県立ツワブキ高校の体育館。

 ステージの上で、俺は数百の視線にさらされていた。

 そう、新入生オリエンテーションの部活紹介がおこなわれているのだ。

 俺はまりに左右をはさまれ、マイクスタンドの前でゴクリとツバを飲みこむ。

「えっとその、文芸部は本を読んだり……なんか書いたりもしてます」

 体育座りをした新入生たちは、説明に真剣に耳をかたむけている。

 無反応というかいしやくもあるが、なにしろツワブキ生は真面目で上品なのだ。リアクションがなくても心配することはない。

 さあ、次は小鞠の番だ。俺は隣で指をこねくり回す小鞠に視線を送る。

 文芸部の副部長でもある小鞠は、こう見えて色々あって成長したのだ。

 小鞠はコクリと小さくうなずくと──俺の背中にかくれた。

 成長していなかった。

「おい、次はお前のセリフだぞ」

「……ま、任せた」

 俺の上着をつかんで、きざみにふるえる小鞠。

 仕方ない、これも予想の範囲内だ。俺はせきばらいをして言葉を続ける。

「えーと、ぶんごうになろうに投稿したり部誌を作ったりもしてます」

 2ターン目もれいにクリア。

 残るは文芸部の秘密兵器、できれば秘密にしておきたかった女、あんの出番だ。

 八奈見は緊張気味にポケットからへんを取りだすと、ゆっくりと読み始める。

「そばドック──星5。焼きそばがたくさんはさんであるのでおすすめです。おぐらサンド──星5。安くてあんこがたくさんなのでお勧めです。生クリームパンは──」

 ……いきなりどうした。

「ちょっと八奈見さん、なに読んでるの?」

「へ?」

 八奈見は目をパチクリさせると、慌ててポケットを探りだす。

「ごめん間違えた! ぬくみず君、げん稿こうどこやった?」

「俺に聞かれても。あ、ほらゴミを落とさない」

 八奈見のポケットから、お菓子の包み紙がポロポロ落ちる。

 まさかの八奈見『意外とあがり症』発覚だ。

 あせってゴミを拾い集めていた俺は──おんな気配を感じて視線を上げた。

 ……ステージの舞台そでに不審人物がいる。

 陸上のユニフォームに身を包んだ女生徒が、頭から紙袋をかぶってこちらを見て(?)いるのだ。ていうかやきしお、なにやってんだ。

 焼塩は軽くくつしんすると、クラウチングスタートのたいせいになる。

 え、待て。その格好で出てくるつもりか?

 紙袋に穴が開いてないから多分前も見えていないし、向いてる方向からしてなんかもうズレてるし、さんげきの予感しかない。

「焼塩、待──」

 俺の言葉がスタートの合図とばかりに、焼塩が一気に飛び出した。

 マイクの前で急停止して、文芸部の紹介を──するつもりだったのだろう。

 だが視界0の焼塩は突っこんでくると、俺たちともつれるようにステージに転がった。

 悲鳴が体育館に響き渡る。

 吹き飛ばされてステージに横たわる俺の前に、バタンとマイクスタンドが倒れてくる。

 俺は手を伸ばしてマイクをつかむと、なんとか声をしぼりだした。

「放課後は西校舎1階の部室で、なんかやってます! 来てください!」

 ……キィンと鳴り響くハウリング音がおさまると、体育館は静まりかえっている。


 なるほど今年の新入生は──実に上品だ。