「おはようございます」

 隊のみんなに朝のあいさつをすると小谷さんが俺の異変に気が付いたらしく声をかけてきてくれた。

「あれ~修太朗なんかつかれてな~い?」

「いえ、大丈夫です。ちょっと筋肉痛なだけですので」

「修太朗~かたいって~」

「ああ、すいません。ところでその修太朗というのは」

「修太朗は昨日から修太朗になったんです~」

「はぁ」

 俺が修太朗になったってどういうこと?

「今日から~修太朗もわたしの事は名前でお願いしま~す」

「名前ですか」

「そうで~す。りんりんかりんりんで~」

「え~っとそれでは凛さんでいいですか?」

「う~ん、さんつけるとちょっとかん~。凛でお願いしま~す」

「凛ですか」

「はい、よくできました~」

「は、は……」

「修太朗さん今日も元気に頑張りましょう」

「はい、おはようございます」

「今日も楽しみですね」

「はぁ、そうですね」

「それはそうと修太朗さん私も名前でお願いします」

「はい、それでは湊隊長」

「まあ、最初だしそれでいいことにしておきます」

 なぜか朝出勤すると俺は花岡ではなく修太朗になっていて、他の隊員たちのことも名前呼びすることが決まった。

 いきなりなので少し戸惑ってしまったけど、きっともっと仲良くなれるようにとのみんなのはいりよだろう。

 名前呼びはずかしいけど、その気持ちがうれしくて身にみる。

 俺ももっと仲良くなれるよう頑張っていきたい。

 朝一にそんなやり取りをしつつさつそくダンジョンへと潜る。

 前回とはちがい二階層までは、他のみんなも戦いながら進んで行き、あっさりと二階層をとつして三階層へと至った。

 やはりみんなすごい人たちだ。


〝既に百九十万いってる〟

〝それより呼び方が変わった〟

〝名前呼びになってる〟

〝イケボで凛って、きゃ~〟

〝私の名まえもよんで~〟

〝やっぱ修太朗がしっくりくるな〟

〝花岡より修太朗だな〟

〝イケオジのきよめ方がえぐい〟

かげの者には不可能な名前呼び。うらやま〟

〝これがモテ漢のモテ漢たる所以ゆえんか〟


「修太朗さん、モンスターです。ストーンゴーレムですね」

 あれがストーンゴーレムか。

 大きな岩のかたまりが動いているような見た目だけど堅そうだし結構強そうだ。

「それじゃあ修太朗さんにお願いしてみましょうか」

「え? おれでいいんですか?」

「もちろんです。修太朗さんならいけると思います」

 強そうだけど湊隊長がそういうなら間違いないんだろう。

 岩だし、普通に考えて火とか水じゃ無理だ。

 岩に岩をぶつけてみるか。

ゆうきゆうの大地に座し全てのいしずえたるその力を貸したまえ。その強固な意志をここに示せ『アースフィスト』」

 堅そうな相手を前に岩のげんこつに少しだけ多めにりよくを込める。

 今日で三日目なので緊張感もとれ、冷静に魔力の調整ができている気がする。

 込めた魔力の量に比例して少し大きめの岩の拳骨が眼前のストーンゴーレムに襲いかかり粉々にふんさいした。

 やっぱり湊隊長の言う通りだった。

 かたそうだからちゆうちよしたけど全然いけた。

 ダンジョンでは見た目やイメージは当てにならないということか。

 初心者の俺が自分の感覚で自己判断してしまうのはやっぱりよくないな。

「みなさんやりました」

「修太朗すご~い」

「はい、問題なくたおせました。見た目ほど堅くはなかったみたいです」

「う~ん堅いは堅いんだけど修太朗だし~」

 凛の修太朗だしというのは正直さっぱり意味が分からないけど、げんは良さそうだし悪いことをしているわけじゃなさそうだし深く考えるのは控えよう。

「隊長、石を岩にぶつけてあんなくだけ方するもんっすか?」

つうはしませんね」

「そうですよね。普通はもっとこうのある『アイアンブラスト』とかでけずりません?」

「セオリーですね」

「修太朗さんが使ったの初級ですよ。初級ほうであれってどうなんすか?」

「ほとんど反則ですね」

「ストーンゴーレムが弱モンスターみたいに映ってますよね」

「あれは結構やつかいですよね。堅いし燃えないし」

「感覚がしそうっす。自分も修太朗さんといるとかんちがいしてやらかしそうです。気を付けないとやばいっす」

 ストーンゴーレムの消えたあとには特に何も落ちてはいない。

 三階層のモンスターだからといって魔石がドロップするとかそんなわけではないらしい。

