「あ、ああ。それは、大丈夫なんだが。花岡さん、あんた何者?」

「いや、何者と言われても花岡ですけど」

「それはわかってるんだけども、本当にあんたただの生徒か? 今のがただの『ファイア』ってありえないぞ。『フレイム』でもあんな色にはならん。上級の『メルトファイア』並だぞ。生徒が使えるレベルを超えてるぞ? いやマジであんたなんなんだ?」

「なんなんだと言われても、一生徒の花岡ですとしかいいようが」

 先生の口ぶりからしてやっぱりあの炎は異常らしい。

 だけど、なんで……。

 いや、本当はうすうす気づいている。

 ステータス999のせいだ。

 それにもしかしたらジョブが大魔導士であることもえいきようしてるのかもしれない。

 本当にエラーじゃなかった。本当に俺はほうが使えた。しかも普通じゃなかった。

「花岡さん、それはわかってるんだよ。そういうことじゃなくて、なんで、あんなことになるんだ。講師になって結構つけどあんなのみたことないんだけど」

「あ~多分ステータスとジョブのせいじゃないかと。先生は俺のステータスとか知らないんですかね」

「そんな個人情報まで講師の俺が知るわけないだろう」

「そうなんですか。ここだけの話なんですけど、俺の魔力系のステータスが999なんです」

「は!? なんだって? もう一回いいか。耳がおかしくなったのかもしれん」

「999です」

「999?」

「はい999です」

「999」

 それっきり先生の動きが止まってしまった。

 数十秒のちんもくの後、先生がなにもなかったかのように次の魔法へとかかった。

「よし、次は氷系魔法の『アイスバレット』だ。それじゃあまず俺がやってみるから見てろよ。いくぞ。大気に宿るゆうきゆうの精霊よ、そのれいぶきを放て。我が求めに応えて、ここにその姿を現せ! 『アイスバレット』」

 先生の目の前に氷のかたまりが出現して、そのまま的へと飛んで行き見事に命中した。

「こんな感じだ。じゃあそれぞれやってみろ」

 さきほどと同じように順番に詠唱をしていく。

 俺の番だ。恥ずかしい気持ちがなくなったわけではないが二回目だし、っ切れそうだ。

「ん、んっ。大気に宿る悠久の精霊よ、その零下の息吹を放て。我が求めに応えて、ここにその姿を現せ! 『アイスバレット』」

 俺の前に氷の塊が現れた。そして的へと飛んでいき的に命中した。

 ただその様は『ファイア』同様普通ではなかった。

 一メートル大の氷の塊が的へと飛んでいき、的を台座ごと完全にかいしてしまった。

「うん、花岡さんは、もういいんじゃないかな。的がなくなってしまうから。国家機関とはいえ予算は限られてるんだ。そう何個もこわされても困るんだ。うん、花岡さんは見学な」

「見学ですか? 俺もみんなと同じように訓練しないと魔法使えないんですけど」

「うん、花岡さんにはこの教本をわたしておくから人のめいわくにならないように自習な。間違っても詠唱を口にしてはダメだから」

「口にしないと使えるかどうかわからないんですけど」

「うん、まあ、花岡さんは大丈夫でしょ」

「はぁ……」

 正直入校して二日目の俺に大丈夫と言われても全くひびかない。

 三ヶ月後に配属となるのにまさかこのまま実地訓練を積ませてくれないなんてことはないよな。大丈夫だよな。

 火と氷は使えるのがわかったけど、それ以外は使えるかどうかすらわかってないんだぞ。

 それからの実地訓練は本当にはしで見学することになってしまった。

 他の生徒がいろんな魔法にチャレンジするのを見ているだけだ。

 一応みんなと同じ教本はもらえたので、あとで一人で練習してみるしかないかもしれない。

 女の子たちが集まって何かを話しているみたいだけどなんとなくこっちに視線を感じるのが見学者の俺にはちょっと辛い。

「ねぇねぇ、花岡さんすごかったね」

「うん、あんなことあるんだ。もうびっくり。やっぱり大人は違うわ~」

「もしかしなくても花岡さんって出世するよね。間違いなくない? あの感じで将来も間違いないとなれば、ねぇ」

「やっぱり今しかないかも」

 ん……やることがないせいで身体が冷えてしまったのか少し寒気がする。

 やっぱり俺もみんなといつしよに魔法の訓練をやりたいが、先生がチラチラとこちらを見てくるのでおかしなはできない。

「私プロテクション系は全然ダメだった」

「私はエンチャント系がダメ」

「私なんか土と風がぜんめつ……」

 二時間ほどしてようやくみんなの訓練がしゆうりようしたようだ。

「花岡さん、今日の放課後はおひまですか?」

「え~っと市川さん、なにか俺に用ですか?」

 話しかけてくれたのは知的なふんただよう女子生徒の市川さんだ。

 眼鏡女子というのだろうか。眼鏡が似合う美人さんだ。

「よかったら、魔法のことも話し合いたいし食事でもどうかなと思って」

「俺ですか?」

「はい」

 市川さんとは話したことなかったけど、なんで俺のことをさそってきたんだろう。魔法の事を話し合いたいと言っているので、もしかして取り残された俺のことを気にかけてくれたのか?

 そうだとしたらこんなオッサンにまでやさしくしてくれる市川さんは天使だな。

 その流れで俺は市川さんと一緒に夕食を食べることになったが、彼女の希望でメニューはパスタになった。

 俺の四十年におよぶソロ人生の中で、わざわざ一人でお店にパスタを食べにいく、なんてことは一度もなかった。食べるなら、コンビニの安パスタが常に定番。お店で食べるなんて、それこそマジで二十年ぶりくらいだろうか。

