アブソリュート・アーク十五歳。

 ついにアブソリュートは十五歳となった。

 今年の春から王都にある学園に三年間通うことになり、入学からが原作のスタートになる。勇者と戦うための準備は着実に進んでいる。

 クリスとレディが仲を取り持つ形で傘下の貴族との仲は良好だ。原作では勇者の仲間であるマリア・ステラを奴隷にしてそばに置くことに成功した。仲も良好でマリアが勝手に入ってくるのだが、お風呂もいつも一緒だ。

 えっちだなぁ。

 さらに一番大きいのが、ミカエル王子を王太子の座から下ろしたのが大きい。これで大軍を動かすことができなくなった。

 後は、学園で勇者の成長イベントをつぶして、勇者の邪魔をしながら聖女への工作を行っていく計画だ。

 十五歳になったアブソリュートは、今日アーク家の固有魔法を継承するため、父ヴィランと殺しあわなければならなかった。

 アーク家の屋敷の中にある室内修練場にて親子は向かい合っていた。

 嵐の前の静けさというものか、空気は張り詰めている。

「アーク家の固有魔法『精霊召喚アーク・サモン』は高位精霊を呼び出して使役する魔法だ。この魔法は初代アーク家当主が精霊王と縁を結び、受け継がれてきたものだ。それを継承するためには現在の所有者を殺し、この体に埋め込まれた精霊紋を奪い取らなければならない。もちろん私もただで殺されてやるつもりはない。アブソリュート、覚悟を決めろ」

(……まさかアーク家の魔法がそこまでヤバイものだとは思わなかった。原作でヴィランが出てこなかったのは、継承の際にすでに死んでいたからだったのか。なんかアーク家ってめちゃくちゃ血にまみれてるよなぁ)

「父様、覚悟はできていますよ。そういえば、最後に手合わせをしたのは十歳の時でしたね」

 両者は仕掛けるタイミングを計るように睨み合う。

 場が静まり返るなか、初めに仕掛けたのはアブソリュートだった。

「ダーク・ホール」

 アブソリュートは開幕から得意魔法を使う。闇の魔力の中からおびただしい数の魔力の腕が生えヴィランを襲う。

 だが、ヴィランは動じない。

 抜刀し、自身の剣に魔力を込める。

「黒炎斬」

 ヴィランは剣に黒炎をまとい、炎を纏った斬撃を飛ばし魔力の腕を切っていく。

 アブソリュートは驚く。今のアブソリュートのレベルは90を超えている。そしてこの世界の兵士の平均レベルは20。ライナナ国物語の原作ではレベル50以上のキャラクターはアブソリュートしか知らない。だが、ヴィランの力は確実にレベル50以上だと感じた。

「アブソリュート、お前は親の目から見ても強い。だが、俺とお前ではくぐってきた修羅場の数が違う。若いお前に言うのはこくだろうがな。さぁ次は私からいくぞ!」

 ヴィランが剣を上段で構え、一気に距離を詰めてアブソリュートに斬りかかる。アブソリュートも剣で応戦し、二つの刃が合わさる。

 キィーーーーーーー

 力は互角に見えた。

 だが、攻めているのはヴィランだ。

 防ぎにくい下段へのぎの斬撃を、アブソリュートの足元に飛ばす。

 地面を蹴り、空中へ回避するがそこを狙っていたかのようにヴィランの突きがアブソリュートを襲う。

「ダーク・ホール」

 魔力の腕で自身の体を勢いよく突き飛ばし突きを回避する。ヴィランの突きが空を切り対象を失った突きが壁を突き破る。

 当たればただではすまない威力を誇った攻撃だった。

 アブソリュートは、レベル差があるだろう父がここまで強いとは思わなかった。

(長年にわたり、ライナナ国を裏で守ってきた男だ。強いとは思っていたがまさかこれほどとは……)

 ここまでは二人の力がきっこうしていたが徐々にヴィランが押され始める。アブソリュートも本気ではあったがまだどこか余力を残していたのに対して、ヴィランはアブソリュートの圧倒的な力に全力を出さざるを得なかった。つまりは、スタミナが切れてきたのだ。

