ライナナ国王城

 悪党であるアブソリュートを倒して民衆と貴族から支持を得たミカエル王は重大な問題を抱えていた。

「なんで、他国の闇組織がライナナ国で動いているのだ!? 衛兵隊は何をしている! これでは国がボロボロになってしまうぞ!」

 裏で国のために動いていたアーク家がつぶされたことにより、他国の闇組織が一部の貴族と癒着し、国をむしばんでいた。民衆には強力な麻薬や誘拐などが横行し手がつけられなくなっている。取り締まろうにも闇組織の情報もツテもない。そうならないようアーク家が動いていたのだがもうつぶされてしまったのだ。ミカエル自身の判断で。

「くそっ、こういう時のための勇者だろう?! 早く勇者にこの混乱を止めさせろ!」

 ミカエルがこの場にいない勇者に丸投げするが……

「伝令です。至急陛下に!」

(また緊急の伝令か。最近は闇組織関連で多くなった気がするな。全く次はなんだ?)

「何だ? 闇組織が動いたのか?」

 だが、伝令の内容は悲惨なものだった。

「勇者様が治めているミライ家の領土にて虐殺がおき、勇者様と、その奥さま方も謎の化け物に殺害されてしまいました。その化け物が王都に向かってきています!」

 聞かされたのは、あの悪党アブソリュート・アークを打ち破った英雄たちの悲報だった。



 時はさかのぼり、勇者たちが殺される前レディ・クルエルはウルの見送りにきていた。

「本当に行かれるのですか? 貴女にはアブソリュート様との子供がおりますのに……」

 レディの腕にはまだ小さな獣人の子供が抱かれていた。レディはアブソリュートの奥方であるウルを心配するが、ウルの姿はふくしゅうの鬼と化していた。

 あの可愛らしかった顔もこけた頰が気になるがすっかり大人びた感じになり、髪もボブカットからロングヘアにかわり、それが時の流れを感じさせる。

「私はご主人様の帰りを待ちました……ご主人様は必ず帰ってくると……信じていましたの。でも、帰ってこなかった! ウルは……ご主人様のいない世界では生きていけない!」

 悲痛な叫びだった。アブソリュートが亡くなって数年、ウルは彼のいない世界では生きる価値を見つけることができなかったのだ。レディも止められないと分かっているがなんとか引き止めようとする。

「アブソリュート様は最後に私たちに生きろとおっしゃいましたわ。なかには裏切って情報を売った者もいたのに最後まで私たちの身を案じてくれた! 貴女にはアブソリュート様の分まで生きる義務がありますわ!」

 アブソリュートは勇者と国王軍との戦いに傘下の貴族を自軍にせず、最後に生きろとだけ言い一人で死地に赴いた。裏切り者がなかにいる以上被害が大きくなるのを嫌ったのもあるが、負ければ嫌われ者である自分が死ぬことですべて収まると考えたからだ。

 原作では傘下の貴族がアブソリュートを見放したかに思えたが、真相はアブソリュートが望んだことでもあった。

 どうにかして思いとどまらせようとするレディをウルは空虚な瞳で見つめる。

「ご主人様が殺されたのに……自分の命のために復讐を諦めろと?」

「そうですわ! それがあの方の望みなのですから」

 彼女はこれから主人を死に追いやった国を相手取り、同じように自らも死のうとしている。レディはアブソリュートの犠牲を無為にしたくはなかった。

「ご主人様が死んでも守ろうとしたアーク家の誇りや領地を、死してなお踏みにじられていく様を黙って見ていろと?」

…………そうです」

 自分たちがそうしてきたように、彼女にも生きるために国に屈しろとそういう意味を込めた答えだった。

 だが彼女はそれをあざ笑うように言った。

「そんなの……死んでいるのと何が変わらないの?」

 今度こそレディは何も言えなかった。

 レディ・クルエルも貴族だ。ウルの主人の誇りを取り戻したい気持ちは理解できる。だが自分たちはアブソリュートを見捨ててしまった。彼女に何かを言う資格などないのだ。

 しばらく沈黙が続くがウルが口を開く。

「ウルはもうご主人様の奴隷ではないのです……だからウルの好きにさせてもらう。レディ様、ウリアを……私たちの子供をお願いします」

 ウルは深くレディに頭を下げる。

(もう、止められない……)

 昔から知っている人がこれから死地に行くのを止めることができない。レディ・クルエルは、アブソリュートを一人で行かせてしまった時と同じ無力感を味わった。

「……分かりましたわ。私たちがもっと早くアブソリュート様の優しさに気づけていれば……こんなことにならなかった。責任を持ってお預かりしますわ。最後に……もう一度ウリア様を抱いてあげてくれませんか?」