「花岡さん、しいですね」

「ああ、本当に美味しいですね、やっぱりお店で食べるとちがいます」

「お口にあったようでよかったです。ところで花岡さんってすごいですよね」

「え~っとなにがでしょう」

「魔法です。他のみんなと違うというか別格な感じじゃないですか」

「別格というか、の外というか仲間外れな感じになってますけどね」

「いえ、それも他の人とは違う証明でしょ。すごいです」

「そう言ってもらえると気が楽になります」

 今日のことは結構へこんでいたので、社交辞令でも、市川さんの言葉は嬉しい。

「魔力がすごいんですよね」

「すごいというか、数値は高いみたいです」

「そうなんですね。失礼ですが花岡さんのジョブをお聞きしても大丈夫ですか? ちなみに私はリトルウィッチです」

「リトルウィッチですか。なんかかわいい感じですね。市川さんにぴったりですね」

「そんなことは……花岡さんお上手ですね」

「いや、本当ですよ。それで俺のジョブなんですが大魔導士です」

「大魔導士ですか?」

「はい大魔導士です」

「はじめて聞くジョブですけど、名前だけでもすごそうですね。さすが花岡さんです」

きようしゆくです」

「ふふっ、花岡さん、恐縮ですって、おもしろい方ですね」

「はは……恐縮です」

うわさで聞いたんですけど、花岡さんって独身なんですか?」

「あ、ああ、この歳でお恥ずかしい話ですが」

「そうなんですね。ちなみに女性のタイプってどんな感じですか?」

「女性のタイプですか。いや俺に女性をどうこう言う資格はないので」

「花岡さんって紳士ですね」

「いやいや、とんでもないです」

「ちなみに私とかどうですか?」

「え? 市川さんですか? それはもちろん若くてれいだと思います」

「若いって私もう二十三ですよ」

「いやいや、若いですよ」

 二十三で若くないって俺は四十だよ。

「私も防衛機構に入るにあたってそろそろいい人がいればな、なんて」

「市川さんだったらいくらでもいい人が見つかりますよ」

「そんなことないんです。花岡さんは私なんかどうですか?」

「いや~光栄です。冗談でもそんなふうに言ってもらえて。防衛機構にはエリートさんがいっぱいいますから市川さんなら選び放題ですよ」

 それからご飯を食べながら市川さんとれんあい談義に花がいた。咲いたといっても俺の経験から話せることは何もないので市川さんの話を聞くだけになってしまったが、若い子の恋愛談義を聞いていると自分も若くなったようなさつかくを覚えて、調子に乗ってしまいそうになるから危ない。

