俺のジョブは昨日までは確かに会社員だったはずだ。いや今だって間違いなく会社員だ。

 それが大魔導士!?

 そもそも大魔導士ってなに?

 いや意味はわかる。魔法使いのさらに上。魔法使いのボスみたいなのだとは思うけど、俺の周りでは聞いたことがない。

 大魔導士。

 しかも魔攻、魔耐、魔力が999ってなに?

 俺は魔法を使えないので昨日までは全部0だったはずだ。

 いや間違いなく0だった。

 それが999ってなに?

 平均値が50のこの世界で999って、そんな値存在するのか?

 頭が混乱してしまう。

 なんで?

 どうして?

 いったいなにが起こった?

 俺はまだ酔ってるのか? 理解が追い付かない。

「いてっ」

 まだ酔いで寝ぼけてるのかと思いほっぺたをつねってみるが普通に痛い。

 ほっぺたをつねるってベタすぎる。

 だけどやっぱりおかしい。

 必死に頭を働かせようとするが現状があくできない。

 あまりの出来事になにも考えがまとまらない。

「ふ~。とりあえず缶酎ハイ飲んで落ち着くか」

 普段は休日でも朝から飲むと言うことはないが、他にいい案を思いつかないので、冷蔵庫から酎ハイを取り出して飲み始める。

「なんどみても変わらないよな。なんだこのステータス。俺はどうなったんだ。いやどうしたらいいんだこれ」

 いや普通に考えたらステータスが壊れたとしか思えない。

 いわゆるエラー。

 そんなものが存在するのかはわからないが、俺が大魔導士になったというよりははるかにリアリティがある。

 エラーならそれはそれで問題があるよなぁ。

 ステータスのエラーが身体にえいきようしたりは?

 俺、死んだりしないよな。

 考えているうちにこわくなってしまった。

 いきなり999とかになるってことは明日になったら0とか表示されることだってあるかもしれない。

 やっぱり俺のじようきようはおかしいとしか思えない。

 そうだ、念のために病院に行ってみるか。いやステータスのことだから防衛機構の受付にでも行ったほうがいいか?

 世界防衛機構には魔力に目覚めた人を検査するための受付が設けられているらしい。

 俺もいつかはそこに行きたいと考えていたが、まさか四十歳でしかもこんなエラーの相談でおとずれる事になるとは思ってもみなかった。

 思ってたのとは違うけど、このままでは心配なので、しっかり歯をみがいてから防衛機構へと向かった。

 思わず朝から飲んでしまったので、においで酔っぱらいのたわごとと受け取られてしまわないかだけが心配だ。

 たくを済ませ電車に乗って防衛機構のビルへと向かう。

「ここだな」

 かなり大きなビルだ。

 悪い事をしたわけじゃないけどなんとなく入るのにおくれしてしまいそうになる。

 かくを決めて防衛機構へとみ込む。

「あの~すいません。ステータスの事で相談にのって欲しいんですけど」

「はい。どのような内容でしょうか?」

「はい、それが今日になってとつぜんりよくのステータスが生えた。じゃなくて0じゃなくなったんです」

「それはおめでとうございます。まれですがねんれいを重ねてから魔力に目覚めることもありますから」

「はあ、そうなんですか。だけど俺のはそういうんじゃないと思うんです。なにかのエラーじゃないかと」

「エラーですか? ステータス値にエラーというのは考えられないと思いますが」

「いや、俺もそう思うんですけど、そうとしか考えられないんですよ」

「とにかく一度検査させていただいてよろしいですか?」

「はい、お願いします」

 俺は受付の人に案内されて検査する場所について行った。

「それじゃあ、そこにすわってください」

「はい」

 測定器と思われるものの前に座らされて測定が始まるが、すぐに数値が表示される。

「え……うそ。これって……」

「どうですか」

「ちょ、ちょっと待ってください。もう一度測定させてください」

「はい、どうぞ」

 もう一度測定されることになったがすぐに測定値が表示される。

「あ……999」

「どうですか やっぱりエラーですよね」

「エラー……そうかも。999って、そんな……」

 測定してくれた女の人がまどいの表情をかべてあたふたしている。

 やっぱり俺のステータスはおかしいみたいだ。

「どうすればいいですかね」

「あ、ああ、少しお待ちください。上司を呼んできます」

 そう言って女の人はその場から出て行った。

 やっぱり、係の人があんなにあたふたするぐらい俺のステータスはヤバいのか。

 エラーか。

 なにも悪いことしてないのにこんなのってあんまりじゃないか。

 これから俺はどうなってしまうんだ?

