第2章 四十歳の新入生



 ついに今日俺は防衛機構の訓練校に入学する。

 うん、忘れ物はない。

 準備を済ませてから案内にあった訓練校に向かう。

「ここだな」

 着いた場所には少し校舎は小さいが、運動場や体育館らしきものも見える。完全に学校だ。

 じゆくのようなものを想像してたけど、かなり立派なせつだった。

 指定された教室へと向かうとすでに半分くらいの席がまっている。

 俺の番号は十六番だ。

 俺は十六番と書かれた席へと着席するが、視線が痛い。

 やはり周りに座っている子たちは若い。

 俺がとつしゆつしてオッサンだからだろう。

 かなり視線を感じる。だんこんなことを経験することはないのでなんとなく居づらいが、こんなのは最初からわかっていたことだ。

 視線に気づかないふりをしてそのまま待つ。

 じよじよに残りの受講生たちも集まってきて、ほぼ教室が埋まった。

 全部で三十人ほどだがじやつかん女性の方が多い気がする。

「全員集まったようだな。俺が今回担当のうめざわとしだ。よろしく」

 きようだんに立った三十歳ぐらいの男性がそう声をかけてきた。

「今期は全部で三十人だ。三ヶ月の間しっかりと学んでくれ。ここを出たらすぐに実戦に配置されるからそれまでに魔法を使いこなせるようになってもらわないと困る。ただしここを出る前に卒業試験としてダンジョンにもぐってもらうからな。一応、筆記試験もあるから授業はまじめにな」

 わかってはいたが、三ヶ月で魔法を使いこなさなければならないのか。

 それにダンジョンにも潜らないといけないのか。

 とにかく頑張るしかない。

 初日は、自己紹介やこれからのスケジュール、施設の説明などで終わってしまったので明日からが本番だろう。

「おい、オッサン」

「ん? 俺のことか?」

「ああ、あんたしかいないだろう」

 かみを茶色に染めた、いわゆるちょっとヤンチャそうな男子生徒が声をかけてきた。

「なにか用かい?」

「あんたなんさいだ?」

「四十歳だけどそれがどうかしたか?」

「四十……けてるとは思ったけど四十歳かよ。俺の母親と同い年じゃねえか」

 母親と同い年……まあそういうこともあるだろう。

 だが、この言葉地味に辛い。

「そうか、君は何歳なんだ?」

「俺は十九歳だ。それと俺はじんないりつだ」

はなおかしゆうろうだ」

「オッサン、なんでその歳でここにいるんだよ」

「なんでって言われても、ただ単にこの年でりよくに目覚めたからかな」

「そんなことあるのか」

「ああ、あるみたいだな」

おくさんとかに反対されなかったのか?」

「いや、独り身だから」

「……なんかすまん」

「いや気にするな。単純に俺がモテないだけだから」

 十九歳相手に「俺がモテないだけだから」って結構くるな。

うわしてこんでもされたのか?」

「いや、結婚したことないんだ」

「オッサン、そっちか?」

「そっち? いやいやいや、いたってノーマルだ」

「それはすまん。よかったら女紹介してやろうか?」

「紹介……。うん、ありがとう。でもだいじようだ」

 十九歳に女性を紹介される俺って……。

「そうなのか。オッサン結構いい人そうだし嫁さんの友達に声かけてやってもいいぜ」

「嫁さん……。陣内くん結婚してるのか」

「ああ、去年結婚したんだ。よかったら写真見るか?」

 確かに、今のこの人口減少時代に十九歳で結婚はめずらしくない。俺が十九歳の時にも学生結婚してたやつは結構いたが、この年で十九歳の同級生の結婚話を聞かされるとは思ってもみなかった。

