マリア・ステラとウルを購入してからしばらくった。かなり関係は良好だとは思う。

(マリアに至っては主人公と起きるはずだった『お風呂イベント』まで起こったしなぁ。勿論、手は出してないよ? まだ、十歳だから性欲がそんなにないからね。そこだけが悔やまれる)

『ご主人様、お背中お流ししますね。ふふっ、ほら前も洗いますからこっちを向いてください……もう、分かりましたから威圧するのはめてください。ご主人様なら少しはオイタをしてもいいのですけど……なら一緒に湯船に入りましょう? これからは毎日お背中お流ししますね♪ ご主人様』

(何かのはずみで精通しそうで心配だ……にしても、小説だと主人公には結構厳しくしてからご褒美に甘えさせてくれる感じだったのに、俺には甘々だよなぁ。なぜだろう?)

 原作ではへこたれた根性の主人公を奮起させるために、アメとムチを使い分けていたマリアだった。だが主人であるアブソリュートの家庭環境はムチしか与えられず、必要なのはアメだとマリアは判断したのでアブソリュートには甘々なのである。

 ウルに関しても花瓶を割ってケガしたところを、回復魔法で直してあげたことがあった。それからかなり関係は改善した。たまにお菓子もこっそりあげたりもして、侍女の仕事のない時はアブソリュートの後をちょこちょこ付いてくるようになった。

 そんな日々を過ごしていると、久しぶりに父から呼び出された。

 父が呼び出す時はろくな事がないのは分かっている。行きたくはないが行かない選択肢はない。私は父の部屋に赴く。

 父は相変わらずのこわもてで私を待ち構えていた。

「よく来たな、アブソリュートよ。また強くなったようだな。アーク家の当主として誇りに思うぞ」

 毎回部屋に来るたびに同じことを言われているような気がする。他に言うことはないのか!

 AIかお前は!

「ええ、毎日鍛えていますから。それで用件を伺っても?」

 父はサクサク話を進める。

「何度もいっているが、アーク家はライナナ国にとっての必要悪だ。国の悪を管理し裏で王家にとっての不穏分子の始末に加え他国からきた闇組織の対処を行っている」

(そうだ……原作ではアーク家はただの悪として描かれているが本来は裏で国防を担っている陰の功労者なのだ。最終的には勇者によって滅ぼされたのを考えると今後、国から切り捨てられる可能性がある。そう考えるとこのまま王家に尽くすのは危険だ。対処を考えなくては……)

「ええ、分かっています。私も何度も仕事をこなしてきましたから……それで今回の任務はなんでしょうか?」

「……あぁ、王都でアーク家に属していないカラーギャングが、帝国の闇組織から武器を密輸しているらしい。殺してこい。一人残らず」

 アブソリュートは無言でうなずく。その後、詳細を詳しく聞いた。

 敵の数はおよそ三百。

 主犯である帝国の人間は帝国貴族ノワール公爵家の手の者とのこと。

 ノワール家とは帝国の裏を掌握している闇組織で、最近ではその手を他国にまで伸ばそうとしているため当然ライナナ国も狙われている。

 ノワール家とアーク家、国は違うが水面下での攻防が長年続いているいわゆる敵対組織というやつだ。

 聞いた話では前に一度大きな抗争があり、アーク家は戦闘に参加していた大勢の若者を失い、ノワール家は当主や跡取りといった主要人物を失い痛み分けに終わったらしい。

「分かりました。では、さっそく行ってまいります」

 そう言って父の部屋を後にする。

「これから、お仕事にいかれるのですか?」

 出かける前にマリアに伝えておく。

(探しにこられたら面倒臭いしね)

「私も行きましょうか?」

 心配そうな顔で見つめるマリア

「いらん。それと今日は帰れんかもしれん。待たずに寝てていいぞ」

「……承知しました。気をつけて行ってらっしゃいませ」

 深々とお辞儀をするマリアを背に私は屋敷を後にした。





 ライナナ国と帝国の国境に位置するアクアマリン領の廃村にて取引は行われていた。

 アーク家に属さないカラーギャングのグリーンアント総勢三百八名がそろい、取引を見守る。

「帝国から持ち出せたのは魔銃十丁に中級魔法のつえが五十、他は剣やよろい装備一式になります」

「それだけか……少ないな。もう少しどうにかならないか?」

「ハハッ、勘弁してください。これを持ち出すだけでも何回戦闘になったことか」

「まぁいい。ほら約束した金だ」

 グリーンアントの下端たちが商品の入った積み荷を受け取り、納品数を数えていく。

 取引をしていたギャングのリーダーは、まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のようにどこかウキウキしながら商品を確認する。

