さすがは魔法の盾だ。

 モンスターの攻撃をものともしない。

 後方から三人のこうげき魔法が飛んできてホーンラビットを消し去ることに成功した。

 さっきより、スムーズに倒せた。

「オッサン、俺やることないんだけど」

「えっ? 陣内くんがやることないってことは、危険がなかったってことだから」

「まあ、そうなんだけど」

 陣内くん若いな。

れた敵は陣内くんがお願いします。絶対のじんですから」

「わかったよ」

 陣内くんの気持ちもわからなくはないけど、女の子もいることだし安全第一だ。

 陣内くんだって何かあれば、奥さんが悲しむことになるんだから。

「ねぇ、ねぇ。『マジックシールド』ってあんなだっけ」

「学校でためしたときはもっと小さくて薄かったと思う」

「そうだよね。花岡さんのって前面をほぼカバーしてるしなんかがんじような気がする」

「花岡さんですから。つうとは違うんだと思います。でも、そのおかげで私達も安全だし」

「たしかに。安全感というか、花岡さんいるだけで安心感がすごいよね」

「わたし花岡さんと同じチームで良かった」

「それ言えてる。カッコいいし」

「うん、大人って感じ」

「仕事の出来る人って感じするよね」

「間違いないよ」

 後衛の三人が何かはなし込んでるようだけど、上手く倒せたし、れんけいの確認でもしてるんだろう。

 やっぱり上手くいった時こそ見直しは大事だからな。

「オッサン、このダンジョンってホーンラビットしか出ねえのか?」

 試験官の方に目線をやるが反応はない。

「どうだろうな。まあ一階層だしそんなに強いモンスターは出ないのかもしれないな」

「まあ、試験はその方が助かるけど」

 普通に考えて、実戦経験のないこのタイミングでそれほど強いモンスターが現れるダンジョンにほうり込まれるとは考えにくい。

 ダメもとで試験官にたずねてみたけど、当然答えてもらえることはなく完全無視されてしまった。

 すこしくらい話をしてくれてもいいんじゃないかとも思ったけど、職務に忠実なのだろう。

 気を取り直し、目的地へと向かう。

「別所さん、あとどのくらいかわかりますか?」

「マップを見る限りだと、あと半分くらいじゃないかな」

 時計を確認すると、ダンジョンに入ってから一時間ほどが経過しているので、結構順調にきてるな。

「予定通りですね。残り半分、気合を入れてがんりますか」

 そこから、目的の場所までは特に変わったこともなく順調に進むことが出来た。

 ちゆう、ホーンラビットと何度か戦闘となった。

 複数現れた時はマジックシールドに込める魔力を増やしてカバーするはんを広げて対応すれば問題なく倒すことが出来た。

「花岡さん、あれですね」

 別所さんが指した場所には紙が置かれていた。

 確認すると紙には『戻るまでが試験です。気を抜かずに頑張ってください』と書かれていて北王地さんの署名なついんがされていた。

「よかった。どうやらこれで間違いないようですね」

「おおっ、これで俺も卒業決定だな」

「いや、ここにも書かれてるように戻るまでが試験だから。地上に戻るまでは気を抜かずに行こう」

 それに陣内くんの場合は筆記試験の出来にもよると思う。

 とにかく別所さんのナビゲートも適格だしここまでは順調だ。

 慣れればホーンラビットはそれほど難度は高くない。

 このままなら問題なく帰れそうだ。

 もし、試験に失敗するとすれば気を抜いた帰り道の方が可能性は高い。

 さすが北王地さん、言葉にがんちくがある。

 試験官の方を見ると、今度はうなずいてくれた。

 あとは、しっかり戻るだけだけど、そういえば先に入ったグループとすれ違ってもない。

 どうやら、チームごとに目的地とルートが違ったらしい。

 おれたちはここまで順調にこれたし、当たりのルートだったのかもしれない。

「せっかくだし帰りも、しりとりしますか」

「いや、しりとりはもういいって」

「どうせならこいバナとかしません?」

「それいいかも~」

「せっかくだしね」

 なっ!? 恋バナ? 恋バナってあの恋バナ? なんでダンジョンで!?

 いや、落ち着け。俺は聞き役にてつすれば二時間くらいなら何とかなる……か?