 想像以上にくるな。

「かわいい感じの奥さんだね」

「おお。そう思うか? オッサンもしゆいいんじゃね」

「はは……」

「本当、知り合ったのもなんかのえんだし、紹介するぞ? うちの奥さんほどじゃないけど結構かわいい子いるぞ?」

「いやいや、奥さんの友達ってことは十九歳だろ。俺四十歳だぞ。相手にされないだろ」

 事実とはいえ言ってて自分で悲しい。

「そんなことないと思うけどなぁ。オッサン結構いい感じに渋いし嫁さんの友達にも結構受ける気がするけど」

「はは……陣内くんは優しいんだな。まあこれからよろしく」

「別にそんなんじゃねえよ。まあいいや。じゃあまたな」

 最初からまれるのかと思ったけど、案外いいやつだったのでホッとした。

 昔、女の子を助けて不良にボコられてから、どうもヤンチャな感じの人に対してアレルギーがある。

 もちろん人を見かけで判断することは良くないのはわかってるけどこればかりは仕方がない。

 それじゃあ、やることもなさそうだしそろそろ帰ろうかな。

「花岡さん」

「え? 俺?」

「はい、花岡さんです」

「え~っとたしか、なかつかさん」

 確か、自己紹介でお酒が好きって言ってた女の子だな。うれしそうに自己紹介していたから印象に残っている。

「はい、そうです。覚えてくれて嬉しいです」

「なにか用かな?」

「いえ、特に用ということはないんですけどさっき話してたのが聞こえてきたので」

「あぁ……聞こえたんだ」

「はい。失礼とは思ったんですけど、花岡さんって独身なんですか?」

「ぐっ……うん、そうだけど」

「へ~っ。そうなんですね。かのじよさんとかいないんですか?」

「い、いないけど」

 なんだこの子。なんでこんなにグイグイ俺のことをえぐりにきてるんだ。

「そうなんですね。さっき十九歳は若すぎるみたいな感じだったんですけど二十歳はたちはどうですか?」

「どうですかって言われても、俺には縁がないとしか」

「もし縁があったらどうですか?」

「いや、そりゃあ縁があればね」

「そうなんですね。ちなみに私二十歳です」

「ああ、そうなんだ」

「どうですかね」

「ん? なにが?」

「二十歳の私なんかどうですか?」

「うん、若々しくてうらやましいよ。いいと思います」

「本当ですか? 嬉しい」

 いったいなんの会話なのかわからんな。

 俺の意見を聞いてもなんの足しにもならんと思うけど。

「花岡さん、この後予定とかあります? よかったら私たちとどこかでお茶でもしませんか?」

「私たち?」

「はい、今日仲良くなったんですけど、みんなおいでよ」

 そう中塚さんが声をかけると三人の女の子がやってきた。

「え~っとたしか、大谷さんと、三宅さん、木下さんだったかな」

「花岡さん全員の名前覚えてくれてるんですか? すごいですね」

 社会人経験のなせる技だな。一度名乗り合った人のことはその場で覚える。営業マンの基本中の基本だ。

「どうですか? 花岡さん」

「お話も伺いたいですし」

「行きましょうよ~」

「ああ、じゃあお願いしようかな」

 それから何故なぜか女の子たち四人と俺でカフェに向かうことになってしまった。

「へ~っ、花岡さん独身なんですね」

「あぁ、まあ……」

 またこの話題。

 まあ四十歳独身が珍しいとは思うけど辛い。

「お子さんとかはいらっしゃるんですか?」

「いや、結婚したことがないんだ」

「そうなんですか? もしかしてそういう主義だったりします? 付き合うけど結婚はしないみたいな」

「いやいや、そんな大層な主義じゃないよ。単純に縁がないだけ。はは……」

 なんで俺はこの子たちにこんな話をしているんだろう。

 悪意は感じないけど、まさかこのオッサンキモイとか思われてないよな。

 俺としてはせっかく同級生になったのだから仲良くできるものなら仲良くしたいと思うけど。

「花岡さんって理想が高いんですか?」

「いや全然そんなことないと思うけど」

「それじゃあ私たちみたいなのってどう思いますか?」

「どうって……若くてりよくてきだと思います」

「きゃ~っ。魅力的って花岡さん口がうまいですね」

「そんなつもりじゃないんだけど。本当にみなさん魅力的ですよ」

「私たちみんな二十歳はたちえてるんで安心してください」

「ああ、そうなんだ」

 安心ってどういう意味だ? 若い子の言うことはよくわからん。

 これがジェネレーションギャップというやつか。

 これから一緒に学ぶんだからどうにかついていかないといけないよな。

「話変わるんですけど、花岡さんってお酒とか飲まれますか?」

「お酒? そんなに強くはないけど飲むよ」

「よかったら今度いかがですか?」

「まあ、機会があれば」

「本当ですか? それじゃあ今週末とかどうですか? かんげいかいしましょう」

「歓迎会か。みなさんがよければ

「やった~。みんなよかったね」

「うん」

 ああ、この子たち本当にいい子だな。オッサンの俺がボッチにならないように気をつかってくれたんだな。

 こんなに嬉しそうにしてくれると、俺まで嬉しくなってきてしまう。

 初日で心配してたけど陣内くんといい、いい同級生に恵まれた。

 これからの学校生活もなんとかやっていけそうでよかった。

 帰ったら缶酎ハイ飲もう。今日のお酒は格別だろうな。



「花岡さん、気さくないい人だったね」

「私たちの分もサラッとはらってくれたし大人って感じ」

「渋いよね。大人のゆうっていうのかな。なんか色気があるよね」

「お父さんとは全然違うよ。うちのお父さんなんかもうかれいしゆうがひどいんだけど花岡さんはいいにおいだし」

「わかる~」

「だけど、遊び人って感じもしないししんって感じじゃない?」

「うん、しかも結婚したことないって。そっちでもないって言ってたし」

「まだわからないけど、いいよね」

「うん、いいと思う」

「三ヶ月間楽しみが増えたね」



 俺は彼女たちと別れてから家に帰ってコンビニ弁当と一緒に缶酎ハイをあける。

「あ~なんとかやっていけそうだな。それにしてもやっぱり俺だけオッサンだな。みんな二十歳前後か~。置いていかれないように頑張らないとやばいな。今週末に歓迎会か~。調子にのってキモがられないようにしないといけないな。まずは学校を頑張らないと」