 市川さんが、今夜は帰りたくないなんて言ってくるからあやうく本気にしてしまうところだった。

 本気にしてたら、きっと学校中にオッサンのかんちがいキモいと噂がめぐったことだろう。

 お酒が入ってなくてよかった。

 酒が入るとそんな当たり前の冷静な判断が出来なくなっていた可能性もゼロではない。


 翌日からの座学は他のみんなと同様に受けることができたが実戦訓練は、相変わらず端で見学することとなってしまった。

 ただ、無駄に時間を過ごすのももったいなかったので、教本を片手に魔法の詠唱を暗記することにした。

 結構な時間があったので教本にのっている上級魔法までほぼ全ての種別をもうすることができた。

 もちろん実際に使えるかどうかはわからないが、覚えておいて損はないはずだ。

 教本を見てわかったことだが、上級になればなるほど詠唱が長くなり、そして口にするのがはばかられるような恥ずかしい文言が並んでいた。

 おそらく、俺の両親に詠唱を聞かれたら恥ずかしさで死ねる。

 やってみないとわからないが、詠唱の声の大きさが魔法の発動や威力に関係ないのであれば、小声で、可能ならほぼ無音に近い詠唱で魔法を使いたい。

 ただ、若い子たちは俺とは違うようで、大声できそって発動している。

「大いなる大地にまう小霊よ。その力を我にあたえ右手に全てを穿うがやりを! おおおお~『ロックランス』」

「やるな! 俺だって。空を舞うしらひめよ! その高貴な姿を見せ、そのりゆうれいなる力をここに示せ! いやあああああ~『ウンドカッター』」

 若いってうらやましい。俺は年齢とともに純粋さを失ってしまったのだろう。

 ただ、その羞恥心とてんびんにかけたとしても魔法を使えるってらしい。

 実習は、ほぼ自習と化してしまっているが、座学は基本的なことからダンジョンのことなど結構にわたっていて勉強になる。

 三ヶ月しかないので集中して聞かないといけないけど二十代のころに比べると頭に入ってくる量が明らかに減ってしまっている気がするので必死に授業を聞く。

 おかげで当初よりは知識が増えた気がする。


§


 一週間が経過し、約束通り五人で歓迎会を開くことになった。

 会場は大谷さんいきつけの居酒屋だったが、かなりいい雰囲気のお店だ。

 ただヤングの中にひとりオッサンが混じった感じで、かんはんじゃない。

 どちらかというと、先生と生徒って感じすらしてしまう。

「花岡さ~ん、飲んでますか~」

「ああ、中塚さん、飲んでますよ」

「何飲んでるんですか~?」

「レモンちゆうハイです」

「あ~いいですね~。わたしも飲もうかな~」

「中塚さん、結構飲みました?」

「まだまだこれからで~す」

 結構お酒が回っているようにも見えるが楽しい感じなので問題はないか。

「あ~中塚さんけがけ~。花岡さん、よかったらおしやくしますよ」

「木下さん、ありがとうございます。ありがたいんですけど酎ハイなので……」

「じゃじゃ~ん。そう言うと思ってこれを頼んでおきました~。日本酒で~す。名前はめいしゆ 『俺のさかぐら』で~す」

「『俺の酒蔵』ってまさかあのまぼろしの……」

「ああ、そういえばメニューに幻のとか限定とかって書いてました。どうですか?」

「はい、是非お願いします」

『俺の酒蔵』といえばプレミアがついている幻の銘酒。一度飲んでみたいと思っていた。

 だん日本酒を飲むことはほとんどないけど、『俺の酒蔵』のことは知っている。

 まさか普通の居酒屋で飲めるなんて思ってもみなかった。この機会をのがすことは絶対にできない。

「はい、どうぞ~」

「ありがとうございます。それじゃあいただきます」

『俺の酒蔵』は、き通っているがうっすらとはくいろをしている。

 ひとくち口にふくむとほうじゆんな味わいとあまが口中に広がる。

 そしていつも飲んでいる安酒に比べると明らかに深くそしてまろやかだ。

 まるで原料のお米を極限までみがき上げ、ぎようしゆくしたかのような味わい。

「うまい」

「あ~よかった。わたしのお酌はどうですか?」

「あ、ああ、普段お酌なんかしてもらうことがないので、お酒の美味しさがさらに深まる気がします」

「花岡さん、お上手ですね」

「いや、本当ですよ。普段はてじやくかんちゆうハイですからね。こんなに若くて綺麗な方にお酌をしてもらうなんて恐縮です」

「綺麗……」

 じようだんきで、こんなに若くて綺麗な人にお酌してもらう機会なんかめつにない。

 ちょっと申し訳ない気もするけど、『俺の酒蔵』はまだ残っているようなのでありがたく飲ませていただくとしよう。

「あははは~花岡さん、オカシ~。そんなことってあります? やっぱり大人の男の人って楽しいですね。もしよかったらこの後どうですか?」

きよう~抜けがけしすぎ。わたしもどうですか~?」

『俺の酒蔵』が効いたのか俺以外の四人はいが回ったようで完全に出来あがってしまっている。

 美味しすぎるお酒というのもある意味問題ありかもしれない。

 俺もそれほど強い方ではないが、今日は若い女性ばかりなので緊張からかいつもより酔いが浅い。

 というより四人がこの状態で俺が酔うわけにはいかない。

「ぶっちゃけ、私たちのことどう思いますか?」

「え? どうって」

「女としてです。花岡さんからみてどうですか!」

「そりゃあ、俺みたいなオッサンからしたら四人とも若くて綺麗ですし、キラキラして見えますよ」

「本当ですか?」

うそなんかつきませんよ」

「みんな~花岡さんがわたしたちのこと若くて綺麗でキラキラしてるって!」

「やった~!」

 料理も美味しいしお酒もうまい。みんな優しくて楽しいけど、若い子たちのテンションが高すぎてついていくのがせいいつぱいだ。

 だが、お酒とはこわいもので酔ったかのじよたちは無防備に俺へとボディタッチをり返してきた。

「やだ~花岡さん。結構きたえてるんじゃないですか~」

「いやいや、ほとんどなにもしてなかったんで、ただのぜいにくですよ」

「え~こことか結構まってるじゃないですか~」

「本当だ~。うちのお父さんと全然違う。やっぱり花岡さんだ~」

「い、いや、三宅さん。そこはちょっと」

「花岡さんっていい匂いがしますね。う~んいい感じ」

「ちょ、ちょっと中塚さん。俺をかいでも加齢臭しかしませんよ」

「え~全然違いますよ~」

 こんなやりとりがしばらく続いた。

 俺にとってはある意味天国である意味ごくだった。

 この年になると普通に女性と話をするぶんには特に問題はないけど、さすがにこうきんきよせつしよくがあると辛い。

 別に俺は女性にえんがないだけで興味が無いわけじゃない。

 平静をよそおっていても、こんな近くに若くてきれいな女性がいてこのじようきよう。結構ツライ。

 ただ、酔いにまかせて調子に乗ると明日からがおそろしい。

 鋼の意志で彼女たちのボディタッチをしのぶ。

 そうこうしているうちに、そろそろお店を出る時間だ。

「ちょっとトイレに行ってきます」

 俺は伝票を手に取って先に会計を済ませておく。

 五人で結構飲み食いしたのでそれなりの金額だったが、今日は中塚さんたちが俺のために設けてくれた席だったしありがたい限りだ。

 あとは彼女たちをタクシー乗り場まで送っていかないといけないな。

「お待たせしました。それじゃあそろそろ帰りましょうか」

「じゃあお金を払いま~す」

「ああ、それはだいじようですよ。帰りましょう」

「え~そうなんですか~。は~い。それじゃあ花岡さんのおうちに帰りましょう」

「賛成~花岡さんのお家に帰りま~す」

「いやいや、自分のお家に帰りましょうよ」

「は~い、花岡さんちがいいで~す」

 タクシー乗り場についてもそんな問答が続いたが、どうにかタクシーに乗ってもらい自分たちの家に帰ってもらうことに成功した。

 間違っても四人もの若い女の子を俺の部屋にあげるわけにはいかない。

 目につくところに変なものはないと思うが、オッサンのリアルな生活の場を見られたら、明日からけいべつされてしまうかもしれない。

 これからの学校生活を快適に過ごすためにもそれはけたいところだ。

 それにしても、いくら歳がはなれているとはいえ、若くて綺麗な女性にボディタッチされるのはげきが強すぎる。

 おかげで『俺の酒蔵』で回ったアルコールが一気に揮発して抜けてしまった。

 こんなことがしたくて防衛機構を志したわけではないが、俺も男なので全く悪い気はしない。

 それにしてもオッサンとはいえ男を前にあの酔い方は危ない。

 彼女たちの事が心配になってしまう。

 木下さんってせするタイプなんだな。中塚さんも……。

 いやいや、歳の離れた同級生相手に俺はなにを考えているんだ。

 家に着いたら缶酎ハイを飲んで気を落ち着けよう。そうしよう。


§


 昨日は楽しくて飲みすぎてしまった。

 若い女性を前にして酔うわけにはいかず、飲んでいる最中は、頭もはっきりとしていたし、酔った感覚はなかったけど家に着いて酎ハイを飲んだのがよくなかった。

 一気に酔いが回って、ねむおそってきた。

 どうにかベッドへとたどり着きにも入らずそのまま寝てしまった。

 そして朝目が覚めると、当然のように完全なるふついになっていた。

 ここまでの二日酔いになったのは、まだ自分の限界を知らなかった大学生の時以来かもしれない。

「あ~身体が重い……」

 まだ身体のアルコールを消化しきれていないようで、頭が痛いしボ~ッとしてしまう。

 のどかわくので水を飲んでみても、体調は変わらない。

「昨日、シャワーも浴びずに寝たんだなぁ。それにしても中塚さんたちかなり酔っぱらってたな。タクシーに乗せたから大丈夫だとは思うけど。やっぱり若いってすごい。四十のオッサンがああなると、警察呼ばれそうだよ」

