私はホセ伯爵家の子息のクリス。
我が家はライナナ国にて奴隷業を
だが、将来的に不安な事があり日々頭を抱えていた。それはアーク家の長男アブソリュート様のことだった。
我が家はアーク家傘下の貴族であり何度かアーク家に赴き、顔を合わせたがどうも嫌悪感が拭えないのだ。
我が家は職業柄多くの領に赴き、商売をしてきた。中には同じくアーク家傘下の家で、同年代の子供がいる家には積極的に声をかけて仲良くしてきた。そうして培ったコミュニケーション能力では自信があるつもりだったが、アブソリュート様だけは仲良くできそうになかった。
父にも相談し、アーク家に行くときは欠席できないかを相談したこともあったが──
「クリス。奴隷商において最も大事な事はわかるな?」
「人を見る目を養うことですよね。何度もお聞きしました」
「お前がアブソリュート様についてどう思っているかは分かったが、もっと大局を見ろ。あの年にして、あの威圧感。将来はきっと大物になるだろう」
そう言って取り合ってもらえなかった。
理性では分かっているのだが、本能がどうしてもアブソリュート様を嫌がるのだ。私だけなのか、こっそり他の傘下の子息たちにも聞いてみたら皆同じ気持ちで安心したほどだ。
よかった。私の人を見る目は間違っていなかった。間違っていたのは父の方だ。
そう思っていた矢先、事件は起こった。
ミカエル王子の十歳の記念パーティーにて父と上位貴族に挨拶を終えた後、大人たちと分かれて子息や令嬢たちだけのフロアに向かった。
私は顔が広いので、同じアーク家傘下の子息や令嬢たちとの仲がよく、彼らの中心になって楽しく過ごしていた。
「おい、めでたい席の場に、なぜ貴様らのような汚らわしい家の者たちがいる?」
上位貴族の子息たちが声をかけ、私たちを囲むようにアーク家傘下の者たちは中央に孤立した。
ヤバイ囲まれてしまった。一番爵位の高い私が率先して声をあげる。
「私たちもライナナ国の貴族だ。パーティーへの参加にはなんの問題もないのでは?」
「確かにそうだ。だが、お前らのような汚らわしい職業を
囲んでいた者たちから笑いが溢れ出す。
プライドを刺激されてしまった私は、気づけば上位貴族の子息へ向かおうとしたがそれは
「おい。お前らコイツに身の程を教えてやれ」
両腕を抑えられた私は囲んでいた者たちからリンチを受けた。
「クリス?!」
「動くなっ!」
クルエル子爵の令嬢や何人かが止めに入ろうとしたが私は彼らを制止した。相手は上位貴族であり格下である私たちが何かすればどうなるか想像がつく。私が耐えれば他の者も手を出さないはずだ。そう考えその場は耐えようとした。だが何度も殴られ、蹴られもう感覚もなくなってきた。
(クソッ! どうしてこんな目に……)
意識を失いそうになるが、急に暴行が止み意識がはっきりした。すると
「……何をしている?」
声のする方を見ると、この圧の正体はアブソリュート様であった。
(凄い。まだ十歳でここまでの圧力を出すなんて)
人垣が自然とアブソリュート様を避け、私たちを守るように上位貴族との間に立った。私たちを庇う背中を見て、とてもアブソリュート様が大きく見えた。
「もう一度言う。彼らはアーク家傘下の者たちだが、お前らは彼らに何をした。返答次第では許さんぞ」
静かだが怒気の含まれた声に加えてさらに放たれる圧が増した。
囲んでいた上位貴族たちは圧力に耐えられず逃げ出していく。逃げ出す貴族たちの姿を見てアブソリュート様が私たちに向き直った。今度は私たちに圧が放たれてアブソリュート様の怒りが向けられたのが分かった。私はすぐさま膝を折った。
「ア……アブソリュート様助けていただきありがとうございました。そしてアーク家に泥を塗ってしまい……申し訳ございませんでした」
アブソリュート様が動いた。
(ヤバイ殺される)
私はその時を待つようにギュッと目を閉じたが、アブソリュート様の手が肩に置かれた瞬間私の傷が治っていくのが分かった。
(これは回復魔法?! 魔法や剣はかなりの才能があると聞いてはいたが回復魔法まで使えるとは……)
「お前はホセ伯爵家のクリスだったな。酷い姿だったではないか」
声をかけられたがこれは怒っているのだろう。未だに圧が放たれている。
「はっ! お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございませんでした。相手は上位貴族が多くいたので反抗するわけにもいかず、結果エスカレートしてしまいました。全ての責任は私にあります。どうか他の者への罰はご容赦を!」
