うん、これはあれか。
この状況、経験したことがないので全く理解が追い付かないけど、四十年も生きていればわかる。
いや、そういう問題じゃない。
警察か。警察に行った方がいいか。
自首した方がいいのか。
だけど記憶が無いから何も話す事がない。
「うぅ~ん、りんたろ~起きたの~?」
「え、あ、はい」
凛が
人生初土下座がこんなシチュエーションだとは想像もできなかったけど身体が勝手に反応してしまった。
「え~っと、りんたろ~どうしたのかな~」
どうしたもこうしたもない。
「
「う~ん、なにが~?」
「この花岡修太朗、どんな
「とがめ? りんたろ~なんで土下座なんかしてるの~?」
「それは、もちろん凛さんにとんでもないことを」
「とんでもないこと~? あ~もしかして~。りんたろ~昨日は
強引……。
その言葉に一気に全身の血の気が引く。
「申し訳ありませんでした~」
「
脱がすの? 俺が脱がしたのか? ああああっ。
「煮るなり焼くなり警察に
「りんたろ~そんなことするわけないでしょ~。昨日は飲みすぎちゃったね~。ウィスキーなんか飲ませてごめんね~」
「いえ、悪いのはすべて俺です。
「りんたろ~っておもしろいね。大丈夫、大丈夫。問題な~し」
問題な~しって問題しかないと思われるんだけど。
「あ~お
「今何時ですか?」
「今四時半かな~。ちょっと早いけどわたしが作ってあげるよ~」
凛が俺にご飯を作ってくれる?
これってどういう状況?
服を脱がせてお風呂に入らず今は朝の四時。
なぜか凛は
全く分からない。
「怒ってないんですか?」
「怒る? なんで~? わたしがりんたろ~に怒るわけないでしょ~」
怒ってない……のか?
俺やらかしたんじゃないのか?
やばい。
「りんたろ~それより服着た方がいいかも」
「あ、はい」
四十のオッサンが下着姿でベッドに正座。
これほどシュールな図も無いかもしれないけど、起き上がった凛さんの恰好も
先程死ぬほど反省したばかりというのに目が
凛のその姿は
「りんたろ~できたよ~」
はっ!
再び意識を取り戻すと目の前に凛の姿はなかった。
急いで服を着て声の方へ向かうと、そこには朝食らしき食事が二人分と凛が
「失礼します」
「どうぞめしあがれ~」
凛に
「ところで、ここは……」
「ここは、わたしのおうちで~す」
「凛の……え~っと家族の方は」
「一人暮らしで~す」
うん、完全にアウトだ。
ひとり暮らしの若い女性の家に酔って上がり
「凛さん、昨日の記憶があまりないのですが俺はどうしてここに」
「それはね~りんたろ~が自分で帰れそうになかったから、ここに連れてきてあげたの~」
ああ……。
何で凛はこんなにライトな感じなんだ。
さっきの恰好といい、一人暮らしの若い女性が無防備すぎる。
「申し訳ありませんでした」
「ぜんぜんいいよ~。いつでもきてくれていいから~。
うん……。これはジェネレーションギャップからくるものなのだろうか。凛に返す言葉が思いつかない。
「…………」
「なんたって、りんたろ~はわたしのヒーローだし」
酔いつぶれた俺がヒーロー? しかもりんたろ~って誰だ? 俺、修太朗だけど。もしかして誰かと
「リリィン~リリィンリリィン~リリィン」
あ、そういえばスマホの音で目が覚めたんだった。
こんな早朝にいったいだれだ?
