ただでさえ高そうなお店で、こんなにどんどん飲んでお金は大丈夫なのか心配になってかくにんしてみたが、配信による手当てがかなりあるとのことで、今日はごそうになることになってしまった。

 俺もすぐに配信長者になるとじようだんを言われたけど、酒の席だし話いちくらいで聞いておくのがちょうどいい気がする。

 なぜか今日の食事も俺のおごりみたいなものだからとお礼を言われてしまったけど、そこは意味がよくわからなかった。

 なんでおごられた俺がお礼を言われるんだ???

 小谷さんと喜田さんには俺が独身であることをかなり突っ込んで聞かれたけど、意外なことに隊のみなさんも独身とのことだった。

 みんな美男美女なのにやっぱりトップチームともなると、そういう時間も限られてくるのかもしれない。

 隊の皆さんでさえそうなのであれば、俺に相手が見つかる可能性はゼロだな。防衛機構に所属したら万に一つでもモテることもあるだろうかとあわい期待をいていたけど、ないのは確定だ。

 ただ、小谷さんがほんのりピンク色が差した顔で、

「わたしがおくさんになってあげてもいいよ~」

 と言ってきた時には、冗談とわかってはいてもとしもなくドキドキしてしまった。

 小谷さんは、明るくてかわいらしいし、かのじよを奥さんに出来る人がうらやましいものだ。

「ちょっと、凛! いきなり何言ってるの!? お酒飲み過ぎたんじゃない?」

 何故なぜか後藤隊長があわてていたけど、小谷さんはまるで意にかいさず。

「だいじょうぶで~す。花岡さ~ん、わたしも~犬は苦手なんです。おそろいですね~」

「はぁ、そうなんですね」

「そうですよ~わたしはねこ派で~す。花岡さんは猫ってどうですか~」

「猫ですか? いいと思います。ペットを飼えるマンションに住んだことはないんですけど」

「こんどペットOKのマンションに住んでみます?」

「え~っと、りようはペットダメだったと思うんですけど」

「だ~か~ら~してみます?」

「どこにですか?」

「わたしのところです~」

「いや、いや、いや、わたしのところって、本気にしちゃいますよ」

「もちろん本気ですよ~」

 小谷さんのは冗談とはわかっていても心臓に悪い。

「小谷さん、やっぱりお酒飲み過ぎましたか?」

「ぜんぜ~ん。花岡さんって昔から強かったんですか?」

「え? いや、ぜんぜんですよ。どっちかといえば弱い方かと」

「だって、言ってたじゃないですか~。前に犬におそわれてた女の子を助けたって~」

「あ~お酒の事じゃないんですか。そういえばそんな話しましたかね」

「しましたよ~。一生忘れませんから~」

「一生ってそんな大げさな」

「……忘れるわけない」

 やっぱり小谷さんちょっと飲み過ぎたのかな。

「花岡さん犬に襲われた女の子助けたんですか?」

 小谷さんと話していると犬の話に興味をひかれたのか今まで静かに飲んでいた後藤隊長が、話しかけてきてくれた。

「いえ、ずいぶん昔の話ですよ。それにあれは助けたというより、俺が勝手に襲われたというか」

「よかったら、詳しく聞かせてください」

 昔の失敗談を軽く終わらそうと思ったけど、思いの外後藤隊長がしんけんな顔で聞いて来るのであの時の事を話す事にする。

「あれは、たぶん十年いや十五年くらい前なんですけど、仕事で営業回りしてたんです。そしたら女の子の泣く声が聞こえてきて」

「そうなんですね。それで花岡さんが助けに向かったと」

「いえ、そういうつもりじゃなかったんですけど気になってしまって」

「花岡さんらしいですね」

 俺らしい? 俺ってこの二日で、そんなお助けキャラみたいなふん出していただろうか。

「声のする方に向かったら女の子が結構大きな犬に襲われそうになってたんです。これはまずいと思って、大声で犬の注意を引いたんですけどね」

「さすが花岡さんですね」

「いえ、それが情けないことにそのあと犬がこちらに襲いかかってきまして。必死にげただいです」

「大丈夫だったんですか?」

「いや~スーツはびりびりに破れるし、結構激しくまれて流血するし散々でした」

「…………」

 あれ……。

 じよせいじんの人たちにちょっと引かれてしまったかな。

 内容が内容だったからかえんりよがちに小谷さんが質問してきた。

「花岡さん……その時の女の子の事おぼえてますか~?」

「え? 女の子ですか? いえ、必死でしたし戻った時にはいなくなってたんですよ」

「あ……ごめんなさい」

「え? 小谷さんどうかしましたか?」

「い、いえ、なんでもないで~す。ありがとうございました~」

 失敗談の落ちが流血でちょっと変な空気になっちゃったな。

「花岡さんは、昔からヒーローだったんですね」

「ヒーロー!? そんなんじゃないですよ」

