「そのつばさは敵をき、そのいきは空を穿うがつ。幾千のやいばまといしその気高きほうこうを敵に示せ『ウィンドスピア』」

 短剣を振る小谷さんの放った風の刃がゴブリンを切り裂き消滅させる。

 初級の風ほうだけど、こちらも流石という他ない。

 言っていたように陣風の短刀によるブーストも効いているのかもしれないけど、そのわいい外見とは全く異なるかのじよ本来の強さが見て取れるような気がする。

 あっという間に三びきのゴブリンが消滅しその後も次々に倒しほどなくしてゴブリンの一団が消え去った。

 最初は、みんなの動きを見るように言われていたので今回俺の出番はなかったけど、仮に出番があったとしても役に立てたかどうかはかなりあやしい。

 それほどに、動く相手と自身も動きながら戦うことが難しいと感じた。

 三人の動きはスムーズで魔法の発動も流麗だった。

 三人の動きに自分を当てはめてみると同様に動ける気は全くしない。

 ゴブリンは低級なモンスターのはずだけどそれを差し引いても、この隊がトップチームというのは納得だ。


〝やっぱ後藤隊のはストレスフリーで見れるわ〟

〝なんかチラッと映ったけど知らない男がいる〟

〝はっきりと見えなかったけど結構年くってた気が〟

〝いや、イケオジっぽかった〟

かん員かなんかか?〟

〝もしかして木本のかわりじゃね〟

〝あぁ……〟

〝あれは残念だった〟


「おつかれ~。どう? どうだった?」

「はい、皆さんすごいです。勉強になりました」

「ふっふっふ~。じゃあ次は花岡さんもいってみる~?」

「はい、がんばります」

「花岡さん、最初ですし無理しなくて大丈夫ですよ。私たちがフォローしますから」

「はい、ありがとうございます」


〝やっぱ新人か〟

〝新人にしてはだいぶ年上じゃね〟

〝いや、かなりれいただしい感じだしスマートっぽい〟

〝インテリイケオジ〟

〝なんとなくしつっぽい〟

〝執事カフェにいたら人気でそう〟


 次は俺の番だ。

 話を聞いてみるとゴブリン程度なら初級魔法で十分いけるらしい。

 魔法も火系は意図的に外していたらしい。

 火系は威力は望めるけど、燃え広がったりしてダンジョンでは使い勝手が悪いそうだ。

 よほどダメージをあたえたい敵の場合は使用することがあるらしいけど、使用ひんは高くないとのことだ。

 これも実戦の場数を踏んでいる皆さんだからの金言だ。

 俺はつうに『ファイア』を使おうかと思ってたので危なかった。

 それに卒業試験では『マジックシールド』ばかり使っていたけど、あれも経験不足としか言いようがない。

 今思い返してみると俺もこうげきほうを使った方がよかったのかもしれない。

 探索を再開するとまたすぐにゴブリンの一団に出くわした。

 ダンジョンにモンスターがいるのはわかってたつもりだったけど、明らかに卒業試験のダンジョンよりも密度がい。

 定期的に間引かなければ溢れ出るのも納得だし、改めて防衛隊の活動に感謝だ。

 今までおくれていた普通の生活は、無条件にきようじゆできていたわけではないのを痛感してしまう。

「花岡さん、俺が先に行きましょうか?」

「いえ、とにかくやってみます。ダメだったときはお願いします」

「まかせてください」

 いくぞ!

 今まで魚より大きな生き物をせつしようしたことはないけど、ここでやれなきゃ防衛機構に入った意味がない。

「古今東西の英霊よ、気高き、その力、その魂、その権能を我に示し、敵なるものを打ち倒す英知を授けたまえ『ギリスマティ』」

 気合で高ぶっているおかげでちゆう的な詠唱も全くちゆうちよなく口にすることが出来た。

 使えるのか心配だったけど、身体が濃い金色に発光しはじめ、全身に力がみなぎってくるのが感じられる。

 確実に『ギリスマティ』が発動している。

「あれ? 花岡さん?」

 大仁田さんがなにか言おうとしてたみたいだけど、もうすでにゴブリンがこちらをにんしきしてる。今は目の前のゴブリンに集中だ。

 支給された剣を手に取り先ほど大仁田さんが見せてくれた立ち回りを頭におもえがきながら、ゴブリンへとける。

 普通に走るのとは全くちがう加速感、周りの景色が高速で流れていきゴブリンとの距離はいつしゆんでゼロになる。

 速い!