「はい、もしもし……」
通話に出るとそれは防衛機構からだった。
ダンジョンでイレギュラーのモンスターが出てきてしまったらしく近くにいそうな職員に呼び出しをかけたらしい。
「はい、わかりました」
通話を終え凛に事情を説明する。
「え~せっかくりんたろ~といっしょにごはんだったのに~」
「こういうことってよくあるんですか?」
「あんまりないかな~。今までに四回だけ呼ばれたことあるけどこんな早朝は初めて~」
「そうなんですね。じゃあ、本当に
「他の職員もいるだろうし大丈夫でしょ~。せっかくだからわたしも一緒に行ってあげる~」
色々ありすぎて混乱状態と言っても過言ではないけど、仕事は仕事だ。どうやら警察に出頭する感じでもないし今は自分の役目を果たさないといけない。
二人で急いで準備を済ませ防衛機構へと出勤する。
足がふらつくほどではないけど、結構残ってるかも。
二日酔いが
休日出勤があるなら、これからは深酒は
いや、休日出勤が無くても控えた方がいいな。
防衛機構へと着くと、
話を聞くと、この時刻なので実働部隊は、ほとんど事務所には残っておらず管理部からすぐに集まれそうな隊員へと
本来俺は近くの
ただ、時間も時間なので
イレギュラーの
急いで装備を整えなおす。
「りんたろ~さっさとおわっちゃお~」
俺は初めての事で勝手がわからないけど凛はかなり落ち着いているようだし大丈夫なんだろう。
既に先発隊はダンジョンに入っているとのことでその場にいた隊員たちとダンジョンへと急ぐ。
「りんたろ~、ちょっとまって~」
凛が苦しそうにしているけど、実は俺もかなり苦しい。昨日あれだけお酒を飲んでいたんだ。全力で走って苦しくないはずはない。
この
何とか
地上へモンスターが
隊員が一団となってダンジョンへと降りていく。
降りた先にはモンスターも先発隊も見当たらない。
もっと
そのままダンジョンの一階層を進んで行くが、特別変わった様子もない。
「よし、このまま二階層へと向かうぞ」
一団の先頭を歩いている隊員の
「この
階段を降りはじめると、隊員達の
「各自
その声に即座に反応し、詠唱を開始する。
ここからでは敵が分からない以上これが正解だと思う。
「古今東西の
身体から金色の光が立ち上る。
「凛行こう」
「はいはい、休日出勤の
二階層に着くとそこは戦場だった。
これまで
しかも、二階層、三階層でも見たことのないモンスターも混じっている。
それを十五名ほどの隊員が押しとどめていた。
よく見ると湊隊長もいる。
隊員に対しモンスターの数が多い。
とにかく今は自分のできることをするしかない。
先発隊の横を
やはりこの剣はすごい。
見たことのないモンスターなのでおそらくは四階層より下層のモンスターだとは思うけどあっさりと断ち切れた。
まだ、お酒が抜けたわけではないので、力加減が
迫ってくるモンスターから順番に斬っていく。
〝おわあっ、なんかすごいのきた〟
〝一人すごいペースでモンスター斬ってるやつがいる〟
〝なにあれ〟
〝救世主〟
〝あれは!? まさか修太朗様〟
〝修太朗? 有名人か?
〝
〝
俺はモンスターへと集中していたので全く気が付かなかったけど、
一息つくとこちらにカメラのレンズが向いていた。
こんな時まで
「ふっ、はっ」
魔法の効果で
正直二日酔いの状態でモンスターと戦うものではない。
〝剣神降臨〟
〝ベテランエースか〟
〝ああ見えてデビューしたてのド新人〟
〝あんな新人おるはずないやろ。どう見てもオッサンやん〟
〝いや完全にイケオジ〟
〝なんか金色の
〝せめて闘気だろ。妖気は草〟
〝きゃ~修様~〟
「はぁ、はぁ、はぁ」
結構斬って
のどが
モンスターは順調に倒すことが出来ている。一
今までの運動不足がたたってる。
『ギリスマティ』により体力も強化されてはいるはずだけど、他のステータスの
それにお酒が抜けきってないのもつらい。
このままじゃ
いったん体力を回復するためにも魔法による
目の前のモンスターを斬り飛ばしてから後方へと下がり、詠唱を始める。
「天空より降りたる剣、大地を切り
この数のモンスターだ、今は
といっても自分で使用したことは無く、あくまでも生徒が練習で使っているのを見ただけだけど。
俺の放った魔法は、しっかりと発動しダンジョンの天井から、
枝分かれした雷がモンスターを
おおっ上手くいった。
初めての雷系の魔法だけど、
このまま連発しているうちに体力も回復するはずだ。
「天空より降りたる剣、大地を切り裂く。生きとし生けるものを裂き、ここに神の怒りを示せ『ライトニングストライク』」
「すまん、
「ああ。それにしてもあれはなんだ?」
「わからん」
「なんであんなに連発できるんだ」
「わからん」
それにしても魔法って本当にすごいな。
複数のモンスターを
その場から動かなくていいし二日酔いの時は剣より魔法の方がいいのかもしれない。
〝これって上級? だけど『ライトニングストライク』って聞こえたような〟
〝初級!? そんなあほな〟
〝雷スゲ~。ピカピカドンドン〟
〝
〝初級の威力じゃない。しかも初級とはいえあんな連発できるの?〟
〝いや、何人か離脱し始めてるしあれオカシイ〟
〝修太朗サマ~〟
〝修太朗ってだれだよ。もしかして
「りんたろ~、あれ」
後ろから凛の声が聞こえてきたので指さす方向を
これって、まさか試験の時と同じ。
あの時はトラモンが出た。
じゃあ、今回もイレギュラーなモンスターが現れるのか?