 大学生の時に一度だけおくがなくなるほど飲んでしまったことがあるが、朝目を覚ますと、そこには見たことのないてんじようではなく、青い空が広がっていた。

 小さな公園のわきでひとりでていた。

 その日は、同じ大学の学生が三十人ほどいたはずだが、どうしてそんなところでひとり寝ていたのか全く思い出せなかった。

 季節は十一月のしよじゆんだったので目を覚ました時にはかなりんでいて、あと一ヶ月か二ヶ月先に同じことをしていたら、目覚めることはできなかったかもしれない。

 それ以来、反省して深酒をしないようにしていたのに、『俺の酒蔵』が美味しすぎた。

 噂に違わぬ味わいだった。

 それに最後はみんな酔っぱらって大変な感じになってしまったが、俺も男だ。

 あんなにかわいくて若い女の子たちとお酒を飲めて楽しくないはずがない。

 ひとり家で酎ハイを飲むのとは違った雰囲気と楽しさにとしもなく調子にのってしまった。

 いまさらながら彼女たちが無事に帰れたか心配になり、れんらくを入れておいたが、すぐに四人からお礼と、また一緒に飲みに行きましょうと返信がきた。

 社交辞令だったとしても四人からの返信はうれしかった。

 結局、お酒が完全に抜けるのに夕方までかかってしまったので、せっかくの土曜日は一日ゴロゴロして終わってしまった。

 夜は卵ぞうすいを作って食べたが、無理をさせたぶくろみ渡ってうまかった。

 翌日にはさすがにお酒は抜けていたけど、特にやる事もないので学校の魔法教本を読み返す事にする。

 初級の魔法の詠唱は、学校にいる間に全て覚えた。

 あとは中級と上級だが、等級が上がるほど、詠唱も長く、そしてちゆう感が増している気がする。

 中級以上になると、発動するためには初級と違い、それなりに職業適性が必要となるらしい。

 つまり、俺もどの魔法が使えるのかを知るためには実際に詠唱してためしてみないとわからないということだ。

 今は実地訓練から外されているが、学校にいる間になんとかお願いするしかない。

 自分でも自分の発動した『ファイア』がおかしいことくらいは理解しているので、勝手にひとりで中級魔法を発動してみる気にはなれない。

 初級であれなら中級がどんなことになるのか……。

 元々、勉強はきらいではない。

 そして夢にまでみた魔法だ。

 俺はこの日、中級魔法の詠唱をかんぺきに頭に入れることができた。

 翌日からはまた学校生活が始まったが、実地訓練は相変わらず端で見学させられている。

 まさか卒業までずっとこのままってことはないよな。

 他の生徒たちが、楽しそうに魔法を発動させているのをみて不安になってくる。

「どうされました? 体調でも悪いんですかね。大丈夫ですか?」

「え? あ、ああ、いやそういう訳ではないんですけど。あなたは?」

「あ~私はあれです。この学校の~なんというか雑用係のようなものです」

 そうがらな男性に声をかけられた。

 パッと見、六十歳は超えているように見えるし、雑用係と言っているので、定年後再雇用で働いているのかもしれない。

「実はお恥ずかしい話なんですが、実技から外されてしまったんですよ。ハハハ」

「なにか、まずいことをやってしまったとかですか? この学校で実技を外されるなんてことは普通ないはずなんですけどねぇ」

「あ~まずいといえばまずいことをやったかもしれません」

「もし差しつかえなければお聞きしても?」

「それが、的を壊してしまったんです。それも二台も。知ってますか? あの的ひとつで百万円以上するそうなんです。それを二台も壊してしまったので、こうして端で見ておくように言われてしまったんです」

「壊したというのは魔法でということですか?」

「はい、『ファイア』で壊れてしまいました」

「それはおかしいですね。あの的は上級魔法にも耐えうるたいきゆうせいを持っているはずですが」

くわしいですね。それが俺はちょっとりよくとかが多いみたいで、そうなってしまったみたいです」

「ちょっと魔力が多いぐらいでは、そんなことには……あぁ、あなたが……」

「どうかしましたか?」

「いえ、そういえば名前も名乗っていませんでしたね。私は北王地と言います」

「ごていねいに。私は花岡といいます。よろしくお願いします」

「花岡さんですね。それではまたお会いしましょう」

「ああ、学校でお会いするかもしれませんね」

 会話を終えると、北王地さんと名乗った男性はその場を去っていった。

 それにしても北王地さんか。優しそうな人だな。初めて聞く名前だけど立派な名前だ。

 結局、その日も見学するだけで終わってしまったので、かわりに座学だけは集中して受けた。

 ただ、この学校にきてわかったことがある。

 魔法のじゆもんなど自分の興味が強いことに関しては、問題なく覚えることができるがそれ以外の勉強については、大学生の時に比べ明らかに覚えられなくなっている。

 話には聞いていたが、これが老化というやつか……。

 顔については、昔からけているといわれていたので今更だが、脳の老化を実感してしようげきを受けてしまった。

 やばい。授業についていくためにも、もっと予習、復習をしないといけない。

 だけどある意味外見も中身も本当のオッサンになってしまったみたいで悲しい。

 高校までは社会とかの暗記科目はかなり得意としていただけに余計に悲しい。

 最近調子に乗って飲み過ぎてたし今日はお酒抜きで家で復習しよう。


 翌日、学校に行くと朝、先生から放課後、校長室に行くよう伝えられた。

 なんでおれが校長室にとは思ったが、先生が結構しぶい顔をしていたので、いいことではない気がする。

 もしかしたら壊した的を弁償しろとかいわれるのか?

 まさか退学ってことはないよな。

 座学もがんらないといけないと昨日心に決めたにもかかわらず、呼び出しが気になって授業に集中することができなかった。

 休み時間にはクラスメイトも何人か話しかけてくれていたが、上の空で話した内容はよく覚えていない。

 老け顔以外は目立ったところのなかった俺は、大学までの学生生活の中で呼び出しをくらったことは一度もない。それなのにまさか四十歳で、しかも校長から呼び出しをくらうとは。

 ゆううつなまま放課後をむかえ、校長室に向かうことにする。

 教室を出ようとしているとじんないくんが声をかけてきた。

「よお、オッサン。どうしたんだ? なんか暗くないか?」

「あ~それが、これから校長室に呼び出されてるんだ」

「校長室!? オッサンなんかやったのかよ」

「いや~どうだろう」

「そうか、まあ頑張れよ」

「ああ、頑張るよ」

 陣内くんのエールを受けてとぼとぼとろうを歩いていく。確か校長室はこのき当たりのはずだ。

 コンコン。

「生徒の花岡です」

「ああ、入ってください」

 中から校長の声が聞こえてきたので、きんちようしながらとびらを開けて中に入る。

 中に入ると校長先生とおぼしき男の人が机の前にすわっていた。

「あ……れ。あなたは、北王地さん?」

「ああ、花岡さん、呼び立ててすいませんね」

「北王地さん、もしかして……」

「この学校の校長の北王地です」

「あ、昨日は知らなかったとはいえ失礼しました」

「あ~大丈夫。昨日の感じで大丈夫ですよ。校長といっても雑用係みたいなものですから」

「そうですか。それで、ご用件は……」

「ああ、それなんですが、明日から放課後私と課外授業をしませんか?」

「課外授業ですか?」

 校長先生と課外授業? この感じだと俺だけっていう意味だよな。

「はい。この学校はあくまで防衛機構に入るための訓練校です。それが実技を見学というのは本来あってはならないことなんです。それについては、知らなかったとはいえ私の不徳のいたすところです。本当に申し訳ありませんでした」

「い、いえ、校長先生のせいではないので」

「実は、生徒の細かいデータは私と教頭しか知らないのです。学校とはいえ個人情報ですからね。なので花岡さんのステータスについてはいつぱん職員は知らなかったんです」

「ということは、校長先生は俺のステータスのことは……」

「もちろんあくしています。ただあまりに数字がとつなので、疑ってはいました」

「ああ~、そうですよね」

「それに聞いたことのないような数字と職種なので、それがどういったことになるのか考えが及んでいませんでした。本当に申し訳ありませんでした」

「頭を上げてください。それは、もう大丈夫ですから」

「ありがとうございます。的を壊したと聞きました。今まであれを壊した生徒は一人もいませんでした。それを壊したということは、やはりステータス999は伊達だてではないということです。しかも初級の『ファイア』でそのりよくということは、梅沢がちゆうちよしたのも理解はできます」

「すいません。壊してしまって。こんな事になるとは思ってなかったんです」

「いえ、それは花岡さんのほうの威力が想定をえていたというだけで、花岡さんには責任のない事ですから」

「そう言ってもらえると」

「ただ、このままでは花岡さんに実技練習をしてもらえないのも事実です。ですから、放課後に私と魔力のコントロールの練習をしませんか? うまくいけば魔法の威力も調整できるようになると思います」