 大仁田さんの動きを見て速いのはわかっていたけど、自分で使ってみるとあまりの速さに感覚が追い付かない。

 ほうすごすぎる。

「花岡さん、速すぎっ」

 それでもモンスターは待ってはくれない。ゼロ距離から手に持つ剣を振るう。

『ギリスマティ』の効果で手に持つ剣が軽い。

 普通に包丁でもあつかうかの如くスパッといった。

 いつしゆんやいばがゴブリンの肉と骨をいやかんしよくが手元へと伝わってきたが、あっさりと両断することに成功しその感覚もすぐに消えた。

 やった。

 モンスターを倒すことに成功した!

 いや、まだ一匹だけだ。

 残りのモンスターも倒さなきゃいけない。

 すぐに視線を周囲へと向け、他のゴブリンへと迫り先ほどと同じように斬り伏せていく。

 こんなに本格的な剣を振るうのはもちろん初めてだけど勢いにまかせて振るうだけでゴブリンを両断することが出来ている。

 この剣すごい。

 この剣があれば素人しろうとの俺でもけんごうの如く立ち回ることが出来る。

 さすがは防衛機構の支給品だ。

 とにかくゴブリンからの反撃にだけ意識を集中し、どんどん斬り伏せていく。

 どうやらこの剣に『ギリスマティ』があれば、ゴブリン程度なら問題なくいけるらしい。

「ふ~、なんとか倒せました」

 終わった。

 もう周りにゴブリンの姿はない。

 緊張とこうよう感からか、ゴブリンを殺したことの罪悪感よりも、ほっとした感情が勝っている。

 一人でやれたし、初めてにしては上出来なんじゃないか?


〝いや、いや、いや、いや、いや、いや〟

〝えっ? どういうこと?〟

〝なにいまの〟

〝え!? 早送り?〟

〝一人でしゆんさつ

〝俺、瞬殺って意味を知ったかも〟

〝イケオジやべ~!〟

〝もしかしてけんせい!?