「おおっ、オッサンの恋バナとか興味あるな」

 うっ……陣内くん何を。

「あ~花岡さんの事聞きたいかも~」

 別所さんまで。

「興味ありますね」

 市川さんも。

「ぜひぜひ」

 大西さん……。

「え~っと、ここは唯一のこんしやである陣内くんのお話をおうかがいするのが一番参考になるのではないかと」

「え~っ、俺かよ」

聞きたいですね」

「別にいいけど。うちの奥さんとはひとめぼれだ」

「ひとめぼれですか」

「おう、会ったしゆんかんでんげきが走ったんだよ」

「電撃ですか」

「ドガ~ンときたぜ。それからもうアタックしたってわけだ」

「それはなんさいくらいの時ですか?」

「十五だったかな」

「そうなんですね」

 十五歳で、かみなりに打たれるような相手と出会って、結ばれるって映画か何かみたいだな。

 俺が十五歳の時は……。

 うん、悪くはなかった。

 生活の中に女の子がかかわってくるような青春イベントはかいだったけど、それはそれで楽しくやってた気がする。

「陣内くん、やるじゃないですか。私もそんな相手に会いたいな」

「市川さん、こればっかりは運命だからな」

「うらやましいな。ねえ、花岡さん」

「え? はい、うらやましいです」

「そうだろ、そうだろ。オッサンも早くけつこんしろよ」

「はは……」

「それはそうと、次はオッサンの恋バナだろ」

 陣内くんうらむぞ。

「私も花岡さんのお話聞きたいです。是非参考にさせてもらえたら」

「あ~そうですね~」

 参考にって参考にするような話はないんだ。

 ないんです。

 本当に何もない。

 んだ。

「花岡さん、モンスターです」

 大西さんが敵の出現を知らせてくれる。

みなさん、切りえていきましょう」

 天の助けか! 完全に詰んだ状態から、どうにか抜け出せた。

 いや、モンスターが天の助けってことはないけど今だけはありがたい。

「皆さん、ちょっと待ってください」

 とつぜん試験官が声を上げた。

 ダンジョンで初めて声を聞いたけど、どうかしたんだろうか。

「おかしいです。急激にくなっています。これは……」

 魔素ってたしか、ダンジョンの中で観測されてる空気中の成分で、モンスターの増減や活性化にえいきようがあるのではと考えられてるんだったか。

 目をらすと、ところどころ周囲が雪のけつしようのようにキラキラとあおじろく光っているようにも見える。

 これが魔素?

 魔素ってにんすることが出来るのか。

 だけど、さっきまではこんなことはなかったのに。

「ホーンラビットじゃないぞ!」

 その数は三。

 初めてみるモンスターだ。

 この階層にもホーンラビット以外のモンスターがいたようだ。

 その姿は何回か戦ったうさぎの姿ではなく、トラに近い。

 大型のねこのような姿をしているが、そのふうぼうは完全なにくしよくじゆうだ。

 あきらかにホーンラビットよりも強そうに見える。

「皆さん、げてください!」

 ??? 逃げろというのはどういう意味だろうか。

 モンスターを前にして逃げるってそんなことあるのか?

「あれはこの階層にいるべきモンスターじゃありません。今の皆さんでは危険です。私が時間を稼ぐので逃げてください」

 そういうことか。

「え? どういうこと?」

 試験官の声にメンバーにどうようが走る。

 たしかにホーンラビットよりはかなり強そうに見えるけど、試験官の人でも手に余るほどか。

 もしかしたら、魔素が視認できるこのじようきようも関係しているのかもしれない。

 だけど、時間を稼ぐって俺達が逃げたあと試験官の人はどうするんだ。

 もし一人でたおせるのならそんな言い回しにはならないはずだ。

 それって試験官の人が逃げ切るのは無理って事じゃないのか?

 試験官の人が俺達のせいになるって事か?

「おい、オッサンどうすんだよ」

 本当は試験官の指示に従うべきなんだろう。

 実力のおとる俺がいても足を引っ張るだけかもしれない。

 だけど、この状況で試験官を置いていくことは出来ない。

 昔からヒーローにあこがれた。

 ヒーローを夢見て、ずっとヒーローになりたかった。

 ほうを夢見てずっと魔法使いになりたかった。

 三十さいで魔法使いには成れなかったけど、四十歳をむかえた今の俺はだいどう士だ。

 そしてヒーローになれるかもしれない魔法という力も手にした。

 そんな俺が試験官を見殺しにする?