「強くなったなぁ……アブソリュート」

 予想以上の強さを見せる息子に胸が熱くなる。

 息子の母親はアブソリュートを産んですぐにアーク家を去っていった。父である自分も、仕事にかまけてあまり相手をしてやれなかった。アーク家という特殊な家で、幼い頃から戦場に立たせてきた。

 他国の勢力から国や領地を守るためとはいえ、アブソリュートには申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 ヴィランはアブソリュートの強さに素直に成長を喜ぶ親心と、幼いころからアーク家の重責を背負わせ、強くならざるを得なかった申し訳ない気持ちを感じていた。

 ヴィランの心は複雑であった。

「これで最後だ! 私を越えろ、アブソリュート!! 固有魔法『精霊召喚アーク・サモン』いでよ、『かいびゃくの精霊』」

 精霊を呼び出し使役する固有魔法『精霊召喚アーク・サモン』。

 呼び出される精霊は『精霊王の系譜』といわれる精霊王直轄の十二体の中から選ばれる。

 精霊のランクとしては精霊王の次に高いランクを誇りその力は強大だ。

 だが、本人の資質や精霊との相性により呼び出せない精霊も多く、ヴィランは十二体のうち三体までしか呼び出せない。

 今回呼び出された『開闢の精霊』。戦闘に特化した精霊である。

 解放されたことにより、ヴィランに呼び出された精霊が姿を表す。人型の、白い色をした騎士のような見た目。それは人では及ばない美しさを持った存在であった。

 開闢の精霊が多数魔法陣を展開し、上級魔法を次々と放ってくる。

『バーニング』『アクアコール』『アースクラッシュ』『メテオ・ワン』

 業火が、津波が、巨大な岩がいんせきのような魔力の玉がアブソリュートめがけて襲う。

 レベルの高い者にしか使えない上級魔法を同時に展開できる無法技。

 これが上位精霊の力である。

「ダーク・ホール」

 アブソリュートはそれをおびただしい数の魔力の腕で防いでいく。精霊とアブソリュート両者の魔法の実力は拮抗していた。

「強い力は持っているが戦い方を分かっていないな。強い魔法をただ撃っていれば勝てるわけではないぞ。開闢の精霊」

 精霊は魔力の腕に気を取られるあまりにアブソリュートを放置しすぎた。アブソリュートは精霊との距離を詰めて精霊を殴り飛ばす。

…………

「終わりだ。ダーク・ホール」

 精霊が殴り飛ばされたところを魔力の腕で拘束し、精霊との決着はついた。

「ここまでだな。強くなったな……アブソリュート」

「勝敗はすでに決まりましたので、私としては死体蹴りのようなことはしたくないのですが。そもそも継承のシステムはどうなっているのです?」

「甘いことを……そうだな。息子にそこまでの業を背負わせるのは忍びないな。私の父も同じ気持ちだったのか」

 ヴィランは自分の心臓を自らの剣で突き刺そうとする。

「な?! なぜだ」

 ヴィランは胸を貫くはずが、アブソリュートの魔力の腕によって自害を阻止された。

「何をしているアブソリュート! 私が死なねばお前は固有魔法を継承できないのだぞ!」

「……父よ。貴方はこの国のために自らの人生を棒に振ってきました。なのに、最後は固有魔法を継承するためだけに命を落とすなんて、あんまりではないですか。私は自らの親を犠牲にしてまで得た力など欲しくはありません」

 原作のアブソリュートは恐らく、死が日常になっていたことでこの力を継承することに躊躇ためらいはなかったのかもしれない。だが、前世の価値観を併せ持つ現在のアブソリュートはそれが受け入れられなかった。