「修太朗さん、次がすぐそこまで来ていますよ」

 やばい。一体で終わったかと完全に気をいてしまっていたけど、ここはダンジョンだ。そんなゆうちようなことをしてる場合じゃなかった。

 前方を注視していると、わずかにひびきのようなものを感じる。

 ほどなくして前方からはさきほどたおしたのと同じストーンゴーレム二体が現れた。

 さっきは『アースフィスト』で問題なく倒せたけど『アースフィスト』は基本単発。複数の敵を倒すにはどちらかというと不向き。

 連発するのに向いてるのは『アイスバレット』だ。

 問題は氷で岩を砕けるのかという点だけど、さっきの感じならなんとなくいけそうなんだよな~。

「湊隊長、『アイスバレット』でも大丈夫でしょうか」

「はい修太朗さんなら大丈夫だと思いますよ」

 湊隊長のおすみきが出たし間違いないな。

 やっぱりダンジョンでは常識にとらわれてはいけない。

「よし、次は氷系魔法の『アイスバレット』だ。それじゃあいきます。大気に宿る悠久のせいれいよ、そのれいぶきを放て。が求めに応えて、ここにその姿を現せ! 『アイスバレット』」

 氷のだんがんがストーンゴーレムの胸部を抉る。

 いける。

 魔法でできた氷はストーンゴーレムよりも硬い。

 俺は氷の弾丸を続けざまに発射して二体のゴーレムを完全にだまらせてしようめつさせることに成功した。

 湊隊長の事は全面的に信じてはいるけど、念のために少しだけおくり込む魔力の量を増やしておいた。

 そんな必要はなかったかもしれないけどげきできたし問題ない。

「た、隊長今の見ました? 『アイスバレット』すよ。氷でなんで砕けるんですか?」

「修太朗さんですから」

「それはそうなんですけど氷が岩を砕くって絶対おかしいですよ」

「そうですね。でもそれが出来ちゃうのが修太朗さんですから」


〝ちょっとまて~い、いまのなんだ?〟

〝俺初めて見たかも。氷系の魔法でゴーレム倒してる人〟

〝意味が分からん〟

〝氷って水でできてる〟

〝ストーンゴーレム三体が、雑魚ざこあつかい〟

〝いや、ストーンゴーレムよりやわらかいソフトゴーレムだったんじゃ〟

〝修太朗最高〟

〝これ鉄でも氷でいけるんじゃ〟

〝まさか……あるな〟

〝修太朗様♡〟

〝やばい、同接百九十九万〟


「三階層はゴーレムの階層なんですか?」

「そうで~す。ゴーレムが多いんで~す。わたしは苦手~」

 そういえば、凛は風魔法を使っていた。もしかしたらゴーレムには風魔法が効きにくいのかもしれない。

「それより修太朗さん、アクセス数がやばいです。完全に後藤隊の新記録をたたき出してます」

「そうなんですか?」

「そうなんです。いろいろとすごいんですけど、お手当もすごいことになりそうです」

「そうなんですか」

「そうなんです!」

 だん物静かな印象の桜花さんのテンションが上がっている。

 確かにアクセス数によってインセンティブがもらえるとは聞いてたけど、そんなにくれるのか?

 もしかして日当で一万円とかもらえたりするのか?

 いや、給与ももらってるし、ドロップの分配まであるのにそれはないか。

 だけど桜花さんのこの感じそのくらいもらえててもおかしくないかも。

 そんなにもらえても使い道もないけど、いつものレモン酎ハイをきわみプレミアムレモン酎ハイにしてみるくらいか。あれ、高いから特別な時しか飲んだことないけどうまいんだよな。

「あ……隊長200万いきました」

「それはすごいですね。まあでも修太朗さんですから」

 湊隊長の「修太朗さんですから」もあいかわらず全く意味不明だ。

 それに同接200万と俺は全く関係ないと思うけど。

 もしかしたら、新人が入ったというものめずらしさで少しはこうけんできているかもしれないけど、やっぱり後藤隊の人気はすごいんだな。

 とにかく同接200万もあるならここで頑張らないと。

 その場を後にし更におくへと向かうとすぐに次のモンスターが現れた。

「え~っと、さっきのとはちょっと違いますよね」

「う~ん、ゴーレムはゴーレムだし修太朗には一緒みたいなもんだよ~」

「一緒みたいなものですか」

 確かに姿かたちは、ストーンゴーレムによく似ている。

 ただ一点違うのは、その表面が金属質に光を放っていることだ。

「修太朗さん、あれはブロンズゴーレムっす」

「え~っとあれはどうしたら」

「修太朗さんの好きにしていいっす。るなり焼くなり」

 煮るなり焼くなり?

