学校も終わり、今日も今日とて胡桃さんと仲睦まじく下校である。
本日はもう十一月も下旬なのにあいにくの雨。
しかし俺の心模様は晴れ模様となっていた。
何しろ——
「い、意外と恥ずかしいわね、相合傘」
そう言って自分たちの上、一本の傘を見上げる胡桃さん。彼女は頬を僅かに紅潮させつつ、恥ずかしさを誤魔化すように自らの長い黒髪をいじっていた。
そんな彼女を見て俺は一言。
「世界一かわいいよ、胡桃さん」
「まったく話がかみ合ってないんだけど!? って、ご、ごめん」
「大丈夫大丈夫。濡れてない?」
「ん、うん。……ありがと」
彼女の動きに合わせて傘を動かすと、感謝の言葉と共に胡桃さんはさらに一歩俺に近付いた。……やばい、思っていた以上にドキドキするな。
それにしても、なぜ相合傘なのか。
理由は単純。胡桃さんが傘を持っていなかったからだ。
まぁ、降水確率低かったしね。
因みに俺もマイシスターに持って行けと言われなかったら持って来てなかった。
天気予報のチェックを欠かさないマメな妹に感謝である。
おかげでこんなドキドキシチュに陥っているのだから、今度甘い物でもプレゼントするとしよう。
「……ん? 疲れた? 代わる?」
ふと胡桃さんが優しい声で提案してくれた。
少し黙っていたことで勘違いさせてしまったらしい。
「全然問題ないよ! むしろ胡桃さんのためなら一生涯でも隣で傘を差し続けたいぐらいだ!」
「お、大げさなのよ」
「本心だよ。知ってるでしょ?」
「っ、わ、わかってるわよ! もうっ」
胡桃さんは頬を朱に染め顔を逸らし……不意に何かに気付いたように傘を見上げ、かと思えば今度は俺を見つめてきた。あらかわいい。……じゃなくて、どうしたのだろう。
彼女の視線を辿れば、そこには傘から飛び出して少し濡れた俺の肩。おっと。
慌てて隠すが少し遅かった。
「ぬ、濡れてるじゃないっ」
「胡桃さんを濡らすわけにはいかないからね!」
「だ、だからって……あー、もうびちゃびちゃ。寒かったでしょ?」
「俺の心はいつだって愛の炎で燃え上がってるからこれくらいなんてことないよ!」
「はいはい。それより早く入って」
びっくりするぐらい軽く流されちゃったよ。
しぶしぶ言われた通りに入ってみるが……やはり狭い。
いつ胡桃さんが雨に濡れてもおかしくない状況だ。
「やっぱり胡桃さん濡れそうだし、それに俺もう濡れてるしさ——」
そう告げて胡桃さんの方に再度傘を傾けようとして、
「だめ」
きっぱりと断られた。
「そ、そういうの嬉しいけど……あ、あんたが心配してくれるのと同じように、私だって心配するんだから……だから、ね?」
優しい笑みを浮かべてお願いするように告げた胡桃さんは、そのまま身を寄せてきて——肩と肩が僅かに触れ合った。
必然彼女の美しい顔も至近距離にあって……。
「好きだ」
気が付けばいつものように愛を囁いていた。
「……へ?」
「いや、何というかもうダメだ。そんなことを言われたら胡桃さんへの愛が溢れて仕方がないんだけどっ!?」
「ちょ、え、えぇ?」
顔を真っ赤にして身を一歩引こうとする胡桃さん。
しかし雨が降っているため逃れることは出来ず、照れているにもかかわらず顔を逸らすことすら難しい状況が完成していた。
「さあ、濡れるといけないからもっとくっ付こうじゃないか!」
「へ? あっ、ちょ、へ、変態っ!」
「俺は胡桃さんを心配しているだけだから」
「そういう意味で言ったんじゃないんだけど!? あ、ちょっと!」
慌てる胡桃さんを軽く抱くように身を寄せる。
一瞬抵抗して見せた胡桃さんであるが、
「~~~~っ」
すぐに口をキュッと結んで借りてきた猫のように大人しくなった。
そしてゆっくり俺を見つめると、恥ずかしさを隠しきれない表情で告げる。
「あ、歩きにくいんだけど……」
「離れて欲しい?」
「そ、それは……」
胡桃さんが言い淀んでいると、結論を出す前に赤信号に止められた。
自然、胡桃さんと視線が合う。
「……」
「……」
そして、
「と、止まってる時なら……いいわよ……」
顔を逸らした上に、口元を手で覆い隠しながらの言葉。
しかし胡桃さんの耳は真っ赤になっていて——。
「一生赤信号ならいいのに」
「ばか……あ、青になったから行くわよっ」
「そんなぁ」
無慈悲な現実に思わず嘆くと、胡桃さんはくすりと笑って一言。
「別に、赤じゃなくても抱きしめてくれるんでしょ?」
「それはもちろん!」
「じゃ、行くわよ」
そして二人並んで歩きだす。
そんな何てことのない下校の一幕だった。