようだんじゃない。

 とんでもない痛みが襲ってくるが、野犬はすぐ目の前にいる、

 ちゆうで野犬の頭部に向けビジネスバッグを何度もたたきつける。

 ノートパソコンの入ったバッグはそれなりの重さがある。

「離せ! 離せよ! 離せ~~!」

 何度目かにバッグの角がいいところにヒットしたのか野犬がふらつきながら離れてくれた。

「ギャイイイン」

 必死にバッグを振るいついげきを入れると野犬は、しっぽを下げその場からふらふらと去っていった。

「ふぅふぅふぅ」

 終わった。

 痛い。ちやちや痛い。何なんだあの犬。

 あんなのがいるってここは世紀末か?

 ヤバすぎる。

 野犬怖すぎるだろ。

 あしを確認するとパンツには大きな穴が開き、皮膚にはしっかり歯型が。

 そこからは結構血が流れ出ている。

 これ、大丈夫なのか?

 いや、どう考えても大丈夫じゃない。

 病院に行かなきゃ。

 だけどその前に女の子。

 女の子の所に行かないと。

 脚を引きずりながら女の子のいた場所に戻ると、そこにはもう誰もいなかった。

「まあ、そうだよな。でもよかった」

 さっきのじようきようなら野犬が去った段階で逃げるよな。

 あの女の子が野犬に噛まれていたと思うと、こんなものでは済まなかっただろう。

 柄にもなく張り切ってしまったせいでとんでもなく脚は痛いけど、女の子ひとり救えたと思えば、意味はあったと思いたい。

 今の俺は昔憧れたヒーローっぽかったかな。

 いや、そんなカッコいいものじゃないけど、そう思っておいてもばちは当たらないだろう。

 それより会社に電話して病院だな。

 変な病気にかかってなきゃいいけど。

 あ……結構思いっきりたたきつけたけどバッグの中のパソコン大丈夫かな。


 あれからも仕事で何度か現場の近くを通ることがあるけど、毎回野犬がいないかびくびくしながら足早に去ることにしている。

 俺はあれ以来完全に犬ぎらいになってしまった。

 今では完全なねこ派だ。

 あれ以来あの女の子を見かけることはないけど、俺みたいに犬きようしようになってなきゃいいけどな。