よく見ると奥に
明らかに周囲のゴブリンよりも大きい。
「凛、あれは?」
「たぶんゴブリンロードかゴブリンキング」
「へ~っ、ロードかキングですか」
ゴブリンのロードにキングか。いずれにしてもゴブリンの上位種ってことか。確かに
キングというくらいだから強さもそれに比例しているのかもしれない。
トラモンより強そうには見える。
俺の
だけど俺の自己判断はよくない。
そのことは後藤小隊に入隊してから思い知らされた。
「りんたろ~、にげ……」
「え、なんですか?」
「にげ……」
え?
良く聞こえないけど、あのゴブリンを逃がすなって事だよな。
「はやく、に……」
はやく?
聞き取り辛いけど、意図は伝わってきた。
逃がすな、そしてはやく。
つまり凛は俺にあのゴブリンのボスっぽい
「
危ないところだった。
また勝手に自己判断してやらかすところだった。
イレギュラーだしロードとかキングの名前に勝手に
〝おい~あの奥のゴブリンキングなんじゃ〟
〝ゴブリンキング!?〟
〝ロードの間違いじゃ?〟
〝ロードにしては風格が〟
〝王の風格〟
〝やばくない? 防衛機構の隊員
〝十層でもロードが出るの
〝あれが原因なんじゃ〟
〝浅層でのイレギュラーエンカウント〟
〝
「まずいですね。ここでゴブリンキングですか。あれは……修太朗さん?」
魔法を放ってるうちに休めたので大分息が整ってきた。
あの大きいのは後ろのほうだし凛の言ってたように逃げられるとよくない。
凛も、俺で大丈夫だってお
「ふ~っ、いきますか」
放出系の魔法でもいけそうな気もするけど結構
「古今東西の英霊よ、気高き、その力、その魂、その権能を我に示し、敵なるものを打ち倒す英知を授けたまえ『ギリスマティ』」
今日二回目の身体強化だけど、代謝が上がって血行が良くなるのか
ある意味、かるい
ちょっと強そうなゴブリンを前に気合が入って魔力をちょっと多めに
そのせいかさっきより発光の
こんなに光ってたら目立って的になりそうで
「りんたろ~!?」
〝オーラが立ち上ってる〟
〝なんだよあれ。違うマンガじゃないの〟
〝魔法っていうより気だろ気〟
〝気は
〝アニメでも見える〟
的にされる前に倒さなきゃいけない。
足に力を込め前方へ駆ける。
身体強化には、結構慣れたつもりだったけど、
ぼ~っとするのに身体は素早く動き、剣もさっきより軽く感じる。
不思議な感覚。
これが酔剣か。
いや、そんなこと考えてる場合じゃない。
やっぱり俺まだ
モンスターとの戦闘中なのにくだらないダジャレを思いつくなんて。
その影響かモンスターの動きが止まったようにゆっくりと流れていく。
目の前の
近づくとわかるが、普通のゴブリン
ただその
ゴブリンがいくら大きくなっても
「ガアアアアアアアアアア~」
ゴブリンの上位種は俺に気が付いたようで
大気が震えるかのように
〝まずいまずいまずい。キングの咆哮〟
〝何人か動きが止まった〟
〝
〝あの距離でキングの咆哮浴びてなぜ動ける〟
〝それは修太朗だから〟
〝イケオジ最強〟
〝修様~〟
〝
〝名前変わってね?〟
「くっ、戦えない奴は下がれ! 下がれ~!」
いける。あの大ゴブリンが
「ギィアアッ」
あれ、しとめられなかった。
一撃で倒すには大きすぎたか。
いつもはサクッと入る剣の
大ゴブリンがこちらへ向けて
確かに普通のゴブリンよりも速い気もするけど酔剣中の俺には止まって見える。
振りかぶり
「ガギャッ」
今度はいけたけどやっぱり
〝え!? どういう事?〟
〝ゴブリンキングを子ども
〝標準装備でキング倒せるの?〟
〝動きが速すぎてスマホじゃわからん〟
〝タブでもわからん〟
〝PCでもみえん〟
〝気づいたら腕が飛んでた〟
「ギガアアアアアアアアアア~」
大ゴブリンが再び吠え、
でかいので圧はあるけど、当たらなければ問題ない。
そのでかさのせいで動きは鈍いし、
〝やべえ、やべえ、やべえ。咆哮からのゴブリンキングのラッシュ〟
〝はえぇっ、キングの本気。にげろ~修太朗〟
〝修太朗死なないで~〟
〝これは無理。オワタ〟