 それはない。

 俺が憧れたヒーローはそんなことはしない。

 そんなことをしてしまったら、たとえこの場を助かったとしても、俺はこれから防衛機構に入る意味を失ってしまう。

 ヒーローは人を助けるものだ。

 ピンチの時必ず現れてみんなを救う。

 それがヒーローだ。

 俺はそのために大魔導士になったんだ!

 ここでやらなきゃいつやるんだ花岡修太朗!

「陣内くんたちは逃げるんだ」

「は? オッサンは?」

「俺はここに残るよ」

「花岡さん?」

「市川さんも逃げてください。俺は後から追いかけますから」

「そんな……」

だいじようですよ。これでも俺、大魔導士ですから。それにこういう時は年長者が残るものですよ。さあ急いでください」

「無理ですよ。いつしよに逃げましょう!」

「いや~ずかしい話なんですが、実は久しぶりに長時間歩いたせいか足が痛くて走れそうにないんです。年は取りたくないですね~。すいません、後からゆっくり歩いて戻りますから大丈夫です。皆さんは先に行ってください」

「花岡さん、バカなことを言ってる場合じゃないんです。私が食い止めますからあなたも早く!」

「いや~~ピンチですね~」

「なにを……」

「ピンチをチャンスに、なんて。失礼ですがたぶん試験官さんも俺と同じくらいの年ですよね。若い人達のためにってカッコよくないですか? ここはオッサンパワーの見せ所でしょう」

「オッサン、じようだん言ってる場合じゃねえぞ」

「陣内くん! かわいい奥さんが待ってるんでしょう。運命の人なんでしょう。市川さんも運命の人がきっと待ってます。早く行ってください!」

「だけどよ!」

「こんな時くらいオッサンにカッコつけさせてください」

「……わるい。絶対帰って来いよ」

「大丈夫ですよ。女の子達をたのみました」

「わかってる!」

「花岡さん! 陣内くん?」

「俺達がいても役に立たない。みんな行くぞ!」

「で、でも」

「別所さん、大丈夫ですよ。元サラリーマンをめちゃだめです。このくらいのしゆは何度もくぐり抜けてるんです。楽勝ですから」

「花岡さん……」

「大丈夫です。オッサンの意地を見せてやりますから」

 自分でも、何を言っているのかよくわからないところもあるけど、今はこれがせいいつぱいだ。

 精一杯強がって、がおで別所さん達の背中を押す。

「花岡さん、わかりました。私が道を開きます! ゆうきゆうの大地に座し全てのいしずえたるその力を貸したまえ。その強固な意志をここに示せ『アースフィスト』」

 試験官が魔法を放ちモンスターが左右に割れ、道が出来る。

「行ってください!」

 陣内くん達が走って、奥へと抜ける。

「こっちだぞ! こっちだ!」

 声を上げトラっぽいモンスターの注意をひく。

 名前がわからないので、見た目と違ってちょっとかわいいけどトラモンとしておこう。

 初見のモンスターに俺が出来ることは限られている。

 ダンジョンでまだ一度も使っていない攻撃魔法はここで使うべきじゃない。

 このダンジョンで何度か使用した『マジックシールド』でモンスターの動きをおさえる。

「この盾は、すべてを護る絶対の擁壁。あらゆる敵を弾き、我に光の加護を授けよ。我は拒絶し我は決意す『マジックシールド』」

『マジックシールド』に今まで以上の魔力を込め、前面ではなく陣内くん達の背を護るように展開する。

 これでかれらが逃げる時間くらいは稼げるはずだ。

「試験官さん、申し訳ありませんが攻撃はお任せします」

ぶちです」

「田淵さん、いっちょ頑張ってみますか」

「花岡さん、かっこいいですね。ヒーローみたいですよ。実は、皆さんに逃げろとは言ってみたものの一人残ることに少々ビビってたんです」

「いやいや、田淵さんのほうがずっとイケてます。俺なんか、まだかなりビビってますけど」

「はは、四十歳のルーキーですもんね」

「ええ、あしががくがくしてますよ。まだ防衛機構に入隊もしてないですから、こんなとこで死んでられないです。ここを切り抜けたら防衛機構に入ってちょっとはモテてみたいです」