 ただの言い回しかもしれないけど、ブロンズゴーレムは燃えるってことか?

 もし燃えるなら『ファイア』で燃やすのが一番いいのか?

 よし、やってみるか。

『ファイア』はあんまり使わない方がいいのかもしれないけど、ここはりくさんのアドバイスに従うのが正解だろう。

「この現世に住まう精霊よ、我が盟約に従いここにその力を示せ。原初のほのおおどれ! 『ファイア』」

 なんとなくストーンゴーレムよりも堅そうに見えるので『ファイア』にいつもより少しだけ魔力を込めて放つ。

 あおじろい炎がブロンズゴーレムをおおい、動きをはばむ。

「ちょっと弱すぎたか」

 炎でダメージが入っているのはわかるけど、消滅には至らない。

 やはりゴーレムだけあって燃えにくいらしい。

「この現世に住まう精霊よ、我が盟約に従いここにその力を示せ。原初の炎よ舞い踊れ! 『ファイア』」

 今度はさきほどより多めに魔力を込める。

 こういう調ちようせいくのも北王地さんとの訓練のたまものだけど、相手によってどのくらいの魔力を込めないといけないのかの判断はこれからの経験だな。

 よりあおを増し大きくなった炎が再びブロンズゴーレムを包み込む。

「ガ、ガ、ガ、ガ、ガ」

 ゴーレムが異音を立てながらその場にくずおれた。

 どうやら今度はいけたみたいだ。

 まあ、二発で倒せたし上出来だろう。

「修太朗さん、ゴーレムが、ブロンズゴーレムが燃え落ちたんですけど!」

「はい、陸人さんのアドバイスのおかげです。ありがとうございます」

「え? アドバイス? あ~もしかして煮るなり焼くなり? まじっすか」

 一度えられてしまったしゴーレムが炎に弱いのかどうかはよくわからなかったけど結果的にきてしまったので倒し方としては間違ってなかった。


〝ブロンズゴーレムって燃えるの???〟

〝ブロンズゴーレムって銅でできてんの? 銅が燃え尽きるって何度あるんだ〟

〝もう何でも燃やせばいいんじゃない?〟

〝いや、モンスターのたいせいを考えたら普通の銅かす温度じゃ無理〟

〝わたしのハートも溶けちゃう〟

〝もしかして修太朗全属性これ!?