私の謝罪と嘆願の後、クルエル子爵令嬢たちが私をフォローしてくれた。そしてアブソリュート様から声が放たれる。
「話は分かった。だが、今回の件はクリスだけでも他の者たちだけでないお前ら全員の過失である。なぜだか分かるか? 代表してクリス、答えよ」
嘆願が届かなかったようだ。震える声で質問に答える。
「そ、それは私たちが相手に下位貴族だからと舐められたからでしょうか?」
「それもあるが、私たちの評判が悪いのはあらかじめ分かっていたはずだ。それなのになぜお前らはせっせとこの場に集まった? 上位貴族のいないお前たちだけでは標的にされるのは分かっていただろう」
確かにその通りだ。だが、ここまで自分たちが目の敵にされていたなんて思わなかったのだ。私は泣き出しそうになりながら言った。
「それならば一体どうしろとおっしゃるのですか!」
爵位の低い私たちでは上位の者に逆らえないのだ。だが、そんな考えを吹き飛ばすようにアブソリュート様は言った。
「なぜ私を待たなかった?」
「え……?」
「今回の一件は先ほどクリスが言ったようにお前らが下位で相手が上位故に起こったことだ。ならもしその場に私がいたらどうだ? 先ほどのようにアイツらの好きにはさせなかったはずだ」
その通りだ。だが私たちは皆アブソリュート様を嫌悪していた。アブソリュート様を避けるように行動したせいで騒ぎを起こしてしまったのだ。
「さて、今回の一件貴様らにも責任があるのは話した通りだ。よって罰を与える」
一瞬死を覚悟したが、それは意外なものとなった。
「今後、こういった催しや学園へ入った時はなるべく私の目の届く所にいるようにしろ。それをもって今回の罰とする」
驚愕した。実質お
迎えが来てアブソリュート様は戻っていったが、彼が去った後も私は涙が止まらなかった。
パーティーが終わり屋敷に戻った後、父に今日起こった事を話した。
父は何も言わずに最後まで私の話を聞き終えると私に告げた。
「お前がアブソリュート様を嫌っていたのは知っている。だが、思い返してみろ。アブソリュート様はお前に何かしたか?」
私は、首を横に振る。確かにアブソリュート様から暴力や中傷を受けた覚えもない。会話も淡泊なものだったが今思い返してみれば普通のものだった。
父は重ねて言う。
「この話は内密なものだ、他言するなよ。実はアブソリュート様は自らのスキルによって他人への印象が悪くなってしまうのだ。だから私はお前に何度も人を見る目を養えと言ってきた。スキルに惑わされず、アブソリュート様の人柄を見て判断して欲しかったのだ」
「そのようなスキルがあるなんて……どうして言ってくれなかったのですか!」
スキルについて事前に知っていればアブソリュート様への対応も変わっていたかもしれない。そう思うと言わずにはいられなかった。
「頭を冷やせ、クリスよ。個人のスキルの詳細はプライバシーに関わるものだ。上位貴族なら
「分かってはいます。ですが、それだとアブソリュート様の周りはっ!」
「友人はおろか、味方をつくるのも難しいだろうな。だから、私たち当主にはスキルについてあらかじめ聞かされ、お前たち、子供には人柄でアブソリュート様を見るように伝えたのだ。特にお前には口酸っぱく言ってきた。お前は同年代の傘下の中で最も慕われていたからな。お前を通じて少しでもアブソリュート様への見方が変わればと思っていたのだ」
私はその言葉を聞き絶望した。私はアブソリュート様に嫌悪感を持ち同年代の友人たちにその考えを同調させてしまった。
「あぁ……私はなんてことを」
私がアブソリュート様を独りにさせてしまったのだ。
涙が止まらなかった。あの強くてどこか優しさを感じさせた彼には味方が誰もいない。
どれほど
父は私の背中をさすりながら言った。
「お前たちはアブソリュート様を見放したが、アブソリュート様はそんなお前たちを見放さなかった。クリスは今後彼にどう報いる?」
私の覚悟は決まっていた。あの上位貴族らしく傲慢そうだが、どこか優しさを感じさせる彼をもう独りになんかさせない。
「私はもうアブソリュート様を絶対に見放しません。アブソリュート様の周りを味方で埋め尽くします。それがアブソリュート様への私の責任です」
それを聞き父は嬉しそうに
(まずは、同じ考えを持ってくれる味方を探そう。頭のよいクルエル子爵令嬢は同じ考えを持ってくれるかもしれない)
そうしてクリスは動きだしたのだった。