ミカエル王子の記念パーティーはアーク領を離れ、ライナナ国中心部の王都にある王城にて行われた。

 私こと、アブソリュートは父ヴィランと共に王とミカエル王子に賛辞を述べ、挨拶にくる貴族たちをさばいていた。黒いうわさはあるがアーク公爵は上位貴族であるため嫌々ながらも下位の貴族たちは来なければならないのだ。

 中には傘下の貴族が子息を連れて挨拶に来るが想定通り私はスキル【絶対悪】のせいで、貴族の子息たちは私を怖がっているようだ。仕方なく近づいてきた者にはこちらから話しかけるが、虫取り草に捕まったかのように硬直するものがほとんどだった。それでも地道に声をかける。それが破滅を回避する方法だと思ったからだ。

 そして大体の挨拶回りが済んだころ、父から後は大人の席だからと大人たちとは分けられて子息たちが集まるフロアに通される。

 中には既に多くの貴族の子息や令嬢が集められており、遅れてきた私に視線が集まった。

 忌避の視線や侮蔑の視線が集まるが、いい心地がしなかったので逆に睨み返すと皆一斉に目をらした。

「ふん」

 たわいないと少し鼻で笑う。少し辺りを見渡すと何人かの子息や令嬢がからまれているのが分かる。よく見るとそれはアーク公爵家傘下の者たちだ。



「お前らの家、闇組織とつながっているんだろ! よく祝いの席に顔を出せたものだな。今すぐ立ち去れ!」

「そうだ! そうだ!」

 アーク家傘下の者たちを囲んで罵声を浴びせる。

 囲まれている傘下の者たちは下位の貴族の者が多く、歯を食いしばって耐える者もいれば泣き出す者もいた。

 中には抵抗したがボコボコにされている者もいる。

 アブソリュートは冷たい目でその光景を見つめる。

(不愉快だな。数の暴力に酔っているだけの雑魚ざこが調子に乗りやがって)

 アブソリュートは原作での己の最後と、今の光景を無意識に重ねてしまう。圧倒的な数の差で負けたアブソリュートの姿と、今の傘下の者たちの姿を。

 考えるまでもなく、すぐさまアブソリュートは止めに入っていた。

「……何をしている?」

 スキル【王の覇道】の威圧を発動し、囲んでいた貴族たちの中に入り傘下の者たちをかばうように間に入った。

「もう一度言う。彼らはアーク家傘下の者たちだが、お前らは彼らに何をした? 返答次第では許さんぞ」

 怒気を交えながら言うが、囲んでいた貴族たちは王の覇道の威圧に加えて【絶対悪】の印象補正により恐ろしさに拍車がかかったのか、中には失禁や気を失う者もいた。

 誰も返答をしないので一番爵位の高い候爵家の子息に顔を向けて言い放つ。

「アーク家の傘下の者たちに手を出したということは、アーク家にけんを売ったということだな? お前らの顔は覚えたからな。首を洗って待っていろよ?」

「う、うわぁぁぁぁぁっ!!

 恐怖が限界に達した貴族たちは一斉に逃げ出していった。

 アブソリュートは傘下の者たちに向き直る。傘下の者たちに顔を向けると、途端に彼らは顔色を変え、恐怖のあまり立ちすくみ後ずさるものもいた。

 当の本人はその様子を見て威圧を解くのを忘れていたことに気が付いた。

(あっ、威圧解くの忘れていた。解除!)

「ア……アブソリュート様助けていただき……ありがとうございました。そしてアーク派閥の名に泥を塗ってしまい……申し訳ございませんでした」

 代表して暴力を受けた伯爵家の子息が膝を折り陳謝した。その姿を見て周りの者たちも慌てて膝を折ろうとしたが、俺は手でそれを制止する。

 膝を折った伯爵家の子息の肩に手を置き回復魔法を使う。伯爵家の子息や周りの者たちはアブソリュートが回復魔法をかけたことに驚き、どよめいた。

 アブソリュートは、膝を折る目の前の伯爵家の子息に声をかけた。

「お前はホセ伯爵家のクリスだったな。ひどい姿だったではないか?」

 遠回しに心配する。

「はっ! お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございませんでした。相手は上位貴族が多くいたので反抗するわけにもいかず、結果エスカレートしてしまいました。すべての責任は私にあります。どうか他の者への罰はご容赦を……」

 それを聴き一人の傘下の令嬢が割って入る。

「間から失礼します。クルエル子爵家のレディ・クルエルと申します。クリス様は私たちを庇ってをされました。責任は私たちにあります。どうかクリス様への罰はご容赦を!」

 他の者たちも一斉にこうべを垂れて許しを乞うた。その光景に若干複雑な気分になる。

(クリス私より人望あるじゃん。べっ、別にうらやましくなんかないのだからね!)

 だが今回、なぜこのようなことが起こったのか。そこを改善しない限り一人を罰しても解決しない。アブソリュートはこの問題を次期当主として解決を試みる。

「話は分かった。だが、今回の件はクリスだけでも他の者たちだけでない。お前ら全員の過失である。なぜだか分かるか? 代表してクリス答えよ」

「そ、それは私たちが相手に下位貴族だからとめられたからでしょうか?」

「それもあるが、私たちの評判が悪いのはあらかじめ分かっていたはずだ。それにもかかわらずなぜお前らはせっせとこの場に集まった? 上位貴族のいないお前たちだけでは標的にされるのは分かっていただろう」

「……それならば、一体どうしろとおっしゃるのですか!」

 アブソリュートの言葉にクリスが悔しさをにじませて言いはなった。

 その顔は悲痛な感情をあらわにしており、こちらを見つめている。

 アブソリュートはそんなクリスに告げる。

「なぜ私を待たなかった?」

「え……?」

「今回の一件は先ほどクリスが言ったように、お前らが下位で相手が上位故に起こったことだ。ならもし、その場に私がいたらどうだ? 先ほどのようにアイツらの好きにはさせなかったはずだ」



(全員が私の話を聞いている。今回は相手が圧倒的に悪いが、俺がまだ他の貴族からの挨拶も終わっていないのに怖いからってさっさと行っちゃったコイツらも少し責任がある。故に罰を与える)

「さて、今回の一件貴様らにも責任があるのは話した通りだ。よって罰を与える」

 全員が肩を震わせた。中には覚悟を決めた者、泣き出しそうな者もいた。

「今後、こういった催しや学園へ入った時はなるべく私の目の届く所にいるようにしろ。それをもって今回の罰とする」

 意外な結末に全員がきょうがくの表情を浮かべる。

(まぁ、俺みたいな奴と一緒にいるのは嫌だろうが仕方ないから我慢しろ。もしかしたら守れなかった奴から裏切っていく可能性もあるからな)



「勘違いするな。これはアーク家のためだ。決してお前らを守るためではないからな。……迎えが来たようだ。お前らももう親の元へ戻れ。次回からは勝手に離れるなよ」

 それだけを言い残してアブソリュートはこの場を去り、波乱のパーティーは幕を閉じた。