「的を壊さないでよくなるんですか?」

「なにしろ前例がないのでお約束はできませんが、可能性はかなりあると思いますよ」

「そうなんですね。そういう事であればお願いします」

「わかりました。それでは明日から放課後、訓練所に集合という事で」

「はい」

 北王地さんが、この学校の校長先生だったとは思いもよらなかったが、現状に不安を覚えていた俺にとってはまさに渡りにふね

 北王地さんの提案をありがたく受けさせてもらった。

 そしてさつそく翌日の放課後、訓練所に向かうと北王地さんは、先に着いて待っていてくれた。

「それじゃあ、よろしくお願いします」

「はい、それじゃあ早速はじめましょうか」

「はい、どうすればいいですか?」

「まず基本的な事ですが、魔力と適性があれば、正しい手順でえいしようすれば魔法は発動します。ただし同じ魔法でも、術者の資質で威力は異なります。この資質とは魔法に関するステータスと職業にあたります」

「はい、それは授業で習いました」

「そしてステータスが高ければ、それだけ魔法の効果を強く発現できるという意味ですが、魔法の効果に強くかんしようできるということは、魔法の効果をマイナスの方へと作用させることもできるということです。つうはそんなことはしませんが」

「それじゃあ、訓練すれば魔法の威力を弱めることもできるということですね」

「そうです。花岡さんの場合全てのステータスが999となっていますので、威力も999であれば、それを操作する能力も999のはずです。なので必ずできると思います。そして訓練で弱めることができるようになれば、更に強めるようにもできるようになると考えるのがいつぱんてきです」

「強くですか。これ以上強くすることに意味があるんでしょうか」

「花岡さん、確かにこの学校だけを考えれば意味はありませんが、卒業すればモンスターとの戦いが待っています。それを思えば魔法の威力はいくらでも強い方がいいと思います」

「そうですね。それはその通りだと思います」

 そうだ。俺の目的はこの学校でいい成績をおさめることじゃない。学校を出てから防衛機構でしっかりと役目を果たすことだ。

 実際のモンスターがどの程度の力を持っているのかはわからないが、モンスターとのせんとうにおいて魔法の威力は強いにしたことはない。

 そのためにも俺も北王地さんに鍛えてもらって、早く実技訓練にも参加できるようになりたい。

「お願いします!」

「はい。それでは早速はじめましょうか」

 あらためて北王地さんに教えをう。

 ずっと実技から遠ざかっていたしなにをするのか今から楽しみだ。

「それじゃあ、そこに座って目をつぶってください」

「はい」

「そのまま自分の心臓から放たれている血液の流れを意識してください。魔力のじゆんかんは血液の循環と重なっています。血液の流れを意識することで魔力の流れを意識できるようになります」

 北王地さんに言われるまま、目を閉じて心臓のどうを感じる。心臓の鼓動を感じることはできるが、血液の流れと言われても全くわからない。

「どうでしょうか? だんだん感じることができるようになってきましたか?」

「すいません。全くわかりません」

「いやいや、最初はそんなものですよ。それじゃあ目を開けてください。ひとつ私とあくしゆしてみましょうか」

「握手ですか」

 そう言うと北王地さんがスッと目の前に手を差し出してきたので、そのままにぎり返す。

 そのしゆんかん、北王地さんの手から熱の波のようなものが俺の身体に向けて伝わってくるのを感じた。

「どうでしょうか。なにか感じますか?」

「はい、熱の波のようなものがし寄せてきます」

「さすが花岡さんです。それが魔力です。今私が、花岡さんに向けて魔力をおくり込んだんですよ。まずは、自分の中の血液の流れといつしよにその熱波を感じられるようになれる必要があります」

「やってみます」

 再び目を閉じて心臓の鼓動を感じる。するとさきほどまで全くなにも感じなかったのに、心臓の鼓動に合わせて温かい何かが身体を回っているのがうっすらと感じられる。

 これが俺の魔力。

 その感覚にフォーカスして意識してみる。

 しばらくすると、うっすらとしていたその感覚がじよじよにはっきりと感じられるようになってきた。

「花岡さん、今度はどうでしょうか」

「はい、今度は感じることができました」

「いやいや、さすが花岡さんですね」

「そんなことは……」

「実は魔力の流れを感じるのは結構難しいんです。普通一ヶ月以上かけて感じられるようになればゆうしゆうなんですよ」

「え!? そうなんですか」

「そうなんです。なので花岡さんはやはり規格外です。すごいのはわかっていましたが、これほどスムーズにいくとは思っていませんでした」

「はぁ、自分ではよくわからないですが、うまくいったなら嬉しいです」

「それじゃあ、今日は今つかんだ感覚を慣らすために、この訓練を続けましょう」

「はい、わかりました」

 結局この日は座ったまま魔力の流れを感じるだけで終わったが、終わるころには意識すれば完全に自分の魔力の流れを感じられるようになっていた。

 北王地さんによれば、そのうち意識しないでも自然と魔力の流れを感じているような状態になるそうだ。

 魔法に関する実技での進歩を感じることができたのは、これが初めてといっても過言ではない。

 まだ初日。わずかな一歩かもしれないけどなおに嬉しい。

 正直、一人取り残されてる気がして不安が大きかったけど、これで少しだけ未来が開けた気がする。


§


 翌日登校すると、すぐに陣内くんが話しかけてきてくれた。

「オッサン、きのうは大丈夫だったのか?」

「ああ、大丈夫だったよ。魔力の流れを感じられる練習をしたんだ」

「魔力の流れ? そんなのわかるのか?」

「それが最初はわからなかったけど、手伝ってもらって徐々にわかるようになってきたよ。これから放課後は訓練することになったんだ」

「へ~っ。ところで魔力の流れがわかるとどうなるんだ」

「魔力の威力をコントロールできるようになるそうだよ」

「そうなのか。まあ、俺はとにかく全力で行くだけだ。オッサンも頑張ってな」

「頑張るよ」

 実は家に帰ってからも、魔力の流れに意識を向けていた。

 酎ハイを飲んでからはさすがに集中することが難しくなって、あきらめた。

 どうやらお酒を飲むと魔力がわかりづらくなるらしい。

 とにかくこれから毎日続けるだけだ。


 訓練は嘘をつかない。

 今日の朝目を覚ますと、明らかに昨日よりもスムーズに魔力の流れを感じることができるようになっていた。

 昨日に続き朝から自分の成長を実感できてテンションが上がる。

 現金なものだけどテンションが上がると授業にも身が入る。

 いつも以上に集中して講義に取り組むことが出来てる。

 休み時間には市川さんに、夜に食事でもとさそわれたが、課外授業のことを伝えてていちようにお断りした。

 本当は市川さんのような人の誘いを断ることは断腸の思いだった。

 だが今は魔法を使えるようになることに集中だ。

 僅かに進んだとはいえ完全に他の生徒よりもおくれているんだから。

「それじゃあ、課外授業が落ち着いたらまた誘っても大丈夫ですか?」

「はい、もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」

「よかった」

 市川さん、なんていい人なんだろう。俺が断ってしまったのに、また誘ってくれるらしい。

 社交辞令かもしれないが、それでもやっぱりれいな女の人に誘ってもらえるなんて独身男にとっては夢のようだ。

 俺のやる気とは裏腹に実習はいつも通り見学だ。

 今のままなら何度やっても的をこわしてしまうだけなので、北王地さんと相談して、調整できるようになるまでは今まで通りということになった。

 ただ、見ている間にも魔力の訓練は出来る。

 身体に魔力を張りめぐらせるよう意識しながら魔法教本を暗記していたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。