〝カメラ追い切れてなかった〟


「大仁田さんどうにかなりました。ありがとうございます」

「…………」

「え~っと、何かまずかったですか」

「いや、まずくないっす。全く問題ないっす。いや、問題ないというか……」

「花岡さん、すご~い。あっという間に~。それに花岡さんの『ギリスマティ』ってすごくないですか~。わたしあんなに濃い金色に発光してるの見たの初めてですよ~」

「初めて? あ~もしかして」

 やってしまった。あれほど北王地さんと訓練したのに、初めてのゴブリンを前にして高ぶってしまってりよくの調整をおこたっていたかもしれない。

 ただ、ばくした感はないので無意識下で多少加減はできたのかもしれない。

 あぶない、あぶない。

 いきなりばくとかこわすぎる。

 テンション上がりすぎて自分のことが見えなくなってた。

 次からは絶対に気を付けないと。

「すいませんでした。以後気を付けます」

「いや、いや、いや。全然あやまるようなことじゃないですよ。むしろこのまま行ってください」

「えっ? そうなんですか?」

「そうですよ。俺たちの目的はモンスターを倒すことですから」

「なるほど」

 たしかにさっきは、初めてにしてはくゴブリンを倒すことが出来たと思う。

 次からは意識して、さっきと同じか、少しおさえた出力で魔法を発動できればいいのかもしれない。

「花岡さん……事前の情報通りというか、想像以上ですね」

「隊長、どうかしましたか?」

「いや、なんでもないですよ。ふふっ」


〝ちょっとまって、なんで謝ってんの?〟

〝なんかここだけ新人ぽくない?〟

〝まさか、演出でしょ。あれで新人はない〟

けんきよしんキャラ〟

〝だけど、あんなの他の隊の配信でも見たことないし、本当に新人じゃないか?〟

〝剣聖、イケオジ、紳士キャラ。情報濃いな〟


 今回、大仁田さんにならって剣を使ってみたけどまだ、他の魔法は使ってみないと勝手がわからないので可能であれば次に使ってみたいな。

「花岡さん、さっきの戦闘はらしかったんですけど」

「喜田さん、なにかまずかったですか?」

「いえ、問題といいますかカメラで追うのがギリギリでした」

「すいません。俺がっ走ったせいですね」

「花岡さんは何も悪くないんです。ちょっと規格外……」

「え~っと、なんですか?」

「いえいえ、がんばってくださいね」

「ありがとうございます」

 やっぱりこの隊の人たちはいい人ばっかりだ。慣れない俺にやさしく声をかけてくれるし、やりがいを感じる。

「隊長、花岡さんって身体強化特化ってわけじゃないっすよね」

「そうね、たぶん違うと思います」

「マジすか。だいどう士ヤバいすね」

「ええ、ヤバいですね。ふふっ」

 モンスターを求めて探索を再開することになったけど、相変わらず喜田さんはカメラをこちらに向けている。

 多分新人しようかいの意味を込めてこちらを撮ってるんだと思うけど、ちようしや数が減るんじゃないかと心配になる。

 新人の四十男のデビューにじゆようがあるとは思えない。特に俺だし。

 それにしても、ダンジョンっていうのは本当にゲームのダンジョンみたいだ。

 座学で習った知識によるとダンジョンには階層があるそうで、基本的には下に行くほど強いモンスターが生息しているらしい。

 倒しても倒してもその数がゼロになることはないようなので生息という言葉が正しいのかもわからない。

 さっき戦ったえいきようで体温がじようしようはしているけど、太陽がないせいかダンジョン内は地上の温度よりも少し低い気がする。

 装備を身に付けているので丁度いいくらいだ。

 小谷さんが、時々カメラに向かって話しかけながら進んでいる。

 いかにもプロという感じだし、慣れているとはいえダンジョンでその様にふるまえることに尊敬の念をおぼえる。

 小谷さんだけじゃなく、他の三人もいつも通りでリラックスして見えるので、緊張しているのは俺一人だな。

 それにしてもこの支給品の剣すごかったな。

 ゴブリンの肉と骨をあっさりと切断し、刃こぼれ等の損傷もかいに見える。

 所謂いわゆるわざものというかさいしんえいの技術のすいを集めて作られてるのかもしれない。

 さすがは防衛隊員の装備だ。


〝剣聖だけに武器はせいけんなのか〟

〝スパッていうかまさに紙る感じ〟

〝どうみても標準装備〟

〝武器強化魔法じゃね?〟

〝あれ標準装備の切れ味じゃない〟

〝イケオジは武器までいけてる〟

〝イケオジソード〟

〝やば、わたしもうファンになっちゃった〟

〝お名前プリーズ〟

〝さっき「はなおか」って聞こえた〟

〝お名前もステキ〟


「花岡さん、せっかくなのでこのあたりで自己紹介をお願いしてもいいでしょうか」

「え? 自己紹介ですか? こんなところでですか?」

「はい、視聴者の方もだいぶ気になってるようですし」

 視聴者が気になってる? それはないと思うけど、俺もここに入隊させてもらった以上はきゆうをいただいているプロだ。自分に求められた役目は果たさないといけない。

 だいじようだ。

 カメラに向かって話すだけだ。

「あ、あ~皆さんこんにちは。このたび後藤小隊へと配属になりました花岡修太朗といいます。よろしくお願いいたします。新人ですが年は四十となります。隊の方々にめいわくをかけないようせいいつぱいがんりたいと思いますのでよろしくお願いいたします」