 ウルは優しく慈しむようにウリアを抱く。

 アブソリュートを亡くしたと知った時以降、出なかった涙があふれ出した。

「ごめんなさい……駄目な母親でごめんなさい」

 泣いている母親に感化されたのか幼いウリアも泣き出した。泣きながら抱きしめ合う二人。

 これが母子の最後の時間となった。





 ミライ領

 ミライ領にある大聖堂には日々大勢の人が集まる。そこには勇者の仲間としてアブソリュートを討ち取った英雄、聖女エリザがいた。

 聖女という肩書に悩める者に一人一人寄り添う姿勢、彼女に人々は心の救いを求めていた。

 大聖堂の扉が開き、今日も聖女エリザは参拝者を歓迎した。

 訪れたのは顔の半分まですっぽり覆ったローブの女性だった。

「あらあら、こんにちは。素敵なローブの方。本日はどのようなご用件で?」

 聖女は優しい声音で語りかける。

「亡くなった旦那様に祈りを捧げにきたの……」

「まぁ、旦那様を若くしてなくされたのですね。大丈夫! 貴女あなたの声はきっと届きますわ」

 さぁ、こちらへと誘導され祈りの列へと並ぶ。

 自分の番が来たウルは、天にいるアブソリュートに言葉を届ける。

(……ご主人様、ウルもすぐそちらにいきますの)

 祈り終えたウルに聖女エリザは声をかける。

「きっと貴女の想いは旦那様に届いたことでしょう。それで貴女はこれからどうされるのですか?」

「旦那様のためにやらなくちゃいけないことがあるの」

「そうですか。きっと貴女の旦那様も喜ぶ事でしょう。ちなみに何をされるのですか?」

 聖女の問いかけに対してウルは彼女の目を見つめて言った。

「……皆殺しなの」

 言い終わると同時にウルは聖女の首を手刀でねた。

 ゴトリッ

 不意打ちに対応できず聖女の首が床に転げ落ちる。

 頭部を失った聖女の首から血が噴水のようにふきだし大聖堂を血で染めた。

「一人目なの」

 なんの感情もなく、ただ一仕事終えたようにウルはつぶやいた。

「あ……あ……いやあああああああぁ聖女様あああああああああぁぁ!」

「ひ、人殺しだあぁぁぁぁ!

 一人の悲鳴を皮切りに他の参列者たちから悲鳴が上がるが、誰一人として大聖堂をでることができないままウルによって殺された。

 これからウルによる虐殺が始まる。

 聖女エリザ 死亡



 大聖堂で聖女を殺害した後、ウルは勇者の屋敷へ向かった。

 門をくぐろうとすると門番が止めに来るが、門番を殺害し、ウルは屋敷の敷地に入る。

 目に入った者を手当たり次第に殺していく。すると騒ぎが大きくなり屋敷の警備兵が大勢現れウルを取り囲む。

 警備兵を率いている女騎士がウルの前に立った。

「動くな! 我が名はマリア・ステラ。ライナナ国勇者アルト・ミライの騎士だ。貴様ここが誰の屋敷か分かって暴れているのか?」

「誰の家でもいいの。どうせ皆殺すんだから」

「狂人の類いか……いや待て、貴様確かアーク家の奴隷だな? なるほど目的は復讐か。

 アルトはお前のことを気にしていたが仕方ない。騒ぎを起こした以上見逃すわけにはいかない。参る

 ウルの元まで距離を詰め、マリア・ステラが宝剣を振り下ろす。

 全身全霊で打ち込んだこんしんの一撃だった。

 だが、ウルは【索敵】のスキルで強化した動体視力で剣を見切り、指で剣を挟みそのまま指圧で宝剣を砕いた。

「ばっ、バカな!?

 マリアは目の前で起きたことを受け入れられなかった。

 自分の攻撃をあんな簡単に防がれるとは思わなかった。

 そして同時に覚悟した。私は死ぬのだと。

 容赦のない手刀がマリアを襲う。

「復讐? 勘違いしないで……ウルは死ににきたの」

 マリア・ステラはなす術なくウルによって首を刎ねられた。

「二人目なの」

「そんな……ま、マリア様が……」

 英雄の一人でもあるマリアの死を見て囲んでいた警備兵が混乱する。

「次はお前らなの」

 理不尽な力が警備兵を襲う。

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ」」」

 ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ

 どしゅぐちゃ

 ぶしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 混乱して動けない警備兵をせんめつしウルは先を急いだ。

 マリア・ステラ死亡



 マリアと警備兵を皆殺しにした後、ウルは屋敷に入り勇者を探した。

 とある部屋が【索敵】に引っかかり部屋のドアを開ける。そこはアリシア・ミライの執務室であり、アリシアもそこにいた。

 アリシアは最後の書類を片付けるとウルの方を見る。

「騒がしいと思ったら、貴女だったのね。アーク家の奴隷の子。目的は復讐よね? 今更だけど貴女のご主人様のこと謝らせてちょうだい。悪かったわ……私が勇者をちゃんと止めていれば……」

「……」

「アーク領は今私が管理しているの。驚いたわ、だってアブソリュート・アークが残したアーク領は国民が圧政で苦しみ、貴族は横領し放題と聞いていたのに書類を見ればむしろどれだけ善政を敷いていたのかがわかったもの。書類はキッチリと整理され、領民からの税収に関しても数字一つ間違いはなかった。彼がどれだけ領地を思っていたか分かったわ」