 不安にさいなまれながら待っていると、係の女の人が上司らしき男性を連れて戻ってきた。

「花岡さんですね。お話はうかがいました。この機械が測定を誤ることはまずありません。間違えたとしてもその誤差は5%以内です。なので花岡さんのステータス値もエラーではないと考えられます」

「はい? エラーじゃないってどういうことでしょうか」

「ですので、信じられないようなことですが花岡さんの魔力系のステータスは全て999ということです」

「それは……マジですか?」

「はい、マジです」

「本当の本当ですか? ドッキリとかじゃなくて?」

「はい、本当の本当です。ドッキリじゃないです」

「………え~~~~~!」

 場所をわきまえず思わず大きな声を出してしまった。

 だけど、それもやむを得ない事だ。

 嘘だろ。俺のステータスが本当に999!? ということはジョブに表示されていた大魔導士というのもエラーじゃないのか!?

 俺が大魔導士で魔力系のステータス999ってどうなってるんだ。

「あの~、つかぬことをお伺いしますが、ステータスの上限値っていくつなんですかね」

「実際に見たのは花岡さんが初めてですが理論値の上限は999です」

「ということは俺の魔力系ステータスはカンストしてるってことですか?」

「はい。カンストしてるってことですね」

 だめだ。朝飲んだ酎ハイが今になって回ってきた。

 頭が働かない。

 ボ~ッとしてきた。

 俺がカンスト。

 四十歳童貞の俺がカンスト。

 独身の俺がカンスト。

 え~っと、カンストってなんだっけ。

 帰ってはやく酎ハイを飲みたい。

 決してアル中とかではないのにお酒を飲んでしまいたくなる。

 今の状況が理解できない。

 いや本当は理解はできている。

 だけど意味が分からない。

 三十歳で魔法使いにはなれなかったのに、俺大魔導士になっちゃったのか?

 本当に意味が分からない。


§


 俺は家に帰って本日二本目の缶酎ハイを飲んでいる。

「は~っ、どうするかな~」

 帰ってきてからため息と独り言が止まらない。

 これが四十歳を迎えたオッサンだからゆえと言われても否定はできないが、防衛機構でのことが原因だ。

「花岡さん、数値はともかく魔力が検知された以上、あなたには二つのせんたくがあります」

「二つですか」

「はい。ひとつは魔法を使うことを諦め今まで通りの生活をおくることです。花岡さんのようにある程度社会経験を積まれたタイミングで魔力を発現された方には結構いらっしゃいます。その場合、防衛機構に入らないというせんたくもあります。無理をして防衛機構に所属されるよりも今の生活ばんを大事にされたい方も多いので」

「そうですよね」

「もうひとつは魔法を使い、防衛機構に所属して外敵と戦う道です。当然、危険ととなり合わせのお仕事なのでそれに見合ったほうしゆうと社会的地位を得ることができます。この場合正式に所属となる前に三ヶ月程度訓練校に通っていただきます」

「三ヶ月ですか……危険な仕事につくにしては短い気もしますが」

「はい、あくまでも実戦的な事は所属してからが中心となりますし、別に英語の勉強とかを一からおこなうわけではないので。あくまでも所属するにあたってのルールと魔法を使えるようになるのが目的ですからね」

「たった三ヶ月で魔法が使えるようになるんですか?」

「魔力が備わっている時点で、あとは使い方の手順を踏めば適性のある魔法はすぐに使えるようになりますよ。もちろん、その方によって得手不得手や魔法のりよくや発動スピード等は個人差が出てきますけどね」

「そうなんですか」

 正直、防衛機構に所属してエリート街道を歩む、それはこの数十年夢見ていた事だ。ただ職員の人が言っていた、ある程度の年齢以上の人は今までの生活を続ける人も多いというのもわかる。

 痛いほどにわかる。

 俺にだって大学を出てから十八年ひとつの会社でがんってきた自負はある。

 主任という今の職務に責任だって感じている。

 何より勤めている会社はブラックぎようではないので、今後仕事で死ぬ事はないと思う。

 もう少し頑張れば係長にだって手が届くところまできている。

 それを全て捨てて訓練校に入校することにちゆうちよしてしまう。

「それと、訓練校ですがどうしても十八~二十五歳くらいの方たちが中心になりますので花岡さんと同年代の方は少ないです。もしかしたら花岡さんだけかもしれません」

「そうなんですね」

 まあ、四十歳の人間が少ないだろうというのは理解できる。

 下手をすれば自分の子供でもおかしくない年齢の子達といつしよに通って大丈夫だろうか?