「いや~花岡さんが防衛機構に入ったら女の子が放っておきませんよ」

 何度かモンスターが陣内くん達をねらい『マジックシールド』に攻撃をかけるが、なんとか逃げ切ることができたみたいだ。

「まあ、ないと思いますけど、そんな夢見て頑張るのもアリですかね」

「とにかく生き残りましょう」

「それじゃあ、やりますか」

「花岡さん、帰ったらいつぱいどうですか?」

「いいですね~。是非」

 厳しい状況だからこそ、こんな会話が心の支えとなる。

「この盾は、すべてを護る絶対の擁壁。あらゆる敵を弾き、我に光の加護を授けよ。我は拒絶し我は決意す『マジックシールド』」

 暴発だけはしないよう意識し魔力マシマシで魔法の盾を前面へと展開する。

 モンスターの一ぴきが『マジックシールド』へと突進してくるが、問題なくはじき返す。

「いや、花岡さんの『マジックシールド』やっぱりおかしいです。なんですかその強度。今はそれが心強いですが」

 別におかしくはないと思うけど、トラモンにも魔法の盾は十分通用している。

 ただ、ホーンラビットと比べてもトラモンの動きはばやい。

「悠久の大地に座し全ての礎たるその力を貸したまえ。その強固な意志をここに示せ『アースフィスト』」

 弾かれたモンスターに田淵さんの魔法が襲いかかる。

「ギャン」

 確実にダメージをあたえてはいるが消失には至らない。

 一発ではダメか。

 やはりたいきゆうりよくもホーンラビットより上だ。

 後方へと下がり、『マジックシールド』をけ三匹がそれぞれ違う方向から回り込もうとしてくる。

 速い!

