重いまぶたを開くと、視界には見覚えのない天井が映った。

 かなり広めの西洋感あふれた空間を見渡すと近くから声が聞こえてくる。

「お帰りなさいませ、旦那様。こちらがご子息様です」

 声の主は六十歳くらいの高齢の女性。そして……メイド服を着ていた。

 日本では着る者を選ぶと言われるメイド服を身に着けた老婦が、黒髪のこわもての男に声をかける。

(あの男の人どこかで見覚えがあるような……誰だっけなぁ。それにしてもなんだ? あのバアさんは……)

 日本でも高齢化が進むと、あんな老婦でもメイドとして需要が出るのかもしれない。と変なことを考えてしまう。一応言っておくが、決してあの老婦の悪口を言っているわけではない。むしろメイド服を着こなしている彼女に感服したくらいだ。

 あの年でメイド服を着ている老婦のせいで頭の中が余計こんがらがるが、私の体が縮んでいるのは分かった。

「そうか、ようやく会えたな。それにしても赤子にしてこの魔力……恐ろしいな。それにスキルは【カリスマ】に【王の覇道】、そして【絶対悪】か。上に立つ者としては申し分ないスキルだな。それにアーク家の魔法との相性もいい。だが、【絶対悪】か。力を得る代償に嫌われるスキル……これからお前の人生はいばらの道となるだろう。名をアブソリュートと名付ける。アブソリュートよ、己のきょうとあり方を大切に生きろ」

(アブソリュート? 今、アブソリュートって言ったか? それにアーク家とも……アブソリュート・アークって確か前に読んだことのあるファンタジー小説の『ライナナ国物語』に出てくる悪役だよな。国の裏側で悪行を働くのがアーク家で、それを見かねた主人公によって滅ぼされるって設定だったはず……ってことは俺、小説のキャラに転生しちゃったのか。ということは、さっきの男はアブソリュートの父親か! 原作では見たことないけどアブソリュートとそっくりだな)

 アブソリュート・アークはごうまんでプライドは高いが、それに見合った実力は持っており、多種多様の魔法が使えるのに加えて剣や頭の良さを持ち合わせていた。ちなみに黒髪に、大陸では珍しい赤い瞳が特徴のイケメンでもある。

 だが、そんなアブソリュート・アークにも弱点はあった。それは彼には味方がいなかったのだ。組織としては王国の闇組織をほぼ掌握していたが、一部の傘下の貴族が主人公側に裏切り、他の者たちも状況が悪くなるにつれて一人、また一人と離れていった。

 その結果、主人公たちと戦う時にはアブソリュート一人となり圧倒的な勢力を持つ主人公側に殺されてしまうのが彼の運命である。

(……マジかぁ。ある意味孤独死じゃないか。小説読んでいた時はある意味同情しちゃったよなぁ。だって味方に裏切られてリンチで殺されるんだぜ? 主人公側結構えげつねぇなぁ…。

 さてどうするか、このままストーリーが進むと勇者に殺される。選択肢は二つ


1.改心して主人公と仲良くする

いや、小説は好きだったけど主人公は嫌いだったからそれは絶対生理的に無理。

2.悪役として主人公をぶちのめす

ストーリーが始まる前に不安要素を消して万全の準備をして打ちのめす。


 絶対2だな、私勇者嫌いだし。

 この世界での方針は決まった。悪役として生まれたからには原作通り悪役になってやろう。だが、負けてなんかやらない。絶対悪として主人公を打ちのめす。)

 悪役として主人公に打ち勝つ、そう心に誓い重くなってきた瞼をゆっくりと閉じたのだった。