 完全に浮いてしまいそうで怖い。

「でもな~防衛機構だよな~。ずっと入りたかったんだよ。ご先祖様みたいに魔法を使って人々をまもってヒーローになりたかったんだよな」

 俺は小さい頃からご先祖様にあこがれていた。老け顔でモテなかったという部分にシンパシーを感じていた事は否定できないが、それ以上にご先祖様は魔法を使い防衛機構に入って人類を護った。その事にきようれつな憧れをいた。

 そして子孫の俺なら同じようになれるんじゃないかって勝手に思っていた。

 特に老け顔でモテないというのろいとも思える遺伝子を受けいだ俺なら魔法の素養も受け継いでいるかもとどれだけ願い夢想した事か。

 それが今、実際に自分の目の前に現れた。

 正直二十代の頃のように勢いだけではどうにもならない色々な事情があるし、それなりにしがらみもある。

 だけどやっぱり、やってみたい。

 としもなくと言われるかもしれないが、ヒーローになってみたい。

 不安はある。だけどどうしてもその気持ちをおさえる事はできない。

 あの動画のヒーロー達のように。

 モブヤーのようなヒーローに。

「よし! 明日返事をしに行ってみるか」

 なやみに悩んで結論を出したおれは本日三本目の缶酎ハイに手をばした。


§


「あ~頭痛いな。ちょっと飲みすぎたか」

 俺は毎日の缶酎ハイを日々の楽しみとしていたが、実はお酒はあまり強くない。

 ビールやウィスキーは飲めない。

 社会人になってから付き合いで飲む事が多くなり、あまり得意ではないので自然とあまめの酎ハイを飲むようになった。

 それがいつのまにか家でも飲むようになってしまったが、それもせいぜい二本が限界だ。

 昨日は悩みに悩んだせいでクリスマスに続き禁断の三本目に手を伸ばしてしまった。

 そのせいで朝から頭が痛い。

 完全に二日酔いだ。

 さすがに二日連続の酎ハイ三本はやりすぎた。

 頭の痛みをえて、身支度を済ませて水をいつぱい飲む。

「あ~新しいかどが二日酔いとは俺らしいな」

 俺は再び防衛機構の事務所へと出向き昨日の人に伝える。

「決めました。防衛機構に入ります。なので訓練校に入校したいと思います」

「そうですか。防衛機構としてはありがたい申し出です。人手はいくらあっても足りませんからね」

「それで、入校はいつからでしょうか?」

「毎月開講しているので、直近ですと来月の十日からですね」

「来月十日からですか」

「ああ、花岡さんはお仕事の都合があるんですね。大丈夫ですよ。入校者を出す職場の方にも助成金がおりますから気持ちよくきていただけるはずですよ」

「そうなんですか。まあ頑張れば引き継ぎも終わると思うんでよろしくお願いします」

 それから俺は入校に必要な書類を渡されて家に帰った。

 さつそく家に着いてから書類を書いていくが、書いているうちに実感がいてきた。

「俺が、防衛機構の職員か~。俺がぞくとかモンスターと戦うのか。ちょっと信じられないな。会社の人に言っても信じてもらえないかもな~」

 そして次の日いつもより早めに会社に出勤し、課長に申し出た。

「課長、少しよろしいでしょうか?」

「おう、どうした花岡。真剣な顔して。ついにけつこんが決まったのか?」

「はは……残念ながらそれはまだ」

「お前、顔は悪くないんだし社内にもそれなりにいると思うけどな~」

「ありがとうございます。だけどそれはもう諦めてますよ」

「よかったら俺が取り持ってやってもいいぞ」

「いえ、相手の人にめいわくがかかりそうなので大丈夫です」

 ああ、やっぱり課長はいい人だな。俺のために骨をおってくれる人なんかそうはいない。だけど相手の人の気持ちも考えて欲しいもんだ。

 会社の上役に俺なんかしようかいされたら断りづらくてかなわないだろう。

「そうか。それじゃあなんだ」

「それが、来月の一週目で退職をお願いしたいんです」

「な……なんでだ。なにか会社に不満があるのか? 悩みがあるなら言ってみろ。今度係長にすいせんしようと思ってるんだぞ」

「ありがとうございます。会社に不満はないんです。そうじゃなくて防衛機構に入ろうと思って」

「は? 防衛機構ってあの防衛機構か?」

「はい、あの世界防衛機構です」

「いやいや、花岡、めたいからってうそはだめだぞ。お前ほう使えないだろ」

「いや、それが一昨日とつぜん使えるようになったみたいで、防衛機構の事務所に行ったら来月の十日に訓練校に入校だって言われたんです。それと会社には俺が抜けることに対するしようというか助成金も出るって言ってました」