「……本当に甘いな。だが、どうする? 私が死なないと精霊と契約できないぞ」

 アブソリュートは解決策を既に出していた。

「それについては考えてあります。父様が呼び出した精霊と契約を結ばせてください。固有魔法と比べて契約した精霊しか使役できませんが、それをもって継承の儀としましょう。固有魔法については父様が老衰で死んだ後、受け継がせてもらいます」

「高位の精霊と契約するには莫大な魔力がいる。人間では無理……いや、異常なほどの魔力を有しているお前なら可能か」

 考えもしなかった発想にヴィランは笑った。

「そうか……敗者は勝者の言うことに従うことにしよう。アブソリュートよ。本格的な継承はできなかったが確かにお前は精霊の力を手にすることになる。三年後、学園卒業と同時にアーク家の当主はお前だ」

「謹んでお受け致します」

 こうして、固有魔法継承は本契約を精霊と交わすことで疑似的に『精霊召喚アーク・サモン』を再現することで決着した。





 ヴィラン・アークは現在王城にて国王とあっていた。

「生きてまた会えるとはな……何はともあれ君が生きていてよかったよ。ヴィラン」

 国王とヴィランが堅い握手をかわす。二人は幼い頃から共に育った幼馴染だった

「あぁ、死に損なってしまった。多くの人を殺し、実の父をも手にかけた私がまさか生き残るとは思わなかった」

 ヴィランは自嘲した。

「そんなこと言わないでくれ。君は、君たちアーク家は国のために誰よりも貢献している。幼馴染というだけで君は私を何度も助けてくれた。私は本当に君が生きていてくれて嬉しいよ、ヴィラン!」

 二人は幼い頃から一緒だった。それは友人という関係でアーク家を王家に縛るためのものだったが、それでも二人は確かに友人だ。

「本当はミカエルにも、私とヴィランのようにアブソリュートと上手くやってほしかったのだがな。アブソリュートは国王の私から見ても優秀すぎる。ミカエルは劣等感と偏見のせいでもうアブソリュートとのいい関係は望めないだろうな。なぁ、アブソリュートと娘のハニエルの婚約考えてくれたか?」

 国王はアブソリュートをなんとしても王家に縛りつけたかった。ミカエルとの友人関係を築くのは諦め、娘ハニエルの婿に迎えることを画策していた。

「すまんな。俺はすぐに死ぬつもりだったから忘れてたよ。死んでからアブソリュートに丸投げしようと思って」

 ヴィランはあっけらかんと笑ったが国王はその答えに肩を落とした。

「まぁ、アブソリュートは言葉には言わんが私のように王家や国のために裏で手を汚すことにへきえきしている。アブソリュートが当主になったら、自分となんの関係もない王家のためには働かないだろうな。もし、アブソリュートの納得する見返りを王家が用意できなければ、私の代で裏の仕事は廃業だよ」

 ヴィランの言葉に国王は頭を抱えた。

 現在のライナナ国の国防を裏で守っているアーク家の次期当主が、王家に不満を持っているのだ。ミカエルの件での失態もある。

 国王はなんとしてもアブソリュートと娘を婚約させようと策を練るのであった。





 ついにアブソリュートは精霊と契約を結ぶことができた。この力は今後勇者と戦ううえで大きな力になるだろう。

 アブソリュートは父が『精霊召喚アーク・サモン』で呼び出せる十二体の内の三体から一体を選び契約した。

 アブソリュートは契約した精霊の能力を確認する。

「精霊の種類は『献身の精霊』か……サポート特化の精霊。能力は魔法範囲の拡張に身体強化そして献身? こいつが戦えるようになる能力か。ちなみにお前名前はあるのか?」

 精霊は首を振る。

 精霊にはこちらの言葉は通じるが人間界では話すことができない。

 いつか精霊界に行って会話してみたいものだ。

「そうか。ならお前はトアと名付ける。トアは小さくなれるか」

 トアはコインくらいの大きさに変化した。

「そうか…お前には今後私と常に一緒にいてもらう。外にいる時は体を小さくして私の肩にいろ。これから学園に入学して忙しくなるからな。頼んだぞ、トア」

 トアは小さく頷いた。