〝おおっ、桜花ちゃんナイス〟

〝オッサンほんとに新人みたいだな〟

〝四十で新人とかあるんだ。俺も可能性あるのかな〟

〝いや、礼儀正しいな〟

〝修太朗さま〟

〝すてき〟


「花岡さん、自己紹介が終わったばかりで申し訳ありませんがモンスターです」

「あれって」

「はい、スケルトンですね」

「あれがスケルトンですか」

 前方に現れたモンスターはいわゆるがいこつ。骨格標本のような姿の骨が歩いている。

「花岡さん、よかったら今度のもやってみませんか?」

「俺がですか?」

「はい、視聴者の皆さんも花岡さんのゆう姿を見たいでしょうし」

「いや、それはないと思うんですが」

 後藤隊長も冗談が好きなんだな。

 雄姿ってそんないいもんじゃないし、視聴者の人もそんなの期待してるはずもない。

 スケルトンもだんだん近づいてきてるしあまり時間はない。

「剣で倒せばいいんでしょうか?」

「スケルトンは骨ですから、物理攻撃よりも魔法のほうがいいと思います。ほのお系の魔法が効くので例外的にですけど、使用してみるのをおすすめします」

「そうなんですね。わかりましたアドバイスありがとうございます。それではさつそくいってみたいと思います」

 隊長がこう言ってくれてるんだしここでやらないせんたくはない。

「この現世に住まう精霊よ、我が盟約に従いここにその力を示せ。原初の炎よおどれ! 『ファイア』」

 あっ。炎は無事に発現したけど、色があおい。調整したつもりで魔力をめすぎてしまったらしい。やはり練習とは勝手が違う。

 飛んで行った蒼い炎がスケルトンにちやくだんすると一気にえ上がりそのまま燃えきた。

「もう一匹も燃やします。この現世に住まう精霊よ、我が盟約に従いここにその力を示せ。原初の炎よ舞い踊れ! 『ファイア』」

 よかった、今度は込める魔力をうまく調整できたみたいでオレンジ色の火球がスケルトンへと着弾し、一瞬で燃え尽きた。

 後藤隊長の言ったとおりだ。

 スケルトンは本当に炎に弱いらしく一瞬で燃え尽きてしまった。

 これだけ弱点がはっきりしてるんだったらスケルトンはそこまで怖くないな。

 あぁ、だから俺に回してくれたのか。

 後藤隊長って本当にいい上司だ。

 新人の俺でも苦労することなく経験が積めるようにうまくさそってくれているんだ。

 だけど、調子に乗って火事にならないようにだけは要注意だ。


〝いまのはなんだ?〟

ちがいか? 一発目の炎が蒼かったような〟

りよくバグってね? スケルトンが一瞬で燃え尽きた〟

〝CGじゃないよね。後藤小隊ってそんなんじゃないよね〟

〝『ファイア』だよね? 初級魔法だよね? ???〟

〝花岡ヤベエ〟

〝修太朗さん、私のハートに火をつけたわ〟

〝イケオジ本当にナニモンだ〟

〝炎神?〟


「ええっと、こんな感じでしたがどうでしょうか?」

「花岡さん、今度はばっちりれました」

「そうですか、それはよかったです」

「花岡さ~ん。スケルトンどうでした~?」

「スケルトンですか? 後藤隊長のおかげで苦労せずにたおすことが出来ました」

「花岡さ~ん、すごかったです~わたし花岡さんが他の魔法を使ってるところも見てみたいな~」

 小谷さん、やっぱりやさしいな。スケルトンなんて倒したからってすごいはずないのに、これだけおれの事を持ち上げてくれるなんて。

 こんなに隊の人たちがサポートしてくれるんだから、初日だからなんて言ってられない。

 少しでもみんなの役に立てるようにがんらなきゃいけない。

「隊長、さっきのなんすか」

「ただの『ファイア』じゃないでしょうか」

「隊長……」

「わかってますよ。ただのじゃないですね。威力なら中級の『ファイアブリッツ』くらいはありそうですね。まあ『ファイアブリッツ』で蒼い炎が出たのは聞いたことないですけど」

「蒼い炎ってことは温度がめちゃくちゃ高いってことっすよね」

「そうでしょうね」

「それってちようきゆうほうの『アークファイア』とかと一緒なんじゃ」

「そうかもしれませんね」

「マジすか」

 結局、この日はあと二回ほど俺が戦い、あとは他の方たちの戦いを見させてもらった。

 やはりみんな強いし、かっこいい。

 配信で人気なのもうなずける。

 みんな俺と違って絵になる。

 中でも後藤隊長の戦いはすごかった。

 レイピアのような細剣をあやつり、魔法の発動スピードとちやくだんまでのスピードがけた違いに早かった。

 やっぱりトップチームの隊長となると全然違う。

 俺が初日だったこともあり、一階層だけで切り上げることになった。次からは足を引っ張らないように頑張りたい。

 ダンジョンを切り上げてから聞いたことだけど後藤隊長のジョブは魔法剣姫だそうだ。

 聞いただけでもすごいジョブなのが分かる。

 何しろ魔法の剣姫だ。

 後藤隊長のふうぼうと重なり本当にお姫様に見えてくるから不思議なものだ。