 広く展開させても一枚じゃ無理だ。

 一枚で無理なら複数展開させるだけだ。

「この盾は、すべてを護る絶対の擁壁。あらゆる敵を弾き、我に光の加護を授けよ。我は拒絶し我は決意す『マジックシールド』」

 ばやえいしようし、二枚目の『マジックシールド』を展開する。

 これで二方向はどうにかなる。

 もう一方は田淵さんが攻撃魔法でカバーしてくれているので、その間に三枚目の魔法の盾を発動する。

 これで三枚。

 三匹の動きにも対応できる。

 ただ『マジックシールド』の操作に少しばかり神経を使う。

 こんな風に複数展開させるのは初めてだし、こうやって敵に合わせて細かく動かすのも初めてだ。

 だけど、集中すればいける。

 サラリーマン時代の納期ギリギリの時のあの集中力をもってすれば、このくらいなんでもない。

「ははっ、三枚ですか。本当に花岡さんは……これは、本当に一杯おごらないといけないかもしれませんね」

 何度か、魔法の盾にモンスターがこうげきしてくるが今のところ破られる気配はない。

 さすがは魔法の盾。

 じゆもんにある通り本当に絶対の擁壁だ。

 凶悪なモンスターの攻撃であっても、問題なく弾いてくれる。

「私も負けてられません。大気に宿る悠久のせいれいよ、そのれいぶきを放て。が求めに応えて、ここにその姿を現せ! 『アイスバレット』」

 氷のだんがんが、先ほどダメージを与えたモンスターの頭をち抜く。

 やった。さすがは田淵さんだ。

 これであと二匹。

「田淵さん、さすがです」

「いや、本来こんな楽にはいきません。すべては花岡さんのおかげですよ」

 おれは魔法の盾で攻撃を防いでるだけだし、どう考えても田淵さんのおかげだけど。

 一匹減ったからと言って、まだゆうがあるとまでは言えない。

 それでも三匹から二匹に減ったことで視野が広がった。

 魔法の盾も一枚余っている。

 意識を集中させ、魔法の盾を動かしモンスターの一匹を二枚の盾でその場へと留めおく。

「そう使いますか。さすがです。大気に宿る悠久の精霊よ、その零下の息吹を放て。我が求めに応えて、ここにその姿を現せ! 『アイスバレット』」

 再び発動した氷の弾丸が正確にモンスターの頭部をとらえる。

「ギャン」

「もう一発! 『アイスバレット』」

 おおっ、すごい。これで残るは一匹。

 これっていけるんじゃないだろうか。

 死をかくしてのぞんでみたけど、田淵さんがゆうしゆうだからかトラモンを普通に倒せている。

 見た目はトラっぽいけど、その悲鳴は犬っぽい。不思議だけど、これがモンスターたる所以ゆえんか。

 まだ三枚の盾は有効だ。

 魔力を多めに注いだからかまだ消える様子はない。

 三枚を動かして最後の一匹を囲んで動きを完全にふうじる。

「はは、イビルキャットが、成すすべなしですか。「大気に宿る悠久の精霊よ、その零下の息吹を放て。我が求めに応えて、ここにその姿を現せ! 『アイスバレット』」

 動きを止めたトラモンの頭に氷の弾丸が命中する。

 トラモンの正式めいしようはどうやらイビルキャットらしい。

 とてもキャットってサイズではないけど。

「これで終わりです」

 二発目の氷の弾丸が正確に頭を撃ち抜きモンスターがしようめつした。

 さすがは田淵さん。

 命中精度がすごい。

「終わりましたね。これで終わりですよね」

 本当に倒してしまった。

「はい、もうだめかと思いましたが、すべては花岡さんのおかげです」

「いや、いや、俺は攻撃を防いでいただけです。しとめたのは田淵さんじゃないですか」

「花岡さん、あなたって人は……。花岡さんやっぱり男前ですね」

「急にどうしたんですか?」

 俺が男前? 同世代の男の人にそんな風に言われたのは初めてかもしれない。なんで急にそんな話になるのかはわからないけど、なんとなくずかしい。

「いや、本当に花岡さんに命を救ってもらいました。助けるつもりが助けられましたよ」

「いや、いや、さすがにそれは言い過ぎです。田淵さんがいてくれてよかったです」

 結果として、無事だったけどあの状況ですべての試験官が田淵さんと同じ行動をとれるかと聞かれれば、それはわからない。田淵さんがいてくれたから俺も助かったんだ。

「いえ、それより約束通り、帰って一杯やりましょう。私がおごりますよ」

「じゃあ、えんりよなく」

 戦いを終え試験官である田淵さんのマップを手に、地上への道をもどることにする。

 何度かホーンラビットが出現したが、田淵さんが優秀なので二人でも問題なく倒すことができた。

「田淵さん」

「ええ、地上への階段です」

 少し時間はかかったけどスタートから五時間ほどで地上へと帰ってくることが出来た。

「オッサン!?

「花岡さ~~ん!」

「無事だったんですね~!」

「もうだめかとおもいました~~」

 地上へと戻ると、俺の事を見つけたチームのみんながけよって来てくれて、市川さんをはじめとする女の子たちが泣きながらきついてきた。

 まあ、あの別れ方をしたらこうもなるよな。

 若い女の子に抱き着かれたことなんかはじめての経験だ。

 しかも三人。

 正直どういう反応をするのが正解なのかよくわからないけど、泣くほど心配をかけた事に申し訳ないという気持ちはありつつ、泣くほどに心配してくれたかのじよたちの気持ちがうれしかった。

「花岡さんは命の恩人です。この御おんは一生忘れません」

「私に出来る事なら何でも言ってください」

「もう、カッコよすぎます~」

 状況が状況だっただけに、これも理解はできるけど、若い女の子がオッサン相手に何でもとか言うもんじゃないですよ。

 それに、一生忘れないって、それほどの事じゃない。

 カッコつけてはみたけど、俺自身がカッコよかったわけじゃない。

 結果として無傷で終われたのも田淵さんがいてくれたおかげだし。

 後で聞いたところによると、学校の職員総出の救出隊が編成されている最中だったらしい。

 大事にならなくてよかった。

 想定外のアクシデントはあったけど実技試験はこれで終わりらしい。卒業試験の合否判定は明日には出るみたいだ。

 俺が出来ることは全部やったし、合否は神のみぞ知るといったところだけど手ごたえはあった。

 そして試験を終えた俺は田淵さんの仕事が終わるのを待って、約束通り一杯やりに来た。

「おつかれさまでした」

「いや、今日は本当にありがとうございました。あ~い。生きてるって感じですね~」

「ええ、これが本当の生きてる~ですね」

 これほどまでに『生きてる』を実感した一杯は初めてだ。

 二人でやってきたのは焼き鳥屋さん。

 焼き鳥は俺の好物の一つだ。

 いい年したオッサン二人だけなので気取る必要もない。

 安くてうまい焼き鳥屋さんで、かん祝いをあげる。

 最初の一杯は、かぼすちゆうハイ二百九十円だ。

 さっぱりして飲みやすいのにとにかく安い。

「今日は本当に助かりました。まさか一階層であんなイレギュラーが発生するとは。完全に死を覚悟したんですよ。あのダンジョンでイレギュラーが発生することなんかほとんどないんですけどね」