えんてい追加で〟

〝『ファイア』って初級。普通上級魔法でもこうはならん〟

〝控えめに言って化け物〟

〝修太朗様最高。あおい炎もステキ〟

〝同接215万〟


「修太朗~今日も飲みにいこ~よ。修太朗のおかげで来月のお給料たのしみ~。お礼におごってあげる~」

「はい、それは。でもお金は自分で出しますから」

 また俺をさそってくれるとは凛も本当にめんどうがよくていい人だな。

 俺のおかげとか言ってるけど俺がやらなくてもだれかがやってたはずなので、それが凛のやさしさからくる発言だとわかる。

 俺が凛くらいの時は自分の事でせいいつぱいだった気がする。

 それなのにこんなオッサンにまで気を使ってくれる凛には尊敬しかない。

 さすがは隊のアイドルだ。

 その後も三階層のモンスターを倒しながらたんさくを続ける。

「修太朗さん、出ましたよ」

「わかりました。今度は氷でいってみます」

 眼前に現れたブロンズゴーレムに向けて魔法を放つ。

「大気に宿る悠久の精霊よ、その零下の息吹を放て。我が求めに応えて、ここにその姿を現せ! 『アイスバレット』」

 氷の弾丸がブロンズゴーレムをとらえ、そのまま抉る。

「ガ、ガ、ギ、ギギ」

 胸に大穴を開けたゴーレムが機械音のようなだんまつのさけびを上げ消滅する。

「どうでしょうか。結構うまくいったと思うんですけど」

「はい、修太朗さん。さすがですね」

「ありがとうございます」

 やっぱり魔法って常識では測れないものなんだな。

 普通なら氷で金属に穴が開くって発想がない。

 固定観念にしばられず魔法を使うことがかんようなのかもしれない。

「た、隊長。あれ……」

「そうですね」

「氷でブロンズぶち抜きましたよ」

「そう見えましたね」

「いやいやいや、おかしいですって。氷ですよ。水から出来た氷でなんでブロンズち抜けるんすか」

「修太朗さんですから」

「そんな、修太朗さんは世界の常識すらりようするんすか?」

「そうかもしれないですね」

「もしかして、風とか水でもいけちゃうんじゃ」

「修太朗さんならあるかもしれないですね」

「…………ちやちやっす」


〝ええええええ~氷でブロンズぶち抜いた〟

〝やばい。意味が分からん〟

〝氷の支配者〟

〝え? 氷ってそんなに硬いのか?〟

〝氷をちようそくで飛ばせば銅をも穿うがつ……のか?〟

〝いや、ないないない〟

〝修太朗属性あいしよう完全無視〟


「修太朗さん、いい感じです。カメラ映え最高です」

「そうですかね」

 桜花さんはカメラ映えとか言ってくれるけど、俺がカメラ映えするとは思えない。まあ二体をスムーズに倒せたのがよかったのかな。

「修太朗~どんどんいくよ~」

「はい」

 特にしようもうもないのでそのまま先へと急ぐ。

 急ぐといっても、なごやかなふんで会話を楽しみながら歩いているので、ちょっとした散歩といった感じだ。

 危険なはずのダンジョンをこんな雰囲気でいけるとは後藤隊がいかにすごいかという事だろう。

 本当に俺はめぐまれてる。

 優しい上司に先輩。

 あれほどあこがれていた防衛機構は俺が思っていたよりずっと楽しい。

 それは、きっとこの後藤隊に入ることが出来たからだ。

 顔だけはどうしようもないけど、人生は何が起こるか本当にわからないものだ。

「はい、は~い。修太朗~。ゴーレムさんですよ~」

「あれ? ブロンズゴーレムと少し色が違うっぽいですね」

「あれはね~アイアンゴーレムで~す」

 たしかに鉄っぽい色をしている。

 あれがアイアンゴーレムか。

 見た目はブロンズゴーレムと色が違うくらいで大差ないようだ。

 初見とはいえブロンズゴーレムとはもう戦ったし問題なさそうな気もする。

「修太朗さん」

「陸人さん、どうかしましたか」

「よかったら、今度は水か風系魔法で倒してみてくれませんか?」

「風か水ですか? わかりました。やってみます」

 なんとなく、水と風はアイアンゴーレムと相性が悪そうに思ってたけど、陸人さんが言うならだいじようなんだろう。

 やっぱり、まだまだ固定観念に囚われてるな。

 魔法は、固定観念に囚われずに自由にだ。

「じゃあ、水でいってみます。水面に住まう水精よ、僅かばかり我にその力を貸し、その羽のきらめきを示せ。我は願う全てをつ水のやいばを我の手に『ウォーターダガー』」

 目の前に水の刃が現れる。ダガーという名前だけど使うのは初めてだし魔力を少し多めに込めたせいか結構長さがある。

 水の刃に意識を向けるとアイアンゴーレムに向かって飛んで行き、そのまま断った。

 おおっ、ズバッと両断する感じが結構かっこいいな。

 両断されたゴーレムがズレて消え去った。

「ウォーターダガー!? ウォーターダガーでアイアンゴーレムがれましたよ!?

「え? 陸人さんがそうしろって。何かかったですか? もしかして風の方がよかったですか?」

「いやいやいや、そうなんですけど。いやなんにも悪くないんですけど。修太朗さん最強っす。間違いないっす。もう最強っす。言うことないっす。なんかわかんないけどウォーターダガー最高っす」

 なぜか陸人さんのキャラがお酒を飲んだ時のようになってるけど、飲んでる様子はないし大丈夫だよな。

「修太朗さんですから」

 相変わらず湊隊長のコメントはよくわからないけど、ここはいい意味で捉えておこう。


〝うわ、マジでやらかした〟

〝水でアイアンゴーレム斬っちゃった〟

〝いや、ウォーターカッターってダイヤも斬れるしウォーターダガーでもありえるのか〟

〝ありえるけど今までアイアンを水で斬ったやついたか?〟

〝もう、なんでもあり。修太朗はなんでもある〟