 自分なりにじゆうじつ感を覚えて授業を終え、校長室へと向かう。

「ああ、花岡さん。調子はどうですか?」

「はい、昨日帰ってからも練習したので、昨日よりもく感じることができてます」

「ほ~っ。さすがですね。それじゃあ次にいってみましょうか」

「はい」

 次のステップに進めるのか。素直に成長しているような気がして嬉しい。

「魔法を使う時、無意識にですが詠唱と一緒に必ず魔力を込めて放出してるんです。なのでそれを意識して放出する魔力の量を調節できれば、魔法の威力も調節できるということなんです」

「そうなんですね」

「今から花岡さんには、魔法の詠唱なしで魔力の放出だけを練習してもらいます」

「詠唱なしに魔力の放出ですか?」

「はい。初めはわかりやすいようにてのひらからでもいいかと思います。慣れてくれば身体全体から意識した方へ放出できるようになります」

「わかりました。どうすればいいんでしょうか?」

「感じられるようになった魔力の流れをそのまま掌から外へ流すイメージです。念のため訓練所でやってみましょう」

「わかりました」

 俺と北王地さんは、昨日と同じように訓練所へと移動して訓練を始めた。

 ずっと意識していたおかげで魔力の流れはもうはっきりとわかる。

 この魔力の流れを右手に意識する。

 なんとなく右手の魔力の流れが増えた気がする。

 しばらく、右手を意識し続けると、指先から魔力が流れ出ているような感覚がしてきた。

 だけどまだ指先だけで掌から出ている感じではない。

 更に掌に意識を集中して、全身を流れている魔力が右手に流れるようイメージする。

「あ、なんとなくでてる気がします」

「本当ですか? 花岡さん、さすがですねぇ。さすがはだいどう士です」

「そうですかね。でもそんな気がするだけかもしれません」

「いやいや、花岡さんですから、ちがいないでしょう」

 俺だからというのはよくわからないが、められているようなので悪い気はしない。

「花岡さんにはきちんとお話をしておいた方がいいと思いまして」

「はい、なんでしょう」

「ちなみに私の魔力系ステータスの平均値はどのくらいだと思われますか?」

 訓練校の校長先生までしている北大地さんの数値が低いはずはないが、俺の999は少しおかしいようなのでそれを考えても半分の500ぐらいだろうか。

「500くらいでしょうか」

「はは、それはまた。私の平均値はだいたい100です」

「100ですか」

「はい、これでも高い方です。他のステータス同様魔力系の平均的な数値は50前後ですから」

 人のステータスなんか気にしたことがなかったから知らなかったが、魔力系のステータスも平均値は50だったのか。それじゃあ俺の999って。

「花岡さんの数値がいかに高いか理解してもらえましたか?」

「え、ええ」

「実は花岡さんの職業の大魔導士ですが、過去に一人だけいたそうです」

「えっ、本当ですか?」

「はい。六十年以上前のことになりますが。つまり記録されている上では花岡さんは史上二人目の大魔導士ということになります」

「史上二人目ですか」

「はい。ごくまれに魔導士という職業を持った方が現れることがあるのですが、大魔導士の職業はあまりにレアすぎて、遺伝なのかとつぜん変異的なものなのか、出現条件が全く解明されていません」

 出現条件……。

 それってたぶん『四十さいどうてい』だよな。

 それにしても四十歳童貞は過去六十年以上さかのぼっても俺が二人目なのか? まあ、このそうこんの世の中でそうはいないと思っていたが、そこまでか。

 いや、もしかしたら他にも何か条件がある可能性もゼロではないか。

「その名が示す通り、大魔導士は全てのほう使つかいの頂点といっても過言ではありません。現状、くにでは十二人のどうが魔法使いの頂点。えんたくの魔法使い、聖なる十二人ホーリートゥエルブがその座についています」

「聖なる十二人ですか。なにやらすごい名前ですね」

かれらはかつて防衛機構のエースとしてモンスターとうばつせんじんを切って戦っていた人たちです。そして彼らの魔法ステータスは開示されてはいませんが300~400程度ではと言われています」

 300~400か。数字をあげられてもよくわからないけどたぶんすごいんだろう。

 聖なる十二人だもんな。

 魔法だから聖っていうよりな気がするけど聖の方がすごそうではある。

「今はねんれいもあり半数は組織のトップとして座していますが、その力は他の職員とは一線を画しています」

「そうなんですか」

「大魔導士はその魔導士のさらに上位職と言われています。ひとつクイズです。史上ゆいいつの大魔導士はどのような人生を送ったと思われますか?」

「それは、魔導士より上なのであれば、モンスターをたおしに倒して防衛機構の重役にでもなったんじゃないですか」

「いえ、残念ながらそうはなりませんでした。その方はダンジョンでモンスター相手にばくして早逝されてしまいました」

「自爆!? それってもしかして」

「はい。今の花岡さん同様、魔法の威力が強すぎてダンジョン内でだいばくはつを起こしくなったと伝わっています。配属されて一ヶ月後の出来事だったそうですが、花岡さんと同じ四十さいだったそうです」

「一ヶ月!?

 まじか……。

 衝撃の事実に言葉を失ってしまう。

 配属されてたったの一ヶ月で亡くなったのか!

 しかも俺と同じ四十歳。とても他人事とは思えない。

 俺もこのまま卒業して配属されてしまったら同じ運命を辿たどるかもしれない。

 しかも四十歳童貞のまま。

 せっかく四十歳にして魔法が使えるようになってあこがれの防衛機構にあと二ヶ月頑張れば入れるところまできたのに、自爆して死ぬ運命だけは避けなければならない。

「北王地さん! 早く訓練を再開しましょう。せっかく魔法が使えるようになったのに俺は死にたくありません」

「わかっていますよ。ただ、そういう可能性もあったということだけ頭に入れておいていただければだいじようです」

「それはもちろんです」

 俺はここで北王地さんに出会えてラッキーだった。

 史上二人目の大魔導士も配属とともにそくばくなんてことになったらいやすぎる。

 防衛機構に入ることを決めた以上、多少の危険があることはり込み済みだ。最悪、モンスターと戦って死んでしまうことも考えた。

 ただ、自分が自爆することは想像出来なかった。

 もちろん、そんなかくは出来ない。

 そこから俺の集中力は今までにないほど高まり、ちようそくで次の段階へと達した。

 それは魔力の放出量の調整。

 これを行うことで、実際詠唱した時に魔力をしぼれば威力もげんすいするらしい。

 今は詠唱なしなので魔力の放出量だけに集中している。

 現場では実際にあの詠唱をしながらこれを同時に意識するとなると格段に難易度が上がりそうだ。

 北王地さんの指導がいいのだろう。

 この場においてはそれなりに形になってきている気がする。

「やはり、花岡さんはすごいですねぇ。この二日でここまでできるとは思ってもいませんでした。ここまでできれば、もう少しで魔法を使っても大丈夫だと思いますよ」

「本当ですか!?

