第3章 四十歳の新入隊員



 卒業から一週間ほどで世界防衛機構の配属案内が届いた。

 配属は二週間後。

 場所は東京にある日本本部となった。

 それまでは特に予定もなかったので市川さんや中塚さんたちとご飯に行ったりお酒を飲みに行ったりした。

 市川さんは俺と同じく東京本部に配属となったようだけど、中塚さんたち四人は別の支部へと配属となったらしい。

 しきりに俺と違う支部に配属されたことをなげいていたけど、そんなふうに思ってくれるなんてなんていい人たちなんだろう。

 また会う機会があればうれしいけど、まずは防衛機構でしっかりやれるようになるのに集中する必要がある。

 北王地さんの特訓があったとはいえ、先代のだいどう士と同じ道を歩まないとは言い切れないのでとにかく集中だ。

 同級生たちと過ごす以外の時間は、引っしの準備と、魔法の教本を見直していた。

 今の俺は上級までの教本にっていた全属性魔法の詠唱をおぼえることが出来ているのであとは使ってみるだけだ。

 学校のように的もなければ、魔法を放つような場所もなかったので結局どの魔法が使えるのかはぶっつけ本番に近い。

 ただ学校で『ファイア』と『アイスバレット』は使ったことがあるので、なんとなく火と水系は使えるんじゃないかとあわい期待を抱いてはいる。

 そして二週間経過した月曜日に俺は世界防衛機構東京本部へと向かった。

 毎月のように新入する職員がいるからか特に入社式のようなものはなく事務的に配属された部隊へと向かう。

「今日からとう隊に配属となりましたはなおかしゆうろうです。よろしくお願いします」

「はいよろしくお願いしますね。この部隊を預かる後藤みなとです」

「はい、よろしくお願いします」

 後藤さんは長いくろかみが印象的で、かなり若いようにも見受けられるがりんとした感じが部隊の長といわれるとなつとくだ。それにどうでもいいことかもしれないがすごく美人だ。まっすぐに俺の目を見て話してくれるので、こちらとしてもきちんとしなければと身が引きまる思いだ。

「花岡さん」

「はい」

「もしかして……あ、いえ。だいじようです」

「そうですか」

 後藤隊長が何か言いかけたけどなんだろうか。

 歳とか顔の事だったらあれだけど、さすがに初対面でそれはないか。

だにりんで~す。よろしく~」

「はい、よろしくお願いします」

 小谷さんは少しがらだが、明るく元気な印象でお目目がぱっちりとしていて、どこかのアイドルと言われても納得してしまいそうだ。

「え~っと、どうかしましたか?」

 小谷さんがじ~っとこちらの顔を見てくる。

 なにかしただろうか?

「いえいえ~。なんでもないで~す」

 俺の顔に何かついてるのか? まさかみがとかついてるわけじゃないよな。いや、初日だから張り切ってかみも整えてきたし、鏡でも変なところは映ってなかったし大丈夫か。

おおりくっす。よろしく」

「はい、よろしくお願いいたします」

 大仁田さんは、日に焼けたはだとさわやかながおが印象的だ。ねんれいは俺とはかなりはなれていそうだけど、男の俺から見ても異性にモテそうだ。

おうです。よろしくお願いします」

「よろしくお願いいたします」

 喜田さんは他の隊員に比べると少しひかえめな印象を受けるが、明るいピンクのかみいろが目を引き、なんとなくおじようさまな感じがただよっている気がする。

 俺の主観だけど、この部隊のメンバーの容姿のレベルが高すぎないか?

 なんか美男美女ばっかりだけど、これはたまたまなのか?

 仕事に全く関係ないとはいえ、このメンバーの中にえない四十男が新人として配属って大丈夫なんだろうか。一抹の不安がよぎる。

「はい、それじゃああいさつはこんなところで。花岡さん、ここは軍隊とかじゃないんでもっとフランクな感じで大丈夫ですよ」

「はい、ありがとうございます」

「軍隊っていうより役所の一部門くらいに思ってください。だだし命を張ったお仕事ですけど」

「はい、わかりました」

「ちなみに花岡さんの前任者がダンジョンで帰らぬ人となってしまったのでそのじゆうです」

「そうですか」

 前任者が帰らぬ人……。

「後藤たいちょ~、いきなりおどしちゃだめですよ。入って早々にやめちゃったらどうするんですか。せっかくの新人なのに」

「ああ、そういうつもりじゃないんです。花岡さんに早く打ち解けてほしかっただけなので」

「はい、だいじょうぶです」

 わかってはいたことだけど、やはりダンジョンで命を落とすことがあるのか。こうやって身近な事例として聞かされると今までとは全く違う場所に来たのだとさいにんしきさせられる。