 アリシアは後悔をにじませるが、それでもウルには関係なかった。

 彼が領地をどれだけ大切にしていたかなんてウルには分かっている。

 彼の一番近くで、書類と睨み合う姿をずっと見てきたのだから。

「謝ってもご主人様は帰ってこない。お前ら全員皆殺しなの」

 アリシアはすべてを諦めウルにその身を差し出した。

「最後のお願い……痛みのないように殺してくれないかしら?」

 恐怖を押し殺し最後の慈悲を乞う。

 ウルは考える間もなく答えた。

「無理なの」

 その後、アリシアは悲鳴が上がらないように喉をつぶされる。

…………!

 その後、四肢を切り落とされ、時間をかけてなぶり殺された。

「三人目」

 アリシア・ミライ死亡



 屋敷の一番奥の部屋に勇者はいた。屋敷の騒ぎに気づかず正妻のハニエルと交わっていた。ウルは扉を蹴破り、扉を部屋の奥へと吹き飛ばす。

「な、なんだ!?

 勇者は突然の事態に困惑するが、目の前に現れたのがずっと探していた女性であることが分かると喜んだ。

「君はウルじゃないか! よかった。アブソリュートの屋敷を攻めた時に連れ出そうと思ったけどいなかったから何かあったんじゃないかと思ったよ! って血まみれじゃないか! 何があった?」

「見つけたぁ……勇者ぁ」

 勇者はこれから自分の身に起こることを知らずのんに話しかける。

「あぁ、俺を探していたんだね! そうか、アブソリュートから逃げ出したけど俺の居場所がわからなかったのか」

 ウルは待ち望んだ相手をにらみつける。

 大事な主人の誇りを踏みにじった男。そして自分から奪った男でもある。

 次第にアブソリュートを亡くした頃に感じた怒りが再燃し、ウルの心中で燃え上がる。

 もう頭には勇者を殺すことしか考えられなくなった。

「……お前のせいでぇぇぇええご主人様はぁぁぁぁぁあああ! 死ねぇぇぇえええ!」

 目にも止まらぬ速さで勇者との距離を詰め、拳による攻撃を繰り出すが、勇者はスキルで聖剣を召喚し、なんとか受け止める。

「ウル? もしかしてまだアブソリュートの洗脳が解けてないのか! 落ち着いて、俺は敵じゃない!」

「死ねぇぇぇぇええ」

 ウルはスピードで勇者を圧倒するが勇者はギリギリで対応ができていた。

(なんで?! 学園の時よりかなり強くなってる!!

 ウルは動揺した。勇者は十万単位の兵力差をもってだが、アブソリュートを倒した。それでもあのアブソリュートを倒したのである。レベルは当然上がっているのだ。

「ホーリーアウト!」

 勇者の攻撃がウルを直撃する。勇者の攻撃はスキルの効果で一撃当たりのダメージがかなり多い。ウルは大ダメージを負い地面にいつくばった。

「ぐうっ……」

「ウル! 君はだまされているんだ。アブソリュートは闇組織の人間で、この国を苦しめてきた悪なんだ! まだ幼い君を奴隷にして苦しめてきたクズ野郎だ! 君はアブソリュートに今も操られてるだよ!!

 ウルはボロボロになった体を起こし勇者に反論する。

「……違う……。ご主人様はウルに居場所をくれた。をしたウルに回復魔法をかけてくれた。甘いお菓子を食べさせてくれた。たくさんウルの頭をでてくれた。そして……ウルを愛してくれた。ウルを母親にしてくれたんだ……。馬鹿にするな……ご主人様を馬鹿にするなぁぁぁぁぁああっ!」

 大ダメージを負いつつも命を燃やし再度立ち向かった。

 ご主人様を殺し、侮辱したあいつだけは絶対に許せなかった。

 ウルは勇者に向かって吠えながら再び攻撃をする。技と手数でウルは勇者を圧倒する。だが、勇者の防御を崩せない。

「ホーリーアウト」

 勇者が攻撃をするがギリギリでウルはかわす。

 戦いはこうちゃくするがウルにはまだ切り札が残っていた。

(……もうここで終わってもいい。だけど勇者は必ず殺す。【獣化】のスキルを使う)

 獣化のスキルは体を獣に変えるスキルだがレベルが上がるにつれ体やパワーが大きくなる。だが代償として獣になっている間、理性を失いただ相手を殺す獣になってしまう。

(多分使ったらもう元に戻れないかもなの……最後はご主人様の事を考えながら死にたかったな)

 ウルはアブソリュートの顔を最後に思い浮かべ覚悟を決める。

「愛しています……ご主人様。【獣化】発動!」

 ウルの体が光に包まれていく。

 その光が次第に大きくなるにつれウルの体が獣のそれへと変わっていった。

 獣化したウルは体長十メートルを超える狼に姿を変えた。

 ここからウルのじゅうりんが始まる。