 北王地さんの言葉にテンションが一気に上がる。

 魔法が使えるようになる。

 俺の夢だった魔法使いになれる日がすぐそこにせまっていると思うと、いてもたってもいられなくなってしまった。

 それから、俺は休みの日を除いた放課後、毎日のように北王地さんに付きってもらい訓練に明け暮れた。

 何度かクラスメイトが食事会とかに誘ってくれたけど、断腸の思いで丁重にお断りして訓練にぼつとうした。

 若い女性が誘ってくれることなんか、俺の人生でもうないかもしれない。


 だけどここで気をゆるめてしまうと自爆まっしぐらだ。

 まさか四十歳にして断腸とはどのような気持ちなのか身をもって知ることになるとは思ってもいなかった。

 そして、腸がちぎれるくらい没頭したおかげもあり、北王地さんとの訓練開始から二ヶ月。

 ついにその日を迎えた。

 北王地さんから魔法を使う許可がおりた。

 今回の訓練で魔力を流してみてわかったことだが、強く流すのは凄く楽で簡単だった。

 逆に弱く調整するのは想像以上に難しく苦戦してしまった。

 正直、北王地さんの「もう少し」というセリフにてっきり数日でできるようになるのかと楽観視していた部分はあった。

 俺の出来が悪いのもあったと思うけどあまかった。

 実際に北王地さんに認められるまでほぼ二ヶ月かかってしまった。

 ここまで長かった。

 すでに学校卒業がもう十日後に迫っている。

 本当にギリギリだったけどどうにか間に合った。

「それじゃあいきますよ。的が燃えたらすいません」

「頑張りましたから花岡さんなら大丈夫ですよ」

 北王地さんの言うことを信じる以外にはない。

 この二ヶ月自分なりに頑張ってきた。

 思い切って魔法を使ってみる。

 もちろん思い切るのは気持ちだけで魔法は魔力の流れを集中してコントロールしながら使ってみる。

 発動してみるのは、前回俺が的を壊してしまった『ファイア』だ。

「この現世に住まうせいれいよ、我が盟約に従いここにその力を示せ。原初のほのおおどれ! 『ファイア』」

 詠唱が終わると同時に一気に的がえ上がる。

 炎はあおい。ただその大きさはサッカーボール程度だ。

 ヒヤヒヤしながら的を注視するが、しばらくすると炎が収まり魔法が消失した。

「できた」

「花岡さん、お見事です。まだ威力が強い節は見受けられますが的も燃えきることもありませんでしたし合格です」

「ありがとうございます!」

 やった!

 この日、俺はついに魔法を使うことができた。

 最初に『ファイア』を使ってから長かった。あれから二ヶ月半、魔法をちゃんと使えるようになってよかった。

 ギリギリだったけど、どうにか卒業試験を迎えられそうだ。

 これで、防衛機構に入ってもばくエンドは迎えずに済みそうで心の底から北王地さんへの感謝がいてきた。


§


 俺が魔法を使えるようになった三日後に卒業試験が行われた。

 初日に筆記試験がみっちり五時間。

 おくりよくが落ちたとはいえ、みんなが実技にいそしんでいた時間俺はずっと魔法書を読んでいた。座学も必死にくらいついた。さすがにこの試験に落ちるわけにはいかない。

 しっかりと準備してのぞんだ試験は問題なくほとんどの問いに答える事が出来た。

 合格点が分からないけど、落ちる事はまずなさそうだ。

「オッサ~~ン」

「陣内くん、どうかしたのか?」

「俺、やっちまったかも~~」

「もしかして試験か?」

「ああ、まんじゃないけどわかんねえとこだらけだった。これで落ちてたらうちのおくさんに殺される。やべええええ~~」

 陣内くんは、あまり勉強が得意じゃないのかもしれない。

「花岡さん、どうでしたか?」

「まあ、いけたと思います。中塚さんは?」

「私も大丈夫だと思います」

 正直、まじめにやってればいける内容だったんだよな。

 陣内くんが心配ではあるけど、明日はダンジョンでの試験だ。

 体調を整えて明日に備える必要がある。

 明日は五人一組でりのダンジョンにもぐるらしい。

 組み分けは、俺と陣内くんと市川さん、それに大西さんと別所さんと一緒に潜ることとなった。

 試験には学校の講師が一名き添うことになるそうだ。


§


 翌朝、いよいよダンジョンへと向かう。

 昨日は今日に備えてかんちゆうハイもふういんして早くたので体調はばんぜんだ。

「それでは、ダンジョンに潜りましょうか。伝えている通りこの試験に合格するためには、メンバーが欠けることなく六時間以内にダンジョンに置かれている指定の目的物を持ち帰ることです。だれかがだつらくしたり、目的を達せずもどるようなことがあれば、もう一度学校に通いなおしてもらいます」

