Intermission ひとの秘密は蜜の味



 とある夜。マンションの一室で、三人の女性がローテーブルを囲んでいた。

 家主のあまなつがグラスをかかげると、ぬきしらたまみのりの二人もグラスを手に取る。

「あー、白玉みのりの結婚を祝して──かんぱーい!」

「「かんぱーい」」

 甘夏のかけ声とともに、グラスが打ち鳴らされる。

 一気にビールを飲み干した甘夏は、空のグラスをテーブルに置く。

「いやー、めでたい。なか先生、生徒だけじゃなく同僚にも評判いいもんな。のり玉ちゃん、いい人つかまえたよ」

「ふふ、ですよね。私、しあわせ者です」

 ハッキリと肯定すると、みのりは甘夏のグラスにビールをそそぐ。

 小抜は天井を見上げながら、指折り数えはじめる。

「大学のころからだから、付きあって7年よね。一緒になるって決めてたにしては、ずいぶん時間がかかったわね」

「あの人、私が仕事に慣れるのを優先してくれたんです。最初の3年は大事だからって」

 隠しきれないニヤケ顔。甘夏と小抜はヤレヤレと顔を見あわせる。

「そういや大学時代から、どんなに言っても会わせてくれなかったよな。田中先生がツワブキに赴任してきて、初めて顔を見たんだぞ」

「そうね、どうして秘密にしていたの?」

 白玉みのりはグラスを両手で持ち、ニコリとほほむ。


「──だってヌキさんの好みのタイプって、知り合いの彼氏じゃないですか」


 甘夏の箸から、ホタテがポトリと落ちる。

「のり玉ちゃんはっきり言いすぎ。小抜ちゃんだって最近は落ち着いてるんだぞ?」

「あら、みのりの言う通りよ。人のモノって気になるでしょ」

「……小抜ちゃんは少しは否定しろ」

 甘夏古奈美、28歳。この三人だと、さすがの彼女もツッコミ役に回るのだ。

 なぜか再び乾杯する小抜とみのりを見ながら、甘夏はホタテをモチャモチャとかむ。

「式は週末なんだろ。準備は終わったのか?」

「はい、準備は──終わっています」

 どことなく含みをもたせた言い方に、小抜が心配そうな顔をする。

「リコちゃんのこと?」

 笑おうとして、すぐにあきらめてうなずくみのり。

「前にあんな騒ぎを起こしてから、あまり話ができてなくて」

「リコはお姉ちゃんっ子だしなー。お前をなか先生にとられた気がして、素直に祝福できないんだろ」

 気楽そうに言うあまなつに、みのりは気が抜けたように表情をゆるめる。

「ですかね。それにあの子、最近彼氏ができたんです」

「そうなのか?! 相手はどんなやつだ?」

「文芸部の部長さん──って言ってました」

 ゴフッ。思わずむせるぬきと甘夏。

 二人は顔を見合わせてから、言葉を選びながら口を開く。

「えー……まー……目立たないが悪いやつじゃないぞ。女子の知りあいが多いけど」

「そうね、あれだけの女生徒に囲まれて動じないのは見込みがあるわ。いつざいね」

「どんな子なんです……?」

 先輩たちの言葉に、みのりの顔に不安が広がる。

「あー……どことなく、田中先生に雰囲気が似てるかな」

 苦しまぎれにつけ足したひと言に、みのりはスッとすじを伸ばす。

「……リコが選んだ子、ゆうさんに似てるんですね」

 確認するようにそう言うと、みのりはいつもの整った笑顔に戻る。

「そういえば甘夏さん、マッチングアプリ始めたんですよね。なにかいい出会いはありました?」

「そうね、会う約束をしたって言ってなかった?」

「…………マンション買わされそうになった」

「「…………」」

 カシュ。甘夏は新たなビールを開けると、グラスに注がずにそのままあおる。

 小抜がビールの缶を向けると、みのりは無言でグラスを差しだした。


、今日は飲みなさい」

「そうですね、ジャンジャンいきましょう」

「おう、今日はとことんいくぞ!」


 窓からの風が、カーテンをフワリとふくらませる。

 夜風はすでに初夏の香りを含んでいた──。