「マジか」

「はい、マジです」

「マジでか」

「はい」

「そうか~花岡がな~。三十九だっけ、そんなことってあるんだな」

「あ、一昨日四十になりました」

「そうか、花岡がな~。まあ、お前正義感あるし向いてるかもな。防衛機構か~。俺も昔あこがれたな~。これで花岡も結婚できるな。よかったな」

 なんで、防衛機構に入ったからって四十さいのオッサンが結婚できると思うんだ。

 それとこれとは別の問題だろう。

「課長、何を言ってるんですか。そんなわけあるはずないでしょう」

「いやいや、マジな話、四十独身で防衛機構だぞ? 世間の女性が放っておくわけないだろう。お前顔は悪くないわけだし」

「いや、防衛機構に入っても俺は俺ですよ? 急にモテたりするわけないじゃないですか」

「は~花岡、相変わらずの自己評価だな。十年お前の上司やってる俺からのアドバイスだ。お前の自己評価と周りの評価はズレがあるぞ。それだけはわかっておけよ」

「は~そうですか」

 課長のやさしさが身にみるけど、その優しさは傷口に塩をむように四十男には堪える。

 課長に退職を申し出てからの日々はあっという間だった。

 今までの仕事を切りのいいところまで仕上げ、後任の担当者にひきぎをしているうちに時間が過ぎていった。

 自分で言うのもなんだけど結構きっちりしてるタイプなので、後任の人に迷惑をかけるような事態にはならずに済みそうだ。

「花岡さん、頑張ってください。おうえんしてます!」

「ああ、野口さん今までありがとうな」

「辛くなったらいつでも戻ってきてくださいね。待ってます」

「はは、音を上げないように頑張るよ」

 今日が勤務最終日だが、同じ部署の野口れいさんがこんなに別れをしんでくれるとは思わなかった。

 四十歳独身男なんか若い女の子にはの目で見られてるかと思ってたけど、どうやらきらわれてはなかったらしい。

「それじゃあ、おつかさまでした」

「はい、いつでもれんらくくださいね」

 社交辞令だとしても、そんなふうに言ってくれると気持ちよく退職できる。

「花岡、いつでも戻ってきていいからな。それによめさんの件も俺にまかせとけ。お前が戻ってきた時にまだ独身だったらどうにかしてやるよ」

「はは……ありがとうございます。帰ってこなくても済むようにがんばります。最初から帰ってくるつもりじゃ心が折れちゃいそうなんで、不退転の気持ちで行ってきます」

「おう、向こう行ったら急にモテて変なのつかむなよ。お前女慣れしてなさそうだから俺はそれが心配なんだよ」

「心配かけてすいません。だけどそんなことあり得ませんよ。今までモテなかったのに急にモテたりするわけないじゃないですか」

 課長も相変わらずだけど、あいさつに行ったとき部長も同じようなことを言ってたな。

 あるはずないのにやっぱり上長からすると四十男の独身は心配になるんだろうな。

 そういう意味では迷惑かけたかも知れないけどいい会社だったな~。

 この会社を辞めて行くんだから、防衛機構では石にかじりついてでもやっていくしかない。

 俺は会社のみんなに挨拶を済ませてから会社を後にする。

 わかれ際、野口さんは体調がすぐれなかったようで奥に下がってしまっていた。それだけが気がかりだけど、女の子達が付きってくれていたようだし心配いらないか。



「麗花、いいの? このままじゃ、なにも伝わってないんじゃない」

「いい。花岡さんみたいな大人の男の人にとってみれば私なんて。だって花岡さんモテるでしょ」

「確かにしぶいもんね。クールで女にデレデレしたりしないところとか、大人の男って感じよね。あのふうぼうで結婚してないんだもんね。理想が高いのかプライベートでは選び放題なのかもね」

「でしょ。それが防衛機構でほう使つかいって、もうちがう世界の人になっちゃった感じで、手が届きそうにないから」

「そうね。それじゃあ今度二人でコンパにいきましょうか」

「そうしよっか。絶対いい男つかまえてやる~」



 周りは結構転職をり返しているやつもいるのに、二十年近く勤める事が出来た。今になって思い返すと俺は会社にもどうりようや上司にもめぐまれたな~。

 ゆいいつの心残りは、できることなら一度はオフィスラブとかしてみたかった。

 それであわよくば結婚とかも夢見ていたけどかなわなかったな。

 まあ、明後日から俺の人生が変わる。

 俺の長年の夢がかなうんだ。

 もう、オフィスラブだの結婚だのと言ってる場合じゃない、俺は魔法使いになってみんなを護れるヒーローになる。

 でも、正直なところ一度は女性とお付き合いとかしてみたかったな~。

 防衛機構の人たちは、俺と違ってエリートばっかりだろうからモテるんだろうな。

 きっと女性もモテる人ばかりだろうから今まで以上に相手にされないだろう。

 またこんが遠のいたか。

 いやもともとそんなのは無かったな。

 家に帰ったらかんちゆうハイを飲むか。

 うん、そうしよう。