 卒業試験というくらいだから落ちることもあるとは想像できたけど、もう一度通いなおしとは結構厳しい。

 十代の三ヶ月とおれにとっての三ヶ月は意味がちがってくる。

 絶対に合格しなくちゃいけない。

「それでは、スタートです」

 担当試験官の合図で五人そろってダンジョンへと入る。

 他のグループは一時間ずつ時間をずらして試験開始となるらしい。

 これも試験だからだと思うけど、このダンジョンについては何も聞かされていない。

「オッサン、どうする?」

「そうだな。まずは隊列を組んでモンスターに備えようか」

「おお、それじゃあ俺が前だな」

 陣内くんはストライカーでこうげき適性があると言ってたからそれがいいだろう。

 女性三人にかくにんしてみるが、当然初めてのダンジョンに緊張しているようなので後ろに付いてもらい俺が間に入る事にする。

 六時間か。

 長いな。

 ここが地上なら六時間くらいなんともないけど初めてのダンジョン。

 密閉され、空がないこの空間にいるだけでおそって来るプレッシャーは計り知れない。

 どうするかな。

「それじゃあ、とりあえずしりとりでもやりますか」

「ちょっとまて、オッサン。なんでダンジョンまで来てしりとりなんだよ」

「いや~ちょっと、遠足みたいじゃないか? クラスメイトでグループだし」

「遠足? 気楽なもんだな」

「みなさんもどうですか? 六時間もやることないですし」

「いいですね。やりましょうか」

 市川さんはやってくれるらしい。もしかしたら俺の意図をんでくれたのかもしれない。

「じゃあ私も」

「やりましょう」

「しょうがねえな。じゃあ俺もやる」

 五人でしりとりをしながらダンジョンを歩き始める。

 担当の試験官はさいこうからついてきている。

「それじゃあ、俺から行きますね。まずは、ダンジョン」

「おい、オッサン、いきなりやらかすんじゃねえよ」

「あ、本当だ。すいません。年ですかね~」

「はははっ、笑えね~」

 いや、じんないくんしっかり笑ってるよ。

 どうやらほかのメンバーも笑ってくれたようだ。

 これで少しはきんちようが解けるといいけど。

 目的物の位置が記されたマップはわたされている。

 座学でもこんなシチュエーションの対処法は学ばなかったけど、この指定物を持ち帰らなければ卒業できないのであれば行くしかない。

 みんなと相談して別所さんにマップのナビゲーションをお願いしてたんさくを開始する。

 ちゆうきゆうけいはさむだろうから片道およそ二時間くらいでは辿り着く必要がある。

 俺が提案したしりとりだけど、緊張をほぐす効果はあったけど思ったほどは続かなかった。

 陣内くんが今どきのゲームを提案してくれていろいろやってみたけど、基本負けるのは俺だ。

 やはり若い子達の頭の回転についていくことは難しいのかもしれない。

「おい、オッサン、なんかいるぞ」

「みんな、気を付けて。いつでも詠唱できるように準備を」

 試験用に一応はナイフを渡されてはいるけどモンスター相手にはこころもとない。

 ここが試験用のダンジョンなのであればモンスターのランクは低いのかもしれないけど、やはり魔法で対処するのが正解だろう。

 その場で足を止め前方の様子をうかがう。

 確かに何かの鳴き声のようなものが聞こえるな。

「ギ~ッ、ギ~ッ、ギ~ッ」

 みみざわりな音が聞こえると同時に、前方から高速で何かが飛び出してきた。

「ホーンラビット!」

 座学で習った。

 角の生えたウサギ型のモンスターだ。

 大きさはそれほどでもないけど、高速でその頭に生えた角をしてくるきようあくなモンスターらしい。

 見た目は可愛かわいいけど、注意が必要だ。

「へっ、上等だ。初モンスターは俺がやってやるぜ。丸焼けになれよ。この現世に住まう精霊よ、我が盟約に……おい、動くなよ!」

 陣内くんが『ファイア』の詠唱をはじめるが、ホーンラビットが高速移動しながら攻撃をしかけてくるので詠唱を終える事が出来ない。

 確かに学校じゃ止まった的相手がほとんどで高速移動の敵相手には練習したことがない。

 完全に準備不足と経験不足だ。

「後ろの三人はそれぞれほうの詠唱を始めてください」

 陣内くんはホーンラビットにほんろうされて指示を出せる状態じゃない。

 俺は後ろの三人に指示を出して自分はナイフを手にして陣内くんの横へと上がる。

「陣内くん、二人で時間をかせぐんだ!」

「お、おお」

 陣内くんも、魔法の詠唱をあきらめナイフを構えてホーンラビットの動きに備える。

 こちらが二人になったことでホーンラビットがけいかいしてきよをとった。

 このまま、後方のメンバーが魔法を放つまでやり過ごしたいところだ。

 やるぞやるぞという見せかけのはくみなぎらせ、ホーンラビットの警戒をうながす。

 陣内くんも落ち着いてきたらしく俺の意図を理解して、深入りせず距離を保ったまま嚇する。


「この現世に住まう精霊よ、我が盟約に従いここにその力を示せ。原初の炎よ舞い踊れ! 『ファイア』」

「そのつばさは敵をき、そのいきは空を穿うがつ。幾千のやいばまといしその気高きほうこうを敵に示せ『ウィンドスピア』」

「敵を穿て、その力は大地の力。母なる力をその小さきたまに内包し全てをつらぬけ。『ロックバレット』」


 後衛三人の魔法が発動し、次々にホーンラビットへと襲いかかる。

 意識を俺と陣内くんへといていたホーンラビットは魔法のちよくげきをくらい、三発目にはその姿を消していた。

 どうにか退ける事が出来たようだ。

 五人いたからどうにかなったけど、やっぱりモンスターだ。

 ホーンラビットとはいえ気をくとやられていたのはこちらだ。

「ふ~~オッサン助かった。あ~~ちくしょ~もう少しうまくできると思ったんだけどな~」

「いえ、初めてのダンジョンで初めてのモンスター相手に無傷で切り抜けたんです。悪くないと思います。市川さん達もありがとうございました」

「いえ、花岡さんの指示が無かったら、どうしていいかわからなかったかも」

「私も陣内くんが戦ってるのを見てあたふたしてただけだし」

「そうですよ。さすがは花岡さん。やっぱりこのチームはチーム花岡でいきましょう」

 さすがと言われるようなことをした覚えはない。

 ただ、サラリーマン生活の中で人に指示を出すこともあったし、年の功で少しだけ落ち着いてただけだ。

 それでも褒めてもらえるのはありがたい。

 ただ、チーム花岡ってなんだ?

「はじめてでちょっとバタついたところもあったので、戦い方というか役割をもう少し整理しておきましょうか」

「おう、さすがオッサン。やるな」

「そうでもないよ」

 やはり、弱そうなモンスターだったとしても、こちらは素人しろうとに毛が生えた程度の経験しかない。

 ひとりでどうにかしようというのは無理があった。

 それに近接せんとうは難度が高いように感じる。

 俺よりも若くて動きのいい陣内くんであれだ。

 当然、俺も難しいだろう。

 やはりモンスターと戦うならえんきよからのほうこうげきだろうな。

 さっきはとつの事に俺も前に出たけど、次も上手くいくとは限らない。

 前衛のたて役を魔法にかたわりしてもらうのがいいんじゃないだろうか。

 魔法の盾でモンスターをその場へととどめ、さっきみたいに後衛の人にとどめをさしてもらう。

 今後の戦い方を五人でり合わせる。

 陣内くんには、盾をとつしてくるような敵がいた時に対応してもらう事にする。

「花岡さん、またホーンラビットです」

「わかりました。俺が前で押さえます。みなさんは魔法でとどめをお願いします」

「「「はい」」」

「この盾は、すべてをまもる絶対のようへき。あらゆる敵を弾き、我に光の加護をさずけよ。我はきよぜつし我は決意す『マジックシールド』」

 俺の目の前にうすい水色に光る魔法の盾が現れる。

 しんの盾『マジックシールド』を発動するのは俺の役目だ。

 これを抜かれたらみんなに危害がおよぶ。

 しんちようにコントロールしながら、少し多めにりよくめる。

 ホーンラビットがその額に生えた角で何度も魔法の盾にとつしんしてくるが、盾がくずれる様子はない。