「運が悪かったんですかね」

「いえ、花岡さんがいてくれて運がよかったです。おかげで妻と子供を泣かせずに済みました」

「田淵さん、結婚してたんですか?」

「はい。そういう花岡さんは独身だそうで」

「いや~お恥ずかしい」

「やっぱりモテる男はちがいますね」

「え~っとだれの話ですか?」

「もちろん花岡さんです」

「モテてないですよ」

「またまた~今日も女の子三人泣かせてたじゃないですか」

「いや、あれはモテてたとかそんなんじゃないです」

 田淵さんは、あれを見て完全に誤解しているようだけどあれはそんなんじゃない。

 あれはつり橋効果というかとくしゆな状況が生んだだけだ。

 それに俺はモテてるから独身なんじゃない。

 全くモテないから独身なんだ。

「いや~あの時の花岡さんは本物のヒーローみたいでしたよ」

「それを言うなら田淵さんだって」

 二人共無事試験を終えたことで気分も上がりお酒がすすむ。

「ここだけの話、私戦うのは苦手なんですよ」

「またまた~」

「いや、まじめな話、適性が無かったから、この年で学校の講師なんです」

「そうなんですか? でも今日はだいかつやくでしたよ」

「だから花岡さんのおかげなんですって」

 田淵さんで適性が無かった?

 今日三匹のトラモンを倒したのに?

 防衛機構はそんなに厳しいのか。

 俺がこれから行くのはそういうところだということだろう。

「防衛機構で五年は働いたんですけど子供が出来てから限界を感じまして、異動願を出して今の職に」

「そうなんですね」

「ええ、十年以上になりますがこんなのは初めてだったんであせりました」

「なにはともあれ、無事に帰れてよかったですよ」

「そうですね。それはそうと、ダンジョンで途中になってた恋バナはどうなりました?」

「あ~~田淵さん聞いてたんですか?」

「いや~さすがに女の子達が、盛り上がってましたし、いけないとは思いながらも聞こえてました」

「そうですよね」

 密閉されたダンジョンで聞こえないはずないよな。

「で、どうなんですか。せっかくだし花岡さんの武勇伝聞かせてください」

「武勇伝なんかありませんよ」

「花岡さんにとっては当たり前すぎる話でしたか」

「いや、いや、いや。そんなバカな。俺独身ですよ。この顔ですよ。ないですよ。本当にないんです」

「やはり、花岡さんともなれば、そういったことを人に話したりはしないんですね。勉強になります」

 何やら、せいだいかんちがいされてる気がするけど、お酒の席での話だし気にすることもないか。

 最近、同世代の男性とお酒を飲む機会が無かったので、田淵さんと飲むのは楽しかった。

 田淵さんの家族も待っているので一時間半ほど飲んで解散となったけど焼き鳥もしかったし当たりのお店だったな。

 焼き鳥 鳥だんしやく

 また機会があったら利用したいお店だ。


§


 言われていた通りダンジョンでの卒業試験を終えた翌日にさつそく結果が発表され、俺は無事合格することが出来た。

 そして筆記試験に不安のあったじんないくんも合格することが出来た。

 そして何事もなく最終日を迎え、卒業式となった。

「え~みなさん、今日で卒業となりますが、今後の防衛機構の職員としてのかつやくを期待しています。ただ命より重いものはありません。絶対に無理は禁物です。私からの最後の教えは、『危なくなったら逃げろ』です。死んだら次はありません。逃げても次があります。そのことだけは忘れないでください」

 最後に北王地さんからありがたいお言葉を頂いて、本当に卒業となった。

 俺も北王地さんの言葉を胸に防衛機構でがんろうという決意を新たにした。



「花岡さ~ん。どうぞ~」

「ありがとうございます」

「もっと花岡さんとは仲良くなりたかったです~」

「そう言っていただけると俺もうれしいです」

「ほら~グラス空いてますよ。はいど~ぞ」

「ありがとうございます」

 学校を終え約束通り、クラスのみんなで集まって卒業パーティのようなものをしている。

 オッサンの自分がいると盛り下がるんじゃないかと思い、少しちゆうちよする部分もあったけど来てよかった。

 みんなオッサンである俺の事をづかってくれて、しきりにお酒を注いでくれたり声をかけたりしてくれる。

「花岡さん、私、雷にうたれちゃいました」

「雷!? 大西さん、大丈夫でしたか?」

「いえ、全然大丈夫じゃないです」

「ここにいていいんですか!?