「これからどうなさるつもりですか?」

 ノワール家の人間が尋ねる。

「まずはこいつらを使って、アーク家に属していないゴロツキを掌握して兵隊にする。そして闇組織のトップをぶっつぶしてこの国を掌握する」

 トップに立ちたい。男なら誰もが夢見るものだ。

 仲間も増え、夢を可能にする魔道具も手に入れた。あとは駆け上がるだけだった。

「お前ら!! もうアーク家の時代じゃねぇ。俺らの時代だ! この国ひっくり返そうぜぇ!」

「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおお!」」」」

 約三百の人間による雄たけび。

 この瞬間、ライナナ国に一つの闇組織が誕生した。

 ズンッ

 その直後、謎の圧がカラーギャングたちを襲う。

 場が一斉に静まり返り冷や汗が流れる。

「誰の家の時代がもう終わったって?」

 声の主の方をみる。背が低く幼い顔立ち、まだ子供だった。

 だが、その見た目とは裏腹に圧倒的な圧力を感じた。

「ダーク・ホール」

 謎の子供が詠唱し、地面に闇が広がり闇から黒い手が大量に生えてギャングたちを引きずり込んでいく。

「な、なんだこれはー!」

「落ち着け! 闇魔法だ、魔法を逃れた者はあのガキを攻撃しろ!」

 運よく魔法を逃れた者たちが魔道具を手に取り反撃を試みる。

「「「ファイヤーランス」」」

 魔道具から出された炎のやりが少年に襲い掛かる。

「くたばりやがれ!」

 迫る魔法に動じず少年は手を前にだし、魔法を行使する。

「ダーク・ホール」

 少年の前に魔法陣が現れ、地面に広がっている闇と同じものが現れ魔法をみ込んでいく。

「ばっ、馬鹿な!」

「この魔法は魔力を持つすべてを吞み込む。私に魔法は通じない」

「くそ、もう一度だ!」

 もう一度攻撃を命令する……があの子供はもうどこにもいなかった。

「くそっ! どこ行きやがった!! 探……」

 ぼとっ。

 死角からの魔力の腕による手刀で、指示を出していたリーダー格の男の首が落ちた。

「ひ?! リーダー! 一体何が起きてるんだ」

 ぼと、……ぼと、ぼと……ぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼと。

 気づいたら立っていたカラーギャングたちの首がすべて落ちていく。

「これで、全員か……くだらない。何が陰の功労者だ。都合のいい便利屋じゃないか。やはり王家の下にいては駄目だ。力だ……力がいる。数の暴力にあらがえる力が!」

 ガタっ!

 アブソリュートは音の方を見る。まだ生き残りがいたようだ。

「ひっ! わ、私はあのノワール家の傘下の人間だぞ! 私に手を出せばノワール家が黙っていないぞ」

 ギャングたちと取引していた男だった。うまく隠れてアブソリュートの魔法から逃れていたらしい。

「ノワール家? 望むところだ。向こうからくるようなら相手になってやるよ。まぁその前にお前は死ぬがな」

「お前、一体何者だ! なんで……」

 男はまるで怪物を見るような目でアブソリュートを見る。アブソリュートは自嘲して男に答えた。

「私は悪だよ……お前らと一緒だ」

 そう言って生き残りにとどめを差した。

 その後現場を処理するために再び魔法を使う。

「ダーク・ホール」

 残った死体の後片付けをし、この場を後にした。





 夜遅く皆が寝静まった頃、アブソリュートは屋敷に戻った。

「お帰りなさいませ。ご主人様」

 いないと思っていた声にわずかに驚く。

「マリアか……寝ておけといったはずだがな」

 あきれてため息をつくが、

「ご主人様がこの国のためにお役目を果たしているのですもの。一番に迎えたかったんです」

 マリアは笑顔を見せるが、アブソリュートはマリアの言葉に驚く。

「貴様、それをどこで知った」

 アブソリュートはマリアをにらむ。

 あれはアーク家でも一部の者しか知らないはずだ。

「ウルです。あの子ご主人様を心配して私に話したんです。本当はウルも待っていたのですが眠気に負けてしまいました。それにしても驚きました。アーク家にそんな役目があったなんて……」

 マリアは悲しい顔でアブソリュートを見る。

「ウルのスキルの【索敵】か……あいつめ。後で余計な告げ口をしないよう叱っ……おい、なんだ?」

 マリアはアブソリュートをそっと抱きしめた。

「ご主人様はずっとこの国のために戦ってこられたのですね……まだこんなに小さいのに……っ」

 マリアの抱きしめる力が強まる。そのまま体に埋まりそうだ。

「私憎いです。国が……まだ子供のご主人様に戦わせる大人たちが! こんなのって!」

 マリアの感情が爆発する。普段感情を表さないアブソリュートの分まで彼女は怒っているのだ。

「マリア……私は大丈夫だ。見ての通りなんともない」

「いいえ。傷ついてます! 貴方あなたの心が!! それに気づかないくらい貴方はボロボロなんですよ」

 アブソリュートは苦笑いした。

 初めはアブソリュートも悪人とはいえ命を奪ってしまったことに心を痛めた。だがそれも徐々に薄まっている。慣れというものかと思ったが、それがボロボロすぎて痛みに鈍くなっているというのなら、おかしいのはアブソリュートの方なのだろう。

「否定はしない、だが今日はもう遅い早く寝よう」

「……まだ言いたいことはありますが、ご主人様に言うのは筋違いです。分かりました……それでは今日は一緒に寝ましょう」

「いらん……一人で寝る。入ってくるな」

 そう言って部屋に戻りアブソリュートは就寝した。



 次の日、起きたら柔らかい感触がした。

 今まで触ったことのない感触だ。柔らかく癖になる。なんだこれはと手を触れると、

「んっ、ご主人様♡ 一体どこでそんなこと覚えたんですか♪ いいですよ……お姉さんが受け止めてあげます!」

 マリアがベッドの中にいた。

 出ていけ!