 部隊のみなさんはそんな中でこれまでやってこられたのだから尊敬しかない。

 俺の配属された後藤小隊は後藤隊長を筆頭に俺をふくめ五名のチームらしい。

 女性三名に男性が二名のチームだ。

「花岡さんが入ってくれてホッとしましたよ。男一人でかたせまかったんで、これから仲良くいきましょう」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 その後小谷さんが指導教官的なポジションに就いてくれて、これからの事やここでの過ごし方を教えてくれた。

 小谷さんは人を見つめるくせがあるのか、説明の間ずっと見つめられて参った。

 事務的な事とはいえ、アイドル顔負けの小谷さんに見つめられるのは四十歳のオッサンにはりよくが強すぎる。

 防衛機構にも当然だけどいろんな部署があり、俺の配属された後藤小隊はいわゆる前線部隊。

 ダンジョンのモンスターを直接じよして回る隊となる。

 てっきり毎日もぐるのかと思っていたけど基本週三回だそうだ。

 やはり、モンスターとのせんとうは激務なのでそれ以上の日程を組むとしよくりつね上がったのだそうだ。

 ここらへんはいつぱんきぎようと大差ないらしい。

 そして、俺はりようへとにゆうりようさせてもらったけど1LDKで今まで住んでたところよりずっときれいだ。

 防衛機構の所有物件らしく俺以外にも独身の隊員が何人か入寮しているらしい。

 給料もそうだけど命の危険があるからか防衛機構のたいぐうは俺が思っていた以上に厚い。

 ひと通りの説明を受けた後小谷さんが俺のプライベートにんできた。

「花岡さ~ん。ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょうか」

「花岡さんって四十歳なんですよね~」

「はい、そうです」

「花岡さんってお兄さんとかっています?」

「え? 兄ですか? いえ、一人っ子です」

「住まいはずっとこっちですか~」

「いえ、出身は静岡なんですが、大学からはずっとこっちですね」

「そうなんですね~。ちなみになんですけど犬って好きですか?」

「犬ですか? 昔は結構好きだったんですけど、いぬにかまれたことがあって、それ以来ちょっと苦手ですね」

「…………」

「小谷さん、どうかしましたか?」

 なぜか俺が犬にかまれた話をすると小谷さんがだまり込んでしまった。

 ちょっと引かれてしまったかな。

「いえいえ~なんでもないです。どうして野良犬にかまれたのかな~と思って」

「それが、たまたま女の子が犬におそわれてるところに居合わせまして、がらにもなく助けようとしたら自分がかまれてしまっただいです。はは……」

 かくす事でもないから別にいいんだけど、いきなり初日から黒歴史公開のようになってしまった。

「やっぱり……」

「え?」

「なんでもないです~。そういえば、ごけつこんはされてないって聞いたんですけど~」

「はい、ずかしながらその通りです」

「全然恥ずかしくはないと思うんですけど、どうしてですか?」

「え~っと、どうしてというのは?」

「なんで結婚してないのかな~とおもって」

「理由ですか。縁がなかったというか、恥ずかしい話こんな顔ですから誰も結婚してくれるような相手がいないと言いますか」

 説明している自分が切ない。

「あ~~花岡さんってそういうかんじですか~。りようかいで~す」

 そういう感じってどういう感じかわからないけど、結局初日は顔合わせと説明だけで終わってしまった。

 結構気合を入れてきていたのでかたかしな感じだけど、これからが大事だ。

 小谷さんによると明日はついにダンジョンへとみこむことになるらしい。

 今からきんちようと期待感でいっぱいだ。


§


「おはようございます」

「おはよ~ございま~す。昨日はよくねむれました~?」

「はい、おかげさまでよく眠れました」

「それじゃあ、さっそくみんなでダンジョンに向かいますね~」

 世界防衛機構の本部ビルはダンジョンにりんせつする形で建てられているので、すぐにダンジョンの入口へととうちやくする。

 早速ダンジョンへと潜る。

「小谷さん、これってスライムですよね」

「そうですよ~」

「結構いっぱいいますけど、たおしたりしなくていいんですか?」

「いいんです~。スライムは特に害がないのでわざわざ倒す必要はないんです~」

「そうなんですか」

「そうなんです~。たぶん花岡さんが最初に戦うのはゴブリンかコボルトだと思いますよ~」

 卒業試験の時のダンジョンにはスライムはいなかった。スライムが無害だから放置していいというのも初めて聞いたけどゴブリンにコボルトか。昔ファンタジーにあこがれていた時分によく聞いた名前だ。当たり前だけど本当にいるんだな。