「ここにいないといけないんです。もう全身つらぬかれちゃいました」

「全身ですか」

「そうなんですよ~、これが運命なんですね」

「ああ、そういう」

 大西さんがいきなり雷に貫かれたというからおどろいてしまったけど、どうやら表現だったらしい。

 運命の人か。やっぱり若いってらしい。

「オッサン、モテモテじゃね」

「ああ、陣内くん。冗談はやめてください。四十の独身男をつかまえてその冗談はさすがにキツイものがありますよ」

「は~オッサン、相当こじらせてるな」

「陣内くん、四十の独身オッサンがこじらせてないとでも?」

「ははっ、やっぱ花岡のオッサンおもしれ~な」

 本当に陣内くんには助けられた。

 陣内くんがいてくれたおかげで、ボッチをまぬがれた。

 口はちょっと悪いけど本当にやさしい、いい若者だ。

「花岡さん」

 急に花岡さん!? どうしたんだ陣内くん。

「改めてお礼を言わせてください。本当に助かりました。ありがとうございました」

 そう言うと陣内くんが深々と頭を下げてきた。

「頭をあげてください。あれはオッサンがカッコつけてみただけですから」

「俺、あれから家に帰っておくさんの顔みたら絶対に死んじゃだめだと思ったんだ」

「うん」

「花岡さんのおかげで死なずに済んだ」

おおですよ」

「俺にだってわかる。あれは俺じゃ無理だったって。校長の言葉じゃないけど、逃げてでも生きなきゃならない。そう気が付いたんだ。本当に感謝してる」

「そう言ってもらえたら無理してカッコつけた意味があったかな」

「いや、花岡さんマジでカッコいいからな。俺も年くったら花岡さんみたいになりたい。それと決めたんだ」

「いや、いや、陣内くんにそんな風に言われたらいたたまれないから」

「子供が生まれたら修太朗ってつけるから」

 予想外の申し出に面食らってしまった。

 俺に由来する名前を子供に?

 それはなおにすごく嬉しい。

 陣内くんと奥さんの子供か。きっとかわいいんだろうな。

 嬉しいけど、名前のせいでモテない子供が育ったらどうしようといういちまつの不安がよぎる。

 俺と同じ名前の子供。陣内修太朗くんか。

 案外わるくないんじゃないか?

 そんなことを考えていると、陣内くんは他のクラスメイトのところへと行ってしまった。

 ひとりでいると、今度は市川さんが話しかけてきてくれた。

「花岡さん、約束ですよ?」

「市川さん、約束ですか?」

「そうです。この前約束したじゃないですか」

「え~っと、それはもしかして」

「そうです。お食事の件です」

「すいません。てっきり社交辞令とばかり」

「花岡さん、社交辞令でさそったわけではありませんよ」

「それは、本当に失礼しました。ご一緒させていただければと」

「本当ですか!?

「もちろんです」

「断られなくてよかった」

 俺が断るなんてあるはずがないのに市川さんはお酒が入っているからか満面の笑みで喜んでくれている。

 俺なんかを本気で誘ってくれるなんて、市川さんなんていい人なんだろう。

「花岡さんとご一緒できるのを楽しみにしています」

「いえ、それはこちらです」

 俺は市川さんとれんらくさきこうかんして後日食事に行くことになった。

 そのあと別所さんもやって来てくれて、何回もお礼を言われてしまったけど、あまりに何回も頭を下げてくるのでこっちが申し訳ない気持ちになってしまった。

 この年で若い同級生とこんなえんが出来るとは思ってもなかったので、ほうが使えるようになって本当に良かった。

 中塚さん達や、大西さん達とも後日飲みに行く約束をして卒業パーティは解散となった。

 会社をめてあまり飲みに行くこともないだろうと思っていたのに、学校でこんなに飲み仲間が出来るとは思ってなかった。

 それにしても今回俺はいろんな人に助けてもらった。

 クラスメイトもだし北王地さんもだ。

 ダンジョンでは田淵さんにも助けてもらった。

 特にじよせいじんの人達には本当にフレンドリーに接してもらい十八年ぶりの学生生活がじゆうじつしたものとなった。

 見学が多くて、思ったようにはいかなかったけど、今思えば全部楽しかった。

 ちゃんと魔法が使えるようになったのが夢みたいだ。

 せっかく卒業までこぎつけたので、防衛機構に入って少しでも社会の役に立てるように頑張りたい。

 それが、俺が目指す大魔導士の姿だ。