 翌日、登校すると中塚さんたちが元気に挨拶してくれた。

 やっぱり、朝から元気に挨拶されると気持ちがいいものだ。

「オッサン、今日から本格的に授業だな。俺はストライカーだからこうげきほうに適性があると思ってるんだけど、オッサンはどうなんだよ」

「どうって?」

「オッサンの適性はなんなんだよ」

「いや、適性って言われてもよくわからんが」

「オッサンもしかして全然予習してきてないのかよ」

「予習、いや、まあ」

 陣内くん、予習してきたのか。

 俺は中塚さんたちとカフェして気分が良くなって缶酎ハイを飲んでてしまった。

 やばいな。

「ジョブによって適性があるんだよ。俺はストライカーだから攻撃魔法に適性があるはずなんだ」

「そうなんだ」

「ところでオッサンのジョブはなんなの?」

「え……ジョブ?」

「そう、ジョブだよ。別にかくすようなもんでもないだろ」

「あ、そ、そうか、え~っと、だい……」

「え? 悪い聞こえなかったぞ」

 これ言っても大丈夫なのか? まあ仲間だし、講義が進めばおそかれはやかれ知られるよな。

「えっと、大……」

「はっ? なに?」

「大どう士だけど」

「は!? 俺の耳がおかしくなったのか? もう一度たのむ」

「だから大魔導士」

「いやいや、オッサン。俺のことからかってるんだよな。じようだんはいいから本当のことを言えよ」

「いや本当に大魔導士」

「…………マジ?」

「うん、マジ」

「そんなジョブあるのかよ」

「うん、あるみたいだね」

「なんかすごそうだな」

「そうかな」

 やっぱり陣内くんでも大魔導士のジョブのことは知らないみたいだ。たしかにすごそうな名前ではあるが名前負けしてないといいけど。

「教科書にはそんなジョブのってなかったぞ。一番近いので魔法使いか? いや近くもないか。魔法使いは、ほとんどの魔法に適性のあるオールラウンダーらしいけど」

「魔法使い? 俺のご先祖様がそうだったみたいだけど」

「それはそれですごいな、オッサン。魔法使いはレア中のレアだぜ」

「陣内くん、俺オッサンには違いないけど花岡ね」

「ああ、わかってるってオッサン」

 陣内くんには言うだけかもしれない。まあオッサンでもいいか。十九歳からみたら本当にオッサンだしな。

 陣内くんと話しながら最初の授業が行われる運動場へと向かうことにする。

「それじゃあ、さっそくだが魔法の実地訓練だ。まずは基本中の基本。火の初級魔法だ。その名も『ファイア』だ」

「そのまんまじゃね~か」

だれだ? 今っ込んだやつは。魔法に名前をつけたのは俺じゃないんだから俺に突っ込んでも無駄だぞ」

「ははは」

 先生とのやり取りで笑いが起きる。

 この先生、生徒とのコミュニケーションをとるのがうまい。

 なごんだ空気の中、初めての魔法による訓練が始まった。

 防衛隊の仕事は基本的にダンジョンのものるのが主な仕事だが、あふれた魔物を地上でせんめつすることもあるらしい。

 俺はよく知らなかったけど、色々と制約はあるものの魔法は地上でもつうに使えるらしい。

「基本、集中して教科書に書いてあるえいしようをそのまま唱えれば、適性さえあれば発動する。昔と違ってちゃんとしたマニュアルがあるから楽なもんだ。それじゃあやってみるぞ」