 喜田さんはずっと後方からカメラでさつえいしてるっぽいけど、たんさくの記録係とかなのかな。

「あの~喜田さんがられているあれは……」

「ああ、配信ね~」

「配信ですか?」

「そう配信。そういえば伝えるの忘れてたかも~。うちの隊のダンジョン探索は基本配信されてるから~」

 そういえば学校の座学で少しだけれられていた気がする。

 一部の防衛隊の探索が配信されているとか言っていた気がする。

 その時は自分にはえんだろうとそんなに気にしてなかったけど、まさかこれがそうなのか。

「あの~つかぬことをおうかがいしますが、配信というのはどこに配信されているのでしょうか」

「もちろん世界に向けてだよ~」

「世界ですか!?

「まあ、ほとんど国内からのアクセスだけどね~」

 実は、防衛機構のダンジョン探索が配信されているサイトがあるという話を聞いたことはある。

 だけどおれには全く縁がなくむしろ、ねたみに近い感情を覚えてしまいそうで意図的に見ないようにしていたのもあってどういうものなのかは全く理解できていない。

「すいません。ちょっといいですか? 防衛機構って国の運営みたいなものですよね。それが何で配信なんかしてるんですか?」

「それはね~国もお金が必要だからで~す」

「え!? お金ですか」

 俺の思ってたななめ上というか完全に上空からの答えが返ってきた。

 国が配信でお金もうけ? そんなことある? というよりこの国大丈夫か?

「まあ、それは半分じようだんだけど~。でも防衛機構に、お金がいっぱいいるのは本当で~す」

 冗談なのか。

「一番の目的は国民に対して理解を得るための~広報活動のいつかんで~す。それに職員もいっぱい給料もらえないと辞めちゃうでしょ~。だから各隊アクセス数によってインセンティブが付くんで~す」

「なるほど」

「世間の理解も欠かせないし~それに配信って言っても完全にライブじゃなくて少しだけタイムラグがあるの~」

「へ~そうなんですか」

「初期は録画で配信だったんだけど、やっぱりコメントとかできないとライブ感なくて配信がなやんで、ほぼライブの今の形になったの~」

「へ~っ、そうなんですね。ほぼライブで、完全ライブじゃない意味って何かあるんですか?」

「もちろん。花岡さんの前任者みたいなこともあるから」

「あ~~」

 聞かなかった方がよかったかも。放送事故を無くすための仕組みか。

「うちのチーム、東京本部でもかなり人気のある方なの~」

「そうなんですか?」

「毎回同接100万接続はかたい感じ~」

「ひゃ、100万ですか!?

「そうそう、だからあいも厚いの~」

 いや、うとい俺でもわかる同接100万ってとんでもない数字じゃないのか?

「みなさんすごいんですね」

「花岡さん、他人事な感じだけど今日から花岡さんも出るんだからね~」

「はっ? え~っと今なんと?」

「だから~花岡さんは今日が配信デビューだから」

「で、でびゅー?」

 いやちょっと待ってくれ。俺が世界配信デビュー? これは何かの冗談か? でも喜田さんのあのカメラが俺を驚かせるためのドッキリなはずないよな。

 四十歳の俺が本部の人気チームで配信デビュー!?

 何が起こってるんだ?

 何かのちがいか?

「花岡さ~ん。ちがいでも手違いでもないですよ~。今日から花岡さんもトップダンジョン配信者の仲間入りで~す」

 小谷さん、心を読まないでほしい。

 だけど心の準備が何もないままいきなりデビューすることになってしまったらしい。

 とんでもない出来事に現実感がうすいけど、これも仕事の一環なのは理解できる。

 ここはかくを決めるしかない。

 流石さすがにスライムどおりはニーズがないらしく、もう少し進んでから配信スタートとなるらしい。

 ダンジョン探索にはセイバーギアと呼ばれる装備が支給される。

 その中にはけんも含まれてたけど魔法じゃなくてこれで戦ったりするのか?