「花岡さんけんそんが過ぎますよ。そんなの助けられた女の子からしたらヒーローそのものじゃないですか」

「喜田さんまでそんな……」

 やばい。あの時の失敗談をこんな風に持ち上げられたら、ずかしくていたたまれない。

「花岡さんの事ですから他にもえいゆうたんがありそうですね」

「え、英雄譚!? そんなものありませんよ。あるわけないじゃないですか」

「そうですか? 事故にあった親子を助けたりとか……」

「あ~たまたまそういう場面に居合わせたことはありますけど、英雄譚とかそんなすごいもんじゃないですよ」

「それはいつごろの話ですか?」

「え~っと結構前ですよ。あれも十年はってるかな~」

「その親子は……」

「お母さんとむすめさんでしたけど、どうにか助ける事が出来たんですよ」

「その娘さんって高校生くらいの?」

「あ~そうですね。中学生か高校生くらいの娘さんだったかな~」

「……やっぱり」

「え? 後藤隊長どうかしましたか?」

「い、いえ。やっぱり花岡さんは花岡さんだな~と思っただけです」

「はあ、そうですか」

 花岡さんは花岡さんだな~ってどういう意味だろう。

 まあ、みんなお酒を飲んでいい感じだし、深い意味はないんだろうけど。

「いや~花岡さんはんね~っす。今日見て思ったっすけど、マジですごいっす。マジパネ~っす。さすがは大魔導士っす。いや大魔導士になる前からってマジえいゆうっす」

 大仁田さんはお酒を飲むと少しキャラが変わってしまった。変わったというかちょっとくずれたというか、所謂いわゆる陽キャ全開だ。

「俺も子供のころからヒーロにあこがれてたんすよ。それで今頑張れてるんすけど、花岡さんマジ尊敬っす。やっぱ歳じゃないっすね。イケオジヒーロー人気出ないはずはないっす」

 大仁田くん? 子供の頃からヒーローに憧れたのは俺と同じだしなんか嬉しいけど、イケオジヒーローって誰の事? まさか俺? 俺はイケオジでもヒーローでもないんだけど。

 それにしても後藤隊の褒め殺しが、飲みの席でも止まらない。

 もしかしたら、一生分褒められてしまったんじゃないだろうか。

 確実に今までの四十年分よりは今日一日の方が褒められている。

 楽しい時間というのは過ぎていくのも早いもので、あっという間にお開きの時間が来てしまった。

 夜もおそいので、小谷さんを大仁田さんが送り、家が比較的近いとのことで俺が喜田さんを送っていくこととなった。

 後藤隊長は大丈夫なのかと心配になったけど、まったくったりを見せることなく、スタスタと帰ってしまった。

「それじゃあ喜田さん行きましょうか」

「はい」

 二人で歩きながら家路につく。

「花岡さん、今日は本当に良かったです。間違いなく人気出ますよ」

「またまた~。喜田さんにそんな風に言われたら調子に乗っちゃいますよ」

「花岡さん、本気にしてませんね? 後藤隊をめちゃだめですよ。今日の同接150万ですから」

「150万!? すごいですね~」

「花岡さんわかってないです。花岡さんだからですよ」

「はぁ」

 何が花岡さんだからなのかまったくわからないけど、とりあえず喜田さんが褒めてくれてるってことでいいんだよな。

「あっ、私の家ここです。送ってくれてありがとうございました」

「いえ、こちらこそ今日はありがとうございました。また明後日よろしくお願いします」

「こちらこそです。おやすみなさい」

 喜田さんがマンションの中に入るのを見届けてから自分のマンションへと歩きで戻る。

 それにしても喜田さんのマンションすごかったな。

 多分、何億もするような部屋があるマンションだと思うけど、喜田さんのおやさんがすごいお金持ちなんだろうか。

 ということは喜田さんは結構なおじようさまなのか。

 なんか喜田さんのイメージにぴったりだな。

 お嬢様で防衛機構でバリバリ働いてるなんてすごいな。

 そんなことを思いながら、自分の部屋へととうちやくする。

 喜田さんのマンションとは比べるまでもないけど、今回借りた寮の部屋は家賃十二万円の1LDKだ。

 正直十二万円は俺にとって安くない。

 それなりの金額だけど、職場から近いし防衛機構の給料を当てにして思い切って奮発してみた。

 色々調べてみると寮ということもあってこの立地でこの家賃は格安らしい。

 おかげで、以前の部屋と比べてもかなり快適に過ごすことが出来ている。

 それにしても今日の料理はしかったなぁ。

 美味し過ぎてお酒も進んでしまった。

 おさえて飲んだとはいっても俺にとってはそれなりの量飲んだ。

 すだち酒も料理も本当においしかったし、このままねむれば明日の昼までじゆくすいできそうだ。

 それにしても楽しいお酒だったな~。