 そういうと先生が的に向けて詠唱を開始した。

「この現世に住まうせいれいよ、が盟約に従いここにその力を示せ。原初のほのおおどれ! 『ファイア』」

『ファイア』の詠唱が終わると同時に的の周囲に炎が生じ、そのまま的が燃え上がった。

 マジか……。

 周囲は炎の発現にき上がっている。魔法というちようじよう的な力が発現するのをの当たりにして、周囲からはかんたんの声が上がるがおれは別の意味で声をらしてしまった。

 これが『ファイア』の詠唱か。

 俺がこれを。

 四十歳の俺がこれを。

 たしかにこれは俺が心より望んでいた魔法だ。

 俺が小中学生のころにイメージしていた魔法そのものだ。

 詠唱の文言が、小中学生のイメージするそれだ。

 正直言ってずかしい。

 もしかして魔法って全部こんな感じの詠唱文があるのか?

 たしかにカッコいいけど、詠唱している自分をイメージしてみると全身が熱くなってきた。

「オオオオオ~スゲ~カッケ~」

 陣内くんはじゆんすいに感動しているようだが、俺はねんれいと共に純粋さを失ってしまったのかもしれない。

 だが、これを乗りえなければ魔法を使うことができないのであればやるしかない。

 こうなったら魔法を発現することだけに集中するしかない。

「こんな感じだ。『ファイア』は基本的な魔法だからジョブに関係なくみんな使えるはずだ。りよくに差はあるかもしれんがな。それじゃあ、順番にやってみるか。意識は的に集中しながら詠唱だ。ちがっても人に向けて放つな。大事故が起こるぞ! 詠唱中は絶対に意識をらすな!」

 たしかにあれを人に向けて放とうものなら大惨事となるだろう。とにかく集中だ。

 メンバーが出席番号順に『ファイア』の詠唱を開始していく。

「やった!」

「おお~」

「これが魔法……」

「すげ~やったぜ!」

 生徒たちが順に発動させてみんな成功していく。

 きんちようしてきた。まさか俺だけ発動しないなんてことはないよな。

 だって魔力999だもんな。たのむぞ。

 俺の順番が来たので、しゆうしんを捨ていのるような気持ちで詠唱を始める。

「ん、ん、んっ。この現世に住まう精霊よ、我が盟約に従いここにその力を示せ。原初の炎よ舞い踊れ! 『ファイア』」

 俺が詠唱を終えると、魔法が発動して的の周りに炎が現れ的が焼け落ちたが、他の生徒とは大きく異なる部分があった。

「へっ……」

「なっ……」

「あ……」

 周囲の生徒がいつせいに息をむのがわかった。

 俺の発動した『ファイア』の炎がデカすぎる。

 他の生徒たちの炎はだいたいサッカーボールぐらい。それに対して俺が発動した炎の大きさはゆうに一メートルをえている。

 しかも炎の色がおかしい。

 他の生徒たちの炎はオレンジ色の炎なのに俺の放った炎はあおだ。

 文系の俺の知識によると蒼い炎の方がオレンジの炎より高温だったような……。

 一メートルを超える蒼色の炎が的と共にそれを支えていた台と支柱まで完全に消し炭にしてしまった。

「あ、あの~。俺悪くないですよね。言われた通りに詠唱しただけですよ。もしかしてべんしようとかしないとダメなんですか?」