「小谷さん、おれ剣とかは使えないんですが」

「花岡さんは強化魔法使えたりしないんですか~。強化魔法が使えたら技術は後からどうにかなりますよ~」

「強化魔法ですか」

 確かに初級、中級、上級それぞれに身体強化魔法というのが載っていた。

 使う機会がなかったのでためしたことはないけど、初級なら俺でも使えるはずだ。

「それにセイバーギアは直接こうげき以外にも魔法の威力も上げてくれたりするから~。わたしのギアはこれ」

 小谷さんの手には少し変わった形のたんけんにぎられている。

「短剣ですか?」

「これはね~じん風の短剣って言って風属性の魔法をブーストしてくれるの」

「そうなんですね」

「うちだと大仁田くんが武器による直接攻撃が多いから、参考にするといいよ~」

「はい、わかりました。大仁田さんよろしくお願いします」

「俺一人だと前衛結構きついんで、花岡さんもいつしよに戦ってもらえると助かるっす」

 スライムをけながらダンジョンの奥へと進んで行く。

 まだほんの少し進んだだけだけど、卒業試験でのぞんだダンジョンよりもずいぶん広い。

 東京の地下にこんな場所が広がっているとは驚きだな。

 地上にここのモンスターがあふれたらパニックどころじゃすまない。

 実際にダンジョンに潜ると防衛機構の存在がどれだけ重要かわかる。

「花岡さん、いましたよ」

「あれはゴブリンですか?」

「そうで~す。人類の敵ともいえるゴブリンで~す」

 まだ少しきよがあるけど前方にはモンスターがすうひき見て取れる。

 その姿は映像で見たことのあるゴブリンそのものだ。

「それじゃあみなさん配信スタートしますよ」

「みなさ~ん、こんにちは~。後藤小隊の配信はっじまるよ~」

 ちがいとも思える小谷さんの声で俺の初めての戦闘と配信が始まった。


〝おおっ、はじまった~〟

〝まってた〟

〝いきがい〟

〝りんちゃんのこえ~かわええええ〟

〝ゴブリン?〟


「古今東西のえいれいよ、気高き、その力、そのたましい、その権能を我に示し、敵なるものを打ち倒す英知をさずけたまえ『ギリスマティ』」

 大仁田さんの発動した魔法は初級身体強化魔法『ギリスマティ』だ。

 大仁田さんの身体がうっすらと金色の光を放っている。

 大仁田さんの武器は俺のよりも二回りくらい大きいおのだ。

 所謂いわゆるせんというやつだろうか。

 若くて体力があるからあんな大きな武器を使えるんだろう。


〝陸人く~んがんばって~〟

〝大仁田いけ~〟

そつこう~〟


 大仁田さんがゴブリンの一団に向け走り出す。

 速っ。

 常人ではあり得ないほどのスピードでゴブリンへとせまり手にもつ武器をいつせんする。

 戦斧を軽々とき、一番手前にいたゴブリンははんげきする間もなくあっという間に斬りせられしようめつした。

 すごい。あつとうてきだ。

「ゴブリンも消えるんだな」

 卒業試験の時のホーンラビットやトラモンも消滅したけど、人型のゴブリンも同じくその場から消えてなくなった。

 学校の座学では学んでいた。

 モンスターはダンジョンで倒した場合はどういうくつかわからないけどその場で消滅する。そしてそれは地上に出てきたモンスターには当てはまらない。

 なぜか地上で倒したモンスターがダンジョンのように消えてなくなることはない。

 まるでゲームのような現象だが、これもある意味神のわざなのかもしれない。

「大気に宿るゆうきゆうせいれいよ、そのれいぶきを放て。が求めに応えて、ここにその姿を現せ! 『アイスバレット』」

 続いて、刀をかざした後藤隊長の放った氷のだんがんがゴブリンの頭をき飛ばす。


〝みなとちゃ~ん!〟

〝隊長~かっこいいい〟

〝初級にしてすでに至高〟

〝みんないつもより気合マックス〟

〝いつ見てもれする〟


 今のは俺も使ったことがある『アイスバレット』だ。

 流石は後藤隊長、りゆうれいえいしようからズバンと命中させゴブリンを消滅に追いやった。

「じゃあわたしもいっちゃうよ~」


〝おおっ、りんちゃん〟

〝りんかちゃんかわいい〟

〝風ひめ